ゴーストスロッター

クランキー

文字の大きさ
上 下
81 / 138
【第4章】

■第81話 : 広瀬の試み

しおりを挟む
「なんでこんな勝負を吹っかけたの?」

しばらく無言で打っていた広瀬だが、不意に鴻上に向かって質問を投げかけた。

「は? な、何が?」

「何が、じゃなくてさ。
 なんで、わざわざあの夏目優司に勝負を吹っかけたのかなぁ、って思ってさ」

一瞬、今回の八百長勝負について広瀬は全て知っているんじゃないだろうかと疑い動揺した鴻上だが、「夏目にはあれだけ口止めしたし、言ってないだろう」と思い直し、平静を保った。

「なんでも何も、勝てると思ったからだよ」

「へぇ、凄いねぇ。
 知ってるとは思うけど、あいつ、相当凄いよ。設定読みじゃ絶対勝てないと思うけどなぁ。
 今じゃ、誰も夏目の挑戦を受けないしね。よっぽど自信があるんだね君は」

「ま、まぁね。
 俺は、ここぞって時の勝負に強いからさ!」

「……そんな曖昧な根拠で勝負してんの? 30万って大金がかかってんのに?」

「いや、運だけじゃないって! 腕にも自信があるからだよ!」

「ふーん……」

広瀬の微妙な態度に、やっぱり何か知っているのでは?という疑念がわいてきた。

「な、なんだよ? なんか言いたいことでもあんのっ?」

「うん、まあね」

「え……?」

「後悔してるんじゃないかと思ってさ。この勝負を吹っかけたことに」

「後悔……? 俺が……?」

「そう。
 だからさ、君が望むなら、俺から夏目に話をつけてやろうかと思ってね。この勝負は無効にしよう、って。
 だって、君にはどうしたって勝ち目ないもん」

広瀬は期待していた。
ここで鴻上が何かを感じ取り、おとなしく撤退してくれることを。

確かに、手は打ってある。
勝負終了後に、鴻上による被害者二人と飯島由香を会わせて、鴻上という人間がどういう人間かを説明し、別れるように説得する、という手を。

しかし、これが成功するとは限らない。

最悪のパターンとしては、説得に失敗し、イコール優司がすべて広瀬に喋ってしまったこともバレてしまい、腹いせとして飯島がより一層ひどい目に遭う、ということも考えられる。

それならば、まずは鴻上にこの勝負から手を引かせて、飯島のことは後々対応する、という手に出た方が得策かもしれないと広瀬は考えていたのだ。

だが、深慮遠謀とはほど遠い人間である鴻上。
かつ、既に勝った気分でいることもあり、この広瀬の言葉に耳を貸す様子も、何かを感じ取ることもなかった。

「何言ってんの広瀬君!
 だから言ってるじゃん、俺は腕に自信があるんだって。
 この勝負も絶対勝てるしね!」

「……」

「だってほら、見てよこの出玉!
 まだ昼過ぎだったのに、もう3000枚オーバーだぜ?
 さっきが10連、その前は15連もしたしね!
 凄くないこの継続っ? この北斗、絶対6だって!」

広瀬はただただ呆れる。

(継続は設定と無関係だろ……
 こいつ、本当に何もわかっちゃいないんだな……)

ここで手を引かせる、という策を諦めた広瀬は、無言のまま手早く残りコインを消化して席を立った。

去り際、鴻上へチラリと視線をやりながら、決意を新たにする。

(結局、やるしかないわけか……。
 やるからには、絶対に成功させないと。飯島の説得を)



◇◇◇◇◇◇



21:00。

優司、投資21000円で出玉は約800枚。
鴻上、投資15000円で出玉は約3500枚。

自分の台が6だと信じて疑わなかった鴻上だが、互いの出玉状況を知り、さらに確信を深めていた。

設定差のある「初当たり」の回数が少なく、ただ継続に恵まれての勝利だが、そんなことは鴻上の知識では察することはできなかった。

彼にとっては、ただ「出たか出ないか」で設定を推測するしかないのだから。

「さて、そろそろ発表だなぁ!」

余裕綽々で優司の元へやってきた鴻上。
さらに言葉を続ける。

「結果は聞くまでもないし、もう店出るか? ん?」

「……」

「もう由香も来てるしよ。今、下に待たせてあるぜ」

「っ!」

一気に表情が強張る優司。

「大丈夫だよ。そんな心配そうな顔すんなって。
 約束は守ってやる。
 別にあんな女にこだわる理由なんか、俺にはないんだからな」

「お前……」

「ちゃんと目の前で別れてやるよ。へへっ!」

「……とにかく、設定発表までおとなしく座ってろよ鴻上。
 結果がわかっていようと、お互いに設定発表を確認し合うのが俺のスロ勝負のルールなんだから」

「はいはい、わかったよ。
 ったく、お堅いこったぜ」

そう言い残し、半笑いで自分の席へと戻っていった。

入れ替わりで、今度は広瀬が優司の元へやって来た。

「どうしたんだ?」

「いや……。もう結果はわかってるから、そろそろ下に行こうってさ」

「自分の勝利を信じて疑わないんだな」

「うん。思い込みが強すぎだね。あそこまで単純なのも珍しいよ」

「まあとにかく……。
 俺達にとってはここからが勝負だ」

「うん、わかってる」

広瀬はその場に留まり、優司も打つ手を止め、二人で静かに設定発表を待った。 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...