ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第95話 : おかしな二人

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「あの! ちょっといいですかっ?」

男達に向かって強い口調で問い掛ける優司。

男達は戸惑いの色を見せながら、不審そうに優司を眺めていた。
構わず優司が続ける。

「あの……俺、御子神さんの知り合いで、夏目って言います」

「ルイさんの知り合い……?」

先ほどから、御子神との会話に中心となって参加していた角刈りの男が答えた。

「はい。それで、ちょっとお願いがあるんですけど!」

「……」

ここで、御子神から横槍が入るかと警戒していた優司だったが、意外にも御子神は静観したままだった。

「お願いって……何?」

流すことなく、まともに相手をする角刈りの男。
御子神の知り合いだと名乗ったことが功を奏していた。

「あの……その……
 あ、あなた方は、乾さんの知り合いなんですよね?」

「……そうだけど」

「お、俺、この街で腕の立つ人たちとパチスロ勝負をしてて、それで、是非乾さんにも相手をしてほしいと
思ってて……。
 あの……つまり……い、乾さんとの勝負をなんとか取り次いでもらえませんか?」

相手の風貌もあってか、妙に緊張してしまった優司は、しどろもどろになりながら言った。

優司の依頼を聞いた角刈りは、すぐに話の内容を理解し返答する。

「ああ……なるほどね。君があの夏目優司君か。
 話はいろいろ聞いてるよ。設定読み勝負で30万っつー大金をかけてるヤツがいる、ってね。
 へぇ……ルイさんの知り合いだったんだ? そりゃ意外だ」

そう言いながら、確認を取るかのように御子神の方を見る角刈り。

だが御子神は、軽く視線をはずし黙ったままだった。

何も反論がないところから、御子神と知り合いという点については嘘ではないと判断した角刈りは、話を続けた。

「で……なんのために乾さんと勝負なんてしたいの?」

取り付く島もない、という感じであしらわれるかもしれないと思っていたが、意外にも好感触だったため、軽く戸惑いつつも説明を始める優司。

「あの……。
 今までいろんな人と勝負してきたんですけど、その全てに勝ってきたんですよ、俺は。
 で、こうなったら乾さんくらい凄いスロッターと勝負してみたい、っていう願望が出てきまして。
 是非取り次いでもらえたらありがたいんですけど……」

角刈りの男は、優司の目を見つめながらしばらく黙り込んだ。

しばらく間を置いた後、御子神に問いかける角刈り。

「ルイさんは、乾さんとパチスロ勝負うんぬん、ってのを納得してるんですか?」

御子神は、淡々とした口調で返事をする。

「ううん、私は反対。
 でも、この子が『どうしても勝負したい』って言って引かないから、私がこうして付いてきてるの。
 ちゃんと諦めてくれるまで、根気よく説得するつもり。
 和弥は、こういう煩わしいことを嫌う人だから」

それを聞いた角刈りは、それまでとっていた比較的柔和な態度をあっさりと翻し、優司に迫った。

「おい、どういうことだよお前? ルイさんに余計な手間をかけさせてんのか?
 この人がどういう人かわかってんのかテメェ?」

「え……? あ、あの……」

「お前な、乾さんがお前みたいな若造のお遊びにいちいち付き合うとでも思ってんのか? 立場を弁えろよな!」

「いや……そんなに堅く考えられると困るんですけど……。
 どうなるかは別として、とにかく乾さんに伝えるだけ伝えてほしいんですよ。
 乾さん自身も自信を持っているパチスロで、俺みたいな若造が勝負したい、って言ってることを」

「……」

眉間にしわを寄せながら、優司を睨みつつ黙り込む角刈り。

ピリピリとした空気を察した優司は、及び腰になってしまい、早々に話を切り上げようとする。

「あの……まあ、そういうわけで、できたらお願いします。
 そ、それじゃあ……」

そう言い残し、その場を足早に立ち去っていく優司。

御子神も、男たちに軽く挨拶をした後、また一定の距離を保ちつつ優司の後を付いていった。



◇◇◇◇◇◇



「まだ付いてくるの?
 もういいでしょ。今日やることは終わったし」

ホール『マーメイド』の近くにある公園。

ここは、優司が元彼女である飯島と再会する直前に、一休みする時に使っていた公園だった。

鴻上と初めて会った場所でもあるため、あまり良い思い出もなかったが、ホール『大和』から近い位置にあり、わりと寛げる公園のため、なんとなくここへ寄った優司。

御子神も、優司の後に付いてきてこの公園に来ていた。

「今日やることは終わった……ね。
 でも、それって私のおかげじゃない?
 私がいたから、彼らが和弥の連れだって分かったんでしょ?」

ぶっきら棒に言い放った優司に対し、同じくぶっきら棒に返す御子神。

「……そんなことはどうだっていいでしょ。
 とにかく、もう今日はウロウロしたりしないから。
 やれることはやったし、あとは彼らに任せるよ。
 何かしら動いてくれるかもしれないし」

「楽観的ねぇ。あんな言い方で彼らが動くと思う? 随分お粗末な見通しじゃない?」

「……」

言われなくても、優司自身そんなことはわかっていた。

しかし、これ以上どうすることもできない以上、「あれが最善の方法だった」と思い込むしかなかったのだ。

痛いところを堂々と指摘されてしまい、ややムキになってしまう優司。

「う、うるさいな!
 もういいだろ? さっさとどっか行ってくれよ!
 高級クラブ勤務だかなんだか知らないけど、男に媚び売りにでも行ってくればいいじゃんよっ!」

「何その言い方……? バカじゃないの?」

「……」

いくら頭にきたからといって今の言い方はなかった、と反省する優司。
しかしその反省を言葉に出すことはなく、御子神から視線をはずしつつ申し訳なさそうにしながら軽く俯いた。

その雰囲気を察し、溜飲を下げる御子神。

「……まあいいわ。
 あなたの言うとおり、もうここに居てもしょうがなさそうだからそろそろ帰るわね」

「……」

「で、明日はどうするの?
 また、ダメモトで和弥を探すためにウロウロしてみる?」

「わからないよ。明日どうするかなんて。明日の気分で決める」

「じゃあ、とりあえず朝10時にこの公園で待ち合わせね。
 絶対に勝手にどっか行ったりしないでよ?」

「ま、待ち合わせ……?」

「そう。
 とにかく、優司君が和弥にちょっかい出すのを諦めるまでは、付いて行くって決めてるの。
 私も最初はそこまでする気もなかったけど、一回口にしちゃったし、途中で引き下がるのもシャクだから。
 だから、いい? ちゃんと待っててよね」

「……」

「わかったっ?」

「あ……ああ。わ、わかったよ」

「よろしい」

御子神はそう言って、ニコリと笑った。
その笑顔に、ついついドキっとしてしまう優司。

「それじゃそういうことで。じゃあ、また明日ね!」

そのまま御子神は公園を出て行った。 
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