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【第4章】
■第96話 : 恫喝
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(全く……。本当にどうしようもないわね、あの男は)
公園を出た後、先ほどまでの優司とのやりとりを思い浮かべながら、駅の方へ向かって歩く御子神。
(でも……。
いくら和弥のためとはいえ、待ち合わせまでして優司君を逃がさないようにするなんて我ながら変よね。
男として、人間として、彼にはなんの魅力も感じないのに、なんでなのかな……?
どこか放っておけない感じがする、とか……?)
自分の行動を奇異に感じ始めている御子神だった。
(9割くらいは、和弥に少しでも振り向いて欲しいっていう目的でやってるけど、1割くらいは優司君の危うさをどこか放っておけない、っていうのがあるのかな。自分ではそんなつもりは全くないのに。不思議なものね)
不毛なパチスロ勝負に取りつかれてしまっていることに加え、元彼女を利用されて辛い目に遭っていたところも直で目撃した。
そんなことが影響して、同情心が芽生えているのかもしれない、とも考え始める御子神だった。
◇◇◇◇◇◇
御子神が去った後の公園。
優司は、一人ベンチに座ったまま、物思いに耽っていた。
(御子神は一体どういうつもりなんだろう……?)
彼女の行動について、優司もまた思い悩んでいた。
(チラっとそう思っては、やっぱり違うと打ち消してきたけど……。
もしかしたら本当に、少しは俺のことを……)
目当てのパチスロ勝負の状況については芳しくないのに、なぜか軽くほんわかとした気分になってしまう優司。
(今は、俺のやること為すこと否定してくるからついついあんな態度を取っちゃうけど、でも、あれだけの美人と付き合えるなんてことになったら……)
ついつい妄想が飛躍していくが、ここでハッと我に返った。
(な、何を考えてんだ俺は! 今はそれどころじゃないだろ。
まずは、とにもかくにも乾のことだ。
でも、その乾の件が……まずいんだよなぁ……。うまいこと乾の知り合いと会えて、一応勝負の依頼はしておいたけど……あんなんで本当に勝負なんてできるのか? 彼ら、明らかに迷惑そうにしてたしなぁ……。
あー、もうっ! どうすりゃいいんだよっ?)
自分のやるべきことを思い出し、再び落ち込みだす優司。
ベンチに腰掛けた姿勢のまま大きくうなだれ、ため息をついて目を閉じた。
その時だった。
前方に何やら気配を感じた。
反射的に顔を上げる優司。
するとそこには、つい先ほど会話を交わした乾の知り合いたちがいた。
いつの間にか、五人の男に取り囲まれていた。
「よぉ。ちょっといいか?」
話しかけてきたのは、先ほども会話の中心となっていたリーダー格っぽい角刈りの男。
「な、何……?」
男達の表情が一様に威圧的だったため、優司は思わずたじろいでしまった。
そんな優司の様子など無視し、話を続ける角刈り。
「いいからさ、とりあえず立てよ。ほら」
そう言って、角刈りは優司の襟元を掴み、無理矢理立ち上がらせた。
最初は軽く抗おうとした優司だが、相手の予想外に強靭な腕力に為す術もなく、立ち上がらざるを得なかった。
「なんで俺らがこうしてここに来たかわかるか?」
ドスの利いた声で優司に問いかける角刈り。
襟元はまだ掴んだまま。
「い、いや……よく……わからないけど……」
薄々は気付きつつも、しらばっくれてみた。
しかし次の瞬間、角刈りの声量が一気に上がった。
「ふざけんなオラァーッ! わからないだァッ? ああッ?」
その迫力に、思わず目を伏せてしまう優司。
体は、小刻みに震えていた。
勢いに乗り、角刈りは言葉を続ける。
「お前なァ、ルイさんには迷惑かけるは、乾さんにはかったるい勝負仕掛けようとするは、なんなんだよッ?
ああ? ナメてんのか?」
「…………」
「あの二人はなぁ、お前みたいにヒマじゃねぇんだよッ!
お前のくだらないお遊びに付き合ってる時間なんてねぇの。わかるか?」
「…………」
「わかるかって聞いてんだよッ!」
誰も居ない公園内に響き渡る怒号。
優司は、あまりの恐怖で返事もできない状態。
五人ともいかつい体格と顔をしており、普通に街で出会ったら確実に避けて通るような風貌の男達だ。
そんな男達に囲みを喰らい、かつ、人生で初めて味わうような恫喝を受けている。
エリート街道を歩いてきた優司にとって、こんな状況は無縁だった。
恐怖で固まってしまうのも仕方がないと言える。
「おい、何を黙りこくってんだよテメェ。返事くらいしろよ。あ?」
顔を近づけつつ声を落とし、ただただ低い声で優司に詰め寄る角刈り。
「…………わ、悪かったよ」
なんとか搾り出した言葉だった。
臆病で気が小さい人間ほど、こういう時に素直に下手には出れないもの。
どこか意地を張ってしまうのだ。
「なんだその態度は? あッ? 何タメ口きいてんだよッ?」
うっすらと視線をはずしながら、無言のままでいる優司。
「おい、聞いてんのか?」
「…………」
「わかったのかって聞いてんだろ? お前がどれだけ迷惑なことやってるかってことをよ。ああッ?」
「……わかって……ます」
消え入りそうな声で呟く優司。
「ちっ! もっとはっきり喋れよな? ったくよぉ」
角刈りは、そう言って掴み続けていた襟元を離し、少し優司と距離を取った。
「じゃあ、二度と乾さんにパチスロ勝負なんつーくだらないモン仕掛けようとすんなよ? 次そんなことがあったら、とんでもない目に遭わすから覚悟してろよ?」
「はい…………」
「よぉし。わかりゃいいよ」
「…………」
「ったくよぉ、そういうガキくさい遊びはお友達同士でやってろってんだよ。
……じゃあ俺ら帰るけどよ、もう二度と余計なことすんじゃねぇぞ。わかったな?」
「わかりました…………」
優司の返事を聞くと、五人とも無言で踵を返し、公園を出て行った。
公園を出た後、先ほどまでの優司とのやりとりを思い浮かべながら、駅の方へ向かって歩く御子神。
(でも……。
いくら和弥のためとはいえ、待ち合わせまでして優司君を逃がさないようにするなんて我ながら変よね。
男として、人間として、彼にはなんの魅力も感じないのに、なんでなのかな……?
どこか放っておけない感じがする、とか……?)
自分の行動を奇異に感じ始めている御子神だった。
(9割くらいは、和弥に少しでも振り向いて欲しいっていう目的でやってるけど、1割くらいは優司君の危うさをどこか放っておけない、っていうのがあるのかな。自分ではそんなつもりは全くないのに。不思議なものね)
不毛なパチスロ勝負に取りつかれてしまっていることに加え、元彼女を利用されて辛い目に遭っていたところも直で目撃した。
そんなことが影響して、同情心が芽生えているのかもしれない、とも考え始める御子神だった。
◇◇◇◇◇◇
御子神が去った後の公園。
優司は、一人ベンチに座ったまま、物思いに耽っていた。
(御子神は一体どういうつもりなんだろう……?)
彼女の行動について、優司もまた思い悩んでいた。
(チラっとそう思っては、やっぱり違うと打ち消してきたけど……。
もしかしたら本当に、少しは俺のことを……)
目当てのパチスロ勝負の状況については芳しくないのに、なぜか軽くほんわかとした気分になってしまう優司。
(今は、俺のやること為すこと否定してくるからついついあんな態度を取っちゃうけど、でも、あれだけの美人と付き合えるなんてことになったら……)
ついつい妄想が飛躍していくが、ここでハッと我に返った。
(な、何を考えてんだ俺は! 今はそれどころじゃないだろ。
まずは、とにもかくにも乾のことだ。
でも、その乾の件が……まずいんだよなぁ……。うまいこと乾の知り合いと会えて、一応勝負の依頼はしておいたけど……あんなんで本当に勝負なんてできるのか? 彼ら、明らかに迷惑そうにしてたしなぁ……。
あー、もうっ! どうすりゃいいんだよっ?)
自分のやるべきことを思い出し、再び落ち込みだす優司。
ベンチに腰掛けた姿勢のまま大きくうなだれ、ため息をついて目を閉じた。
その時だった。
前方に何やら気配を感じた。
反射的に顔を上げる優司。
するとそこには、つい先ほど会話を交わした乾の知り合いたちがいた。
いつの間にか、五人の男に取り囲まれていた。
「よぉ。ちょっといいか?」
話しかけてきたのは、先ほども会話の中心となっていたリーダー格っぽい角刈りの男。
「な、何……?」
男達の表情が一様に威圧的だったため、優司は思わずたじろいでしまった。
そんな優司の様子など無視し、話を続ける角刈り。
「いいからさ、とりあえず立てよ。ほら」
そう言って、角刈りは優司の襟元を掴み、無理矢理立ち上がらせた。
最初は軽く抗おうとした優司だが、相手の予想外に強靭な腕力に為す術もなく、立ち上がらざるを得なかった。
「なんで俺らがこうしてここに来たかわかるか?」
ドスの利いた声で優司に問いかける角刈り。
襟元はまだ掴んだまま。
「い、いや……よく……わからないけど……」
薄々は気付きつつも、しらばっくれてみた。
しかし次の瞬間、角刈りの声量が一気に上がった。
「ふざけんなオラァーッ! わからないだァッ? ああッ?」
その迫力に、思わず目を伏せてしまう優司。
体は、小刻みに震えていた。
勢いに乗り、角刈りは言葉を続ける。
「お前なァ、ルイさんには迷惑かけるは、乾さんにはかったるい勝負仕掛けようとするは、なんなんだよッ?
ああ? ナメてんのか?」
「…………」
「あの二人はなぁ、お前みたいにヒマじゃねぇんだよッ!
お前のくだらないお遊びに付き合ってる時間なんてねぇの。わかるか?」
「…………」
「わかるかって聞いてんだよッ!」
誰も居ない公園内に響き渡る怒号。
優司は、あまりの恐怖で返事もできない状態。
五人ともいかつい体格と顔をしており、普通に街で出会ったら確実に避けて通るような風貌の男達だ。
そんな男達に囲みを喰らい、かつ、人生で初めて味わうような恫喝を受けている。
エリート街道を歩いてきた優司にとって、こんな状況は無縁だった。
恐怖で固まってしまうのも仕方がないと言える。
「おい、何を黙りこくってんだよテメェ。返事くらいしろよ。あ?」
顔を近づけつつ声を落とし、ただただ低い声で優司に詰め寄る角刈り。
「…………わ、悪かったよ」
なんとか搾り出した言葉だった。
臆病で気が小さい人間ほど、こういう時に素直に下手には出れないもの。
どこか意地を張ってしまうのだ。
「なんだその態度は? あッ? 何タメ口きいてんだよッ?」
うっすらと視線をはずしながら、無言のままでいる優司。
「おい、聞いてんのか?」
「…………」
「わかったのかって聞いてんだろ? お前がどれだけ迷惑なことやってるかってことをよ。ああッ?」
「……わかって……ます」
消え入りそうな声で呟く優司。
「ちっ! もっとはっきり喋れよな? ったくよぉ」
角刈りは、そう言って掴み続けていた襟元を離し、少し優司と距離を取った。
「じゃあ、二度と乾さんにパチスロ勝負なんつーくだらないモン仕掛けようとすんなよ? 次そんなことがあったら、とんでもない目に遭わすから覚悟してろよ?」
「はい…………」
「よぉし。わかりゃいいよ」
「…………」
「ったくよぉ、そういうガキくさい遊びはお友達同士でやってろってんだよ。
……じゃあ俺ら帰るけどよ、もう二度と余計なことすんじゃねぇぞ。わかったな?」
「わかりました…………」
優司の返事を聞くと、五人とも無言で踵を返し、公園を出て行った。
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