ゴーストスロッター

クランキー

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【第5章(最終章)】

■第110話 : 虚脱

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嫌な夢を見て気分が落ち込んでしまったものの、無理矢理自分に気合を入れ、なんとか元気を取り戻そうとする優司。

この日は、10:00に土屋たちと東口の『マーブル』という喫茶店で待ち合わせをしていた。
報酬の受け渡しの為に。

寝そべりながら時計に目をやると、まだ9:00。
このマンガ喫茶からマーブルまでは、15分もあれば到着する。

時間に余裕があることを確認した優司は、なんとなく手元にあった携帯を取り上げ、いじりだした。

そして、何の気になしにアドレス帳を開き、無造作に操作していると、不意に日高の名前が目に飛び込んできた。

その名を見てピタリと携帯を操作する手を止め、物思いに耽る。

(日高たちは、俺のことどう思ってるかな……。
 少なくとも、なんの挨拶もなく離れていって、見知らぬ奴らと組んでる俺に対して良くは思ってないよな。
 土屋たちに言われたからとはいえ、勝手に電話番号まで変えちゃったし。
 俺としても、神崎に勝つまでは日高たちのところへは帰らない、っていう決意表明のつもりだったけど……。
 やっぱりまずかったかな。連絡くらい入れるべきだったかな)

俯きながら、大きくため息をつく。

(でも……俺にだって意地がある。このままおめおめと戻れない。
 ここまで日高たちの忠告に逆らって、無理矢理スロ勝負を続けてきたんだからな。
 ちゃんと自分なりのケジメをつけないと。
 土屋たちみたいなよくわからない連中とツルんででも、なんとか神崎との勝負を成立させるんだ。
 そして……勝つ。絶対に。そうすれば、全てが元通りになるはず。
 神崎に勝てば、もうスロ勝負なんてしなくていい。金にも余裕ができるから、ヒキ弱なんてとりあえずは気にしなくていい。
 まずはみんなと一緒に好き勝手打ち回って、夜は串丸でみんなと騒いで……。
 またあの生活が戻ってくるんだ……)

宙を見つめながら、いつのまにか笑顔になっていた。
心の底から湧き出た、実に自然な微笑みだった。

(よし……行こう! まずは目先のことをこなしていかないと)

スクっと立ち上がり、待ち合わせている喫茶店『マーブル』へ向かう準備を始める優司だった。



◇◇◇◇◇◇



「よぉ、来たか」

ほぼ10:00ぴったりに喫茶店『マーブル』へ到着すると、店の前には既に土屋・丸島・柿崎の3人が待っていた。

3人に、無言のまま目で挨拶を済ませる優司。

「よし、じゃあとりあえず中に入るか。
 おい柿崎、4人分のホットコーヒーを頼んでおいてくれ。俺ら、先に席に座ってっから」

「了解!」

そう言って、柿崎は勢いよくカウンターの方へ歩いていった。

「夏目もホットでよかったよな?」

「うん、大丈夫」

「オッケー。じゃあ、俺らは先に座っとこうぜ」

土屋は、店内をグルリと見渡した後、座り心地の良さそうなソファーが設置されている席が空いているのを発見し、迷わずそこへ向かって歩き出した。



◇◇◇◇◇◇



「さてと……。今日は報酬を渡す日だよな、夏目?」

柿崎が4人分のホットコーヒーをお盆に乗せて席に戻ってくると、土屋はすぐさま優司に向かって話しだした。

「ああ、そうだね。待ちに待ってたよ」

優司は、プレッシャーをかける意味でも正面に座っている土屋に向かってあえてそう言った。
柿崎は優司の隣り、丸島は土屋の隣りに座っている。

「そっか。まあそうだよな。
 このサラリーを貰うために、ここまで頑張って設定推測をしてきたわけだしな」

「…………」

「それで……渡す額なんだけどよ」

きた! と優司は咄嗟に身構えた。

当初の約束では1000万という話だった。
しかし現状、当初予定していた打ち子50人というのは到底達成できていなさそうだし、そもそも最初の頃は10人しか打ち子がいなかったことは優司も知っているので、約束通りの額を渡してくることはないと予想していた。

問題は、どれくらい下がるか。
ここが優司にとって気になるポイント。

土屋は、優司の様子を気にすることなく言葉を続けた。

「まあ……最初は確か1000万って言ってたよな?
 でも、お前も見ててわかってると思うけど、まだ打ち子がそんなに集まってなくてな。
 今でも30人くらいなんだ。
 しかも、これだけ柿崎が頑張って管理してるにも関わらず、どうやら出玉をチョロまかしてるやつがいるみたいでなぁ。
 あれだけ6を掴んでんのに、一人あたりの勝ち額が思うように上がってこないんだよ」

「出玉をチョロまかしてる……?」

顔をしかめながら優司は質問をした。

土屋は、全く動揺を見せず悠々とそれに返答する。

「そうなんだよ。勝手に途中でタバコとかジュースに変えたり、途中交換して最終的な出玉に加えなかったりしてな。勝ち額の平均を見てみると、明らかにあがってくる金が少ないんだ」

「……」

「だから……悪いんだけどよ、今回の月収はこれで勘弁してくれないか?
 次からは約束してた1000万って額か、もしくはそれに近い額を渡すからさ!」

そう言って土屋は、テーブルの上に封筒を置いた。

すぐにその封筒へ手を伸ばし、中身を確かめる優司。
すると、中には10枚の1万円札が入っていた。

「……もしかして、この10万円が俺の今月の報酬?」

青ざめながら、呟くように土屋に問いかけた優司。

「そうだよ。話の流れでわかるだろ?」

「つまり……1000万って言われてた報酬が、今回は10万ってこと?」

「そういうことになるな」

土屋は、高圧的な声でそう言った。
隣りにいる柿崎も、斜向かいにいる丸島も、優司を激しく睨んでいる。

予想を遥かに超えるひどい状況に絶望し、無言のまま表情を歪めて俯いてしまう優司。

(こ、こんな奴らに……少しでも期待をした……俺がバカだった……。
 結局こいつらは、まともに報酬を払うつもりなんてなかったんだ。出玉のチョロまかしなんてのもうさんくさい。
 わざわざ柿崎みたいな打ち子管理人を呼び寄せてまで管理してるのに、そう簡単にチョロまかしなんてされるわけない。
 ……結局、俺が人を見る目がなかったってことか。
 ははは……最悪だよ……。何やってんだろう俺は……。
 いくらお勉強ができても、人を見抜く目も持てないようじゃどうしようもないよな……。
 丸々一ヶ月の間、馬車馬のように動いて、その報酬がたったの10万円……。
 普通にファミレスとかでアルバイトしてた方がいい金もらえるじゃん。ははは……)」

絶望が度を超え、思わず笑いすらこぼれてきた。
人間、絶望しすぎると思わず笑ってしまうこともあるもの。

「ん? 何をニヤニヤしてんだ?
 あ、そうか! 百戦錬磨の夏目優司でも、やっぱり現金で10万円も渡されたらさすがにニヤけちまうかっ?」

柿崎が無神経に口を挟んできた。
土屋と丸島は、黙って優司の様子を窺っている。

「……わかったよ。
 そういう事情なら報酬が10万円に減っても仕方ないね。今回は諦めるよ。次回に期待だね」

表情を戻し、精一杯平静を装いながら無難に会話をまとめようとする優司。

柿崎は素直に優司が納得したと受け取っていたが、土屋と丸島はそれが演技だと見抜いていた。
見抜いた上で、それに乗るような形で答える土屋。

「そうか。わかってくれたか。
 そういうことだからよ。来月からはちゃんと渡せる予定だから。その頃には打ち子の数も管理も整ってるからさ」

「…………」

「あと、神崎との勝負もそろそろ目処がつきそうだぜ。2週間以内にはイケると思うから安心しろよ」

「えッ……?」

優司は、思わず頓狂な声をあげた。 
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