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【第4章】
■第81話 : 広瀬の試み
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「なんでこんな勝負を吹っかけたの?」
しばらく無言で打っていた広瀬だが、不意に鴻上に向かって質問を投げかけた。
「は? な、何が?」
「何が、じゃなくてさ。
なんで、わざわざあの夏目優司に勝負を吹っかけたのかなぁ、って思ってさ」
一瞬、今回の八百長勝負について広瀬は全て知っているんじゃないだろうかと疑い動揺した鴻上だが、「夏目にはあれだけ口止めしたし、言ってないだろう」と思い直し、平静を保った。
「なんでも何も、勝てると思ったからだよ」
「へぇ、凄いねぇ。
知ってるとは思うけど、あいつ、相当凄いよ。設定読みじゃ絶対勝てないと思うけどなぁ。
今じゃ、誰も夏目の挑戦を受けないしね。よっぽど自信があるんだね君は」
「ま、まぁね。
俺は、ここぞって時の勝負に強いからさ!」
「……そんな曖昧な根拠で勝負してんの? 30万って大金がかかってんのに?」
「いや、運だけじゃないって! 腕にも自信があるからだよ!」
「ふーん……」
広瀬の微妙な態度に、やっぱり何か知っているのでは?という疑念がわいてきた。
「な、なんだよ? なんか言いたいことでもあんのっ?」
「うん、まあね」
「え……?」
「後悔してるんじゃないかと思ってさ。この勝負を吹っかけたことに」
「後悔……? 俺が……?」
「そう。
だからさ、君が望むなら、俺から夏目に話をつけてやろうかと思ってね。この勝負は無効にしよう、って。
だって、君にはどうしたって勝ち目ないもん」
広瀬は期待していた。
ここで鴻上が何かを感じ取り、おとなしく撤退してくれることを。
確かに、手は打ってある。
勝負終了後に、鴻上による被害者二人と飯島由香を会わせて、鴻上という人間がどういう人間かを説明し、別れるように説得する、という手を。
しかし、これが成功するとは限らない。
最悪のパターンとしては、説得に失敗し、イコール優司がすべて広瀬に喋ってしまったこともバレてしまい、腹いせとして飯島がより一層ひどい目に遭う、ということも考えられる。
それならば、まずは鴻上にこの勝負から手を引かせて、飯島のことは後々対応する、という手に出た方が得策かもしれないと広瀬は考えていたのだ。
だが、深慮遠謀とはほど遠い人間である鴻上。
かつ、既に勝った気分でいることもあり、この広瀬の言葉に耳を貸す様子も、何かを感じ取ることもなかった。
「何言ってんの広瀬君!
だから言ってるじゃん、俺は腕に自信があるんだって。
この勝負も絶対勝てるしね!」
「……」
「だってほら、見てよこの出玉!
まだ昼過ぎだったのに、もう3000枚オーバーだぜ?
さっきが10連、その前は15連もしたしね!
凄くないこの継続っ? この北斗、絶対6だって!」
広瀬はただただ呆れる。
(継続は設定と無関係だろ……
こいつ、本当に何もわかっちゃいないんだな……)
ここで手を引かせる、という策を諦めた広瀬は、無言のまま手早く残りコインを消化して席を立った。
去り際、鴻上へチラリと視線をやりながら、決意を新たにする。
(結局、やるしかないわけか……。
やるからには、絶対に成功させないと。飯島の説得を)
◇◇◇◇◇◇
21:00。
優司、投資21000円で出玉は約800枚。
鴻上、投資15000円で出玉は約3500枚。
自分の台が6だと信じて疑わなかった鴻上だが、互いの出玉状況を知り、さらに確信を深めていた。
設定差のある「初当たり」の回数が少なく、ただ継続に恵まれての勝利だが、そんなことは鴻上の知識では察することはできなかった。
彼にとっては、ただ「出たか出ないか」で設定を推測するしかないのだから。
「さて、そろそろ発表だなぁ!」
余裕綽々で優司の元へやってきた鴻上。
さらに言葉を続ける。
「結果は聞くまでもないし、もう店出るか? ん?」
「……」
「もう由香も来てるしよ。今、下に待たせてあるぜ」
「っ!」
一気に表情が強張る優司。
「大丈夫だよ。そんな心配そうな顔すんなって。
約束は守ってやる。
別にあんな女にこだわる理由なんか、俺にはないんだからな」
「お前……」
「ちゃんと目の前で別れてやるよ。へへっ!」
「……とにかく、設定発表までおとなしく座ってろよ鴻上。
結果がわかっていようと、お互いに設定発表を確認し合うのが俺のスロ勝負のルールなんだから」
「はいはい、わかったよ。
ったく、お堅いこったぜ」
そう言い残し、半笑いで自分の席へと戻っていった。
入れ替わりで、今度は広瀬が優司の元へやって来た。
「どうしたんだ?」
「いや……。もう結果はわかってるから、そろそろ下に行こうってさ」
「自分の勝利を信じて疑わないんだな」
「うん。思い込みが強すぎだね。あそこまで単純なのも珍しいよ」
「まあとにかく……。
俺達にとってはここからが勝負だ」
「うん、わかってる」
広瀬はその場に留まり、優司も打つ手を止め、二人で静かに設定発表を待った。
しばらく無言で打っていた広瀬だが、不意に鴻上に向かって質問を投げかけた。
「は? な、何が?」
「何が、じゃなくてさ。
なんで、わざわざあの夏目優司に勝負を吹っかけたのかなぁ、って思ってさ」
一瞬、今回の八百長勝負について広瀬は全て知っているんじゃないだろうかと疑い動揺した鴻上だが、「夏目にはあれだけ口止めしたし、言ってないだろう」と思い直し、平静を保った。
「なんでも何も、勝てると思ったからだよ」
「へぇ、凄いねぇ。
知ってるとは思うけど、あいつ、相当凄いよ。設定読みじゃ絶対勝てないと思うけどなぁ。
今じゃ、誰も夏目の挑戦を受けないしね。よっぽど自信があるんだね君は」
「ま、まぁね。
俺は、ここぞって時の勝負に強いからさ!」
「……そんな曖昧な根拠で勝負してんの? 30万って大金がかかってんのに?」
「いや、運だけじゃないって! 腕にも自信があるからだよ!」
「ふーん……」
広瀬の微妙な態度に、やっぱり何か知っているのでは?という疑念がわいてきた。
「な、なんだよ? なんか言いたいことでもあんのっ?」
「うん、まあね」
「え……?」
「後悔してるんじゃないかと思ってさ。この勝負を吹っかけたことに」
「後悔……? 俺が……?」
「そう。
だからさ、君が望むなら、俺から夏目に話をつけてやろうかと思ってね。この勝負は無効にしよう、って。
だって、君にはどうしたって勝ち目ないもん」
広瀬は期待していた。
ここで鴻上が何かを感じ取り、おとなしく撤退してくれることを。
確かに、手は打ってある。
勝負終了後に、鴻上による被害者二人と飯島由香を会わせて、鴻上という人間がどういう人間かを説明し、別れるように説得する、という手を。
しかし、これが成功するとは限らない。
最悪のパターンとしては、説得に失敗し、イコール優司がすべて広瀬に喋ってしまったこともバレてしまい、腹いせとして飯島がより一層ひどい目に遭う、ということも考えられる。
それならば、まずは鴻上にこの勝負から手を引かせて、飯島のことは後々対応する、という手に出た方が得策かもしれないと広瀬は考えていたのだ。
だが、深慮遠謀とはほど遠い人間である鴻上。
かつ、既に勝った気分でいることもあり、この広瀬の言葉に耳を貸す様子も、何かを感じ取ることもなかった。
「何言ってんの広瀬君!
だから言ってるじゃん、俺は腕に自信があるんだって。
この勝負も絶対勝てるしね!」
「……」
「だってほら、見てよこの出玉!
まだ昼過ぎだったのに、もう3000枚オーバーだぜ?
さっきが10連、その前は15連もしたしね!
凄くないこの継続っ? この北斗、絶対6だって!」
広瀬はただただ呆れる。
(継続は設定と無関係だろ……
こいつ、本当に何もわかっちゃいないんだな……)
ここで手を引かせる、という策を諦めた広瀬は、無言のまま手早く残りコインを消化して席を立った。
去り際、鴻上へチラリと視線をやりながら、決意を新たにする。
(結局、やるしかないわけか……。
やるからには、絶対に成功させないと。飯島の説得を)
◇◇◇◇◇◇
21:00。
優司、投資21000円で出玉は約800枚。
鴻上、投資15000円で出玉は約3500枚。
自分の台が6だと信じて疑わなかった鴻上だが、互いの出玉状況を知り、さらに確信を深めていた。
設定差のある「初当たり」の回数が少なく、ただ継続に恵まれての勝利だが、そんなことは鴻上の知識では察することはできなかった。
彼にとっては、ただ「出たか出ないか」で設定を推測するしかないのだから。
「さて、そろそろ発表だなぁ!」
余裕綽々で優司の元へやってきた鴻上。
さらに言葉を続ける。
「結果は聞くまでもないし、もう店出るか? ん?」
「……」
「もう由香も来てるしよ。今、下に待たせてあるぜ」
「っ!」
一気に表情が強張る優司。
「大丈夫だよ。そんな心配そうな顔すんなって。
約束は守ってやる。
別にあんな女にこだわる理由なんか、俺にはないんだからな」
「お前……」
「ちゃんと目の前で別れてやるよ。へへっ!」
「……とにかく、設定発表までおとなしく座ってろよ鴻上。
結果がわかっていようと、お互いに設定発表を確認し合うのが俺のスロ勝負のルールなんだから」
「はいはい、わかったよ。
ったく、お堅いこったぜ」
そう言い残し、半笑いで自分の席へと戻っていった。
入れ替わりで、今度は広瀬が優司の元へやって来た。
「どうしたんだ?」
「いや……。もう結果はわかってるから、そろそろ下に行こうってさ」
「自分の勝利を信じて疑わないんだな」
「うん。思い込みが強すぎだね。あそこまで単純なのも珍しいよ」
「まあとにかく……。
俺達にとってはここからが勝負だ」
「うん、わかってる」
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