ゴーストスロッター

クランキー

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【第4章】

■第90話 : 夏目優司の過去②

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「パチスロ三昧なのが親にバレたんだ?」

一旦言葉を止めた優司に、広瀬が続きを促した。

「そう。
 毎日勉強してるのにこの成績の下がり方は明らかにおかしい、と思ったらしく、ある日の休日に、父親が俺の後を尾行してきてさ。
 で、パチ屋に入ったところをバッチリ見られて。
 あまりのショックに父親はそのまま帰ったらしいんだけど、その日の夜の激昂っぷりといったらなかったね。
 血管切れるんじゃないかってくらいに怒ってた」

「そ、そりゃそうだろうなぁ……」

「うん。あの人は、俺を医者にしたくて仕方が無かったからね。
 その期待を裏切られたってのが悔しかったんだと思う」

「……」

「父親とは元々あんまり話すこともなかったんだけど、それからはさらに話さなくなった。
 母親は、どちらかというと俺をかばってくれてたけど、強く父親に逆らうことはなくてさ。
 結局は、俺一人がいつも孤立してた」

「……兄弟とかは?」

「いないよ。一人っ子だから」

「そっか……」

「あの頃は本当にキツかったよ。
 同級生にも心を許しあうような人がいなくて、家でも針のむしろだからね」

「……あ、でもさ、彼女は?
 飯島と付き合ってたんでしょ?
 そもそも、どうやって出会ったの?」

あまりに話が暗すぎる方向へ行ったので、少しは救いのある話を、と思って話題を変えにいった広瀬。

「飯島とは……ちょうど俺がパチスロにハマりだした時かな。
 あの子は、同じ高校の普通クラスにいたんだ。
 で、ちょっとした学校行事がきっかけで知り合ったことがきっかけで、しばらくしてから付き合うようになったんだ」

「……で、なんで別れちゃったんだ?」

「簡単なことだよ。
 日に日に成績は落ちるし、どんどんパチスロにはハマっていくし、そんな俺に愛想をつかした、ってこと」

「なるほど……」

「うん。 着実に落ちこぼれていったからね。
 ……でも、そんな俺を、あいつは何度も根気よく説得してくれたんだ。
 『必死になって勉強してとは言わないけど、せめてパチスロなんかにハマって落ちぶれるのはやめて』ってね。
 休日に俺の家に来て、打ちに行かせないように無理矢理デートに連れて行かれたりもしたし。手製の弁当持ってきてさ。少しでも俺をパチスロから遠ざけようと必死だったよ」

「いい子だなぁ……」

「うん。凄くいい子だったんだ。
 俺が落ちぶれてきても、なかなか見捨てようとはしなかったし。
 他にデキるやつはいたし、そいつらに乗り換えることも出来たのにね」

「……」

「でも、最後は結局離れていった。
 限界がきたんだろうね。
 いくら言っても全く俺が変わらないから……。俺がパチスロをやめられなかったから……。」

「……」

「飯島とのことについては、本当に後悔してるんだ。
 初めてまともに、あんなに人と真剣に向き合ったし、いろいろ内面的な話もしたし。
 本当に別れたくなかった。
 けど……もう、時既に遅し、って感じで」

「そういう経緯があったんだ。
 そんな相手と、あんな再会の仕方じゃあヘコむよなぁ」

広瀬はしみじみと優司の顔を見ながら、心底哀れんだ。

「うん……。
 でも、もうそれはいいんだ。終わったことだから。
 とにかく、大事なのは今後のことだよ。
 今後どうしていくか、きっちり決めないと!」

「今後……ね。
 やっぱり、パチスロ勝負はするんだよな?」

「うん。さっき御子神にも宣言したしね。
 御子神には、乾と勝負するのはやめろって言われたけど」

「……夏目さぁ、もうそろそろ普通に打っても勝てるんじゃないの?
 ヒキが鬼のように弱いから普通に打てない、って言ってるけど、ヒキなんて所詮一時的な偏りだよ。
 ずっとヒキが弱いなんてこと、理論上ありえないからさ。
 そもそも、ヒキっていう概念自体がオカルトなんだから」

「……」

言い返そうか悩んだが、いつもの堂々巡りになる予感がしたのでやめておいた。

「俺のヒキ弱についてはまあ……。うん、どう捉えてもらってもいいんだけど。
 でも、一人暮らしを始めた瞬間から今現在まで、ほとんど勝てなくなってることは事実なんだ。
 6をツモり続けてるのにね」

「それは……話には聞いてるけどさ。
 でも、スロ勝負をやめれば、日高たちとも元の関係に戻れるんだろ?
 それとも、日高たちとのことは別にどうでもいいとか?」

少し間をおいた後、軽く伏し目がちなままかぶりを振る優司。

そして顔を上げ、広瀬の目を見据えながらしみじみと話し出した。

「学生時代、同級生たちとは表面上はうまく付き合ってたけど、結局本当の人間関係みたいなものは何一つ築いてこれなかった。
 で、親とも今は完全に疎遠になってるし、唯一心を許せてた彼女ともあっさり破局した。
 飯島と出会う前も充分孤独だったけど、別れてからはさらにひどかったよ……。
 でも、日高たちと出会って、初めてまともな人間関係、友達関係ってのが築けたような気がしてるんだ」

「……」

「さっきも言ったけど、俺にとっては今一番大事で失いたくないものが、彼らとの関係なんだよね。本当は。
 それに比べたら、他のことなんて小さな問題だよ」

すかさず広瀬は質問する。

「それなら、なんでパチスロ勝負にこだわるんだ?
 それさえやめれば、彼らと普通に戻れるわけでしょ?」

「それじゃダメなんだよ。
 勝負をやめればすぐに戻れるだろうけど、やると言い続けてきたことをここまで止められて、しかも最終的にその止められたことに従ってたんじゃ、まるで『勝負をやめますからまた仲のいい友達に戻ってください』って俺がお願いしてるようなものでしょ?
 それじゃダメなんだ。俺にも意地があるし。
 本当に失いたくない友達だからこそ、逆にそういうことは絶対にできない。妥協して取り戻した友達関係なんて偽物だ」

「うーん……考えすぎだと思うんだけどなぁ……」

理解しがたい、という様子の広瀬。
構わず優司が続ける。

「あと個人的にも、ここまで極めたこと、やり通してきたことを途中で投げ出すこともしたくない。
 やっとやりがいのあることを見つけて、それに邁進できてるのにさ。
 だから、いろんな意味で俺はここで勝負をやめるわけにはいかないんだよ!」

優司の主張を聞き終え、じっと考え込む広瀬。
その様子を、優司は黙って見ていた。

1分ほどの沈黙の後、広瀬が重々しく口を開く。

「夏目……。俺個人の考えとしては、やっぱり夏目は間違ってると思うよ。
 別に日高たちの言うことに従ったからって、へりくだったことにはならないしね。
 友達ってのは、お互いの間違ったことを指摘し合って、それが正しいことなら素直に従って、それで成長し合っていくような存在なんじゃないかな?
 日高や真鍋も、何も偉そうに説教したいわけじゃないと思うんだよね。
 彼らなりに考えて、スロ勝負なんてものにこだわらないことが夏目のためだと思ったからこそ、一生懸命アドバイスしてるだけだと思うよ?」

「……」

「この前、俺に『スロ勝負を続けるべきか?』みたいな質問したよね?
 で、俺はその時、勝負することでスッキリするならやった方がいい、って答えたけど、俺の意見はあくまで第三者的な意見だよ。
 つまり、よく考えもせずなんとなくで言ってる意見ってこと。
 でも、日高や真鍋の意見は違う。彼らは、夏目のことを間近で見てて、これ以上パチスロ勝負をさせるのはやめておいた方がいい、意味がない、って判断したから止めてるんだよ。
 それだけ親身になって考えてくれてるんだよ」

「それは……まあ……」

「人ってのは、誰しも自分じゃ気付けないところってあるからね。
 それを、他人から客観的な目線で指摘してもらって、自分じゃ気付けない問題点を修正しつつ成長するもんなんじゃないかな?
 夏目の場合、変に『対等でいたい』みたいな気持ちが強すぎるんだと思うよ。
 だから、ちょっとした指摘やアドバイスにも素直に従えないんだよ」

「……」

「話を聞いてる限りでは、多分学生の頃に周囲の人たちと芯の部分から付き合うことができなかったから、今になってちょっと歪んだ形で出てきちゃってるんだと思う。
 俺がこんな偉そうなこと言うのもどうかと思うけど、そういう部分は直していった方がいいんじゃないかな?」

「……そういうもんなのかな。
 やっぱり俺、無駄に意地を張りすぎてるのかな……?」

日高たちに、頑なに勝負を止められていたことがずっと引っ掛かっていた優司。

しかし、広瀬の真摯な言葉の前に、やや心が動きつつあった。 
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