ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第115話 : 失言

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「それにしてもウケるよな、今日の『タイガー』のあいつ!」

土屋たちとの忘年会が始まって2時間ほど経った頃。
黙々と飲んでいたせいか、この時優司はだいぶ酔っ払っていた。

そんな中、丸島が柿崎に向かって不意に話を振った。
それを受け、柿崎が喋りだす。

「ああ、あいつ? あの携帯パクられた奴でしょ?」

「そうそう。
 あのバカ、朝一で狙い台に携帯置いたまではよかったけど、呑気に両替に行きやがってさ。
 で、その台は夏目が予想した設定6濃厚台だったもんで、いつも通りサクっと撤去したんだよな。
 ま、撤去っつっても、置いてあった携帯を俺らがパクってゴミ箱捨ててるだけだけどな! ハァーッハッハッハ!」

(えっ……?)

思わず優司が顔を歪めた。

酔っ払っていたせいもあってか、よく考えもせず反射的に丸島に質問をする優司。

「ちょ、ちょっとさ、今の話ってどういうこと?」

「お? なんだよ夏目、気になるのか?
 珍しいなぁ、お前が積極的に話に加わってくるなんて」

「そんなことはどうでもいいからさ、どういうことなの今のって。人が台確保のために置いておいた携帯を捨てたって?」

「そうだよ。お前がせっかく予想した6濃厚台にちゃっかり携帯置いてやがってさ。
 予想台は俺らが打つべきだろ? 今や俺らがこの街のスロ屋の法律なんだからな! ハァーッハッハッハ!」

「な、何言ってんの……? そんなことしていいわけ――」

「あん? なんだよ、何か言いたそうだな?
 今更何をこんなことでイチャモンつけようとしてんだ?
 この街に来てから1ヶ月、ずーっとやってきたことだぜ? 
 まあ、最近になってようやく俺らの仕業だってわかって、たまに文句言ってくる奴もいるけどな。
 でも、そういう奴は裏に呼び出してボコればいいだけだ。簡単だろ?」

「…………」

「お前が予想した台をきっちり打ち子たちに取らせるためには、こういう手段も仕方ねぇんだよ。
 朝に弱い打ち子たちが多くて、ほとんどの奴らは開店ギリギリにホールへ行くからな」

「…………」

「だから、こういう手段も使っていかないと、お前の予想した6濃厚台をきっちり取れない場合もあるんだよ。
 それならしょうがないだろ? 何を甘いこと言ってんだお前は?」

(こ、こいつら…………)

信じ難い、という表情のまま固まる優司。
さすがに、そこまで傍若無人な振る舞いをするとは予想していなかったのだ。

今の会話を聞いていた土屋たちも、特に驚いた顔はしていない。

皆知っていたのだ。
むしろ当然だと思っている雰囲気すらある。

「…………もうイヤだ…………」

こぼれるように出てきた言葉だった。

「あん? 何がイヤなんだ?
 何言ってんだよお前」

「うるさい。黙っててくれ…………」

「なんだと?」

途端に気色ばむ丸島。
だが、そんな丸島を無視して、優司は土屋の方へ顔を向けた。

「土屋、あんたに言ってるんだよ」

「ん? 俺?」

「そうだ……」

一気に場の空気が凍り付いていった。



◇◇◇◇◇◇



「おいおい、随分おっかない顔してんなぁ。どうしたんだよ夏目?」

やや沈黙があった後、土屋が飄々とした態度で返事をした。
すかさず優司が強い口調で食ってかかる。

「もういい加減にしてくれ!
 大体俺は、あんたらが1年前にやった本当のことだって、つい最近知ったんだ。
 暴力を使ってバカみたいに暴れてたらしいじゃないか。
 それで、見るに見かねた神崎がやむなくパチスロ勝負を申し込んできた、って。俺の聞いてた話と全然違う!」

「……」

「それに、変な噂まで流してるみたいだな? 俺が、土屋たちが過去にしてきたことを全部承知した上で手を組んでる、みたいな根も葉もない噂を」

「それをどこで誰に聞いた?」

「そんなことはどうだっていいだろ? 嘘ばっかりつきやがって!
 この間の報酬の件だってそうだ! なんだよ10万って? バカにするにも程があるよ!」

「……」

「俺を繋ぎとめておきたいんだろ? 打ち子たちに高設定を打たせるために。
 だったら、もうちょっと誠意ある態度を取ってくれよな!
 まずは、この街の人間に暴力を振るったりするのは今後一切やめてくれ!
 あと、神崎との勝負も直近で組んでくれ!
 もしこの条件を飲めないようなら、俺は二度とお前らのための設定予測なんてしないからなっ!」

興奮する優司を尻目に、土屋は落ち着きを保っていた。

「……で、もしその条件を飲めない、っつったらどうするんだ?」

「もちろん……俺はここを抜けて、日高たちのところへ戻る」

「へぇ、そんなことが出来ると思ってんだ? 随分と平和な奴だなぁ、お前は」

「簡単じゃないけど、なんとかなるよ。余計なお世話だ」

「なんとかなると思ってんだ。やっぱり平和な奴だなお前は」

「……?」

「バカだな、お前。
 今『自分が真実を知っている』ってのを俺らに話してどうするんだ? 俺らが1年前にやったことを本当は知ってて、噂を流されてることも知ってる。なぜなら、それを誰かに聞いたから。
 ……この情報は、俺達に知られたらまずいんじゃないのか?」

「……?」

「確かに、その情報を俺達が知らなけりゃ、お前はうまいこと日高たちと元に戻れたかもな。
 お前に真実を話した人間……仮にXとでもしとこうか。このXを連れて行き、『変な噂が流れてたけど、俺は何も知らずに土屋達と組まされてたんだ』とでも言って、連れて来たXに証言してもらえば日高も信じるかもしれないから」

「……何が言いたい?」

「でもな、俺がまた同じことをしたらどうする?」

「同じこと……?」

「確かに今までの夏目は、何も知らずに俺達と組んでいた。ところがお前は、最近になって誰かに真実を教えられた。俺という人間がどういう人間かわかり、俺が過去にやった本当のことも知った。
 でもっ! それでもお前は、神崎との勝負がしたいからそのまま俺達のところに居残り、今もこうして仲良く忘年会に参加してる。日高をボコボコにしたような連中と知りながら。
 ……今度はこんな噂が広がったらどうだ?」

「あっ…………」

「ま、噂っつーか真実だけどな。実際こうして飲んでるわけだし」

「ち、違うっ!
 それは……今戻っても……いろいろうまくいかないことがあって……それで……」

明らかに狼狽する優司。
酔っ払ってしまい、よく考えもせずに思ったことを口走ってしまった自分の失敗を激しく悔やんだ。

「何言ってんだか全然わかんねぇよ。
 とにかく、お前にいくら言い分があろうとも、俺達がどういう人間なのかを知ってここに居続けたことは間違いないんだ。
 今までは、確かに知らずに一緒にいたよな。ここまでは日高たちも信じてくれるかもしんねぇ。
 でも、これから流す噂を日高たちが耳にしたら……わかるよな? もうお前なんて信じてくれねぇぞ?
 お前に真実を伝えた証人Xだって、今度流す噂についてはフォローしてくれないだろうしな」

次第に優司の顔が青ざめていった。 
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