ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第62話 : 広瀬と八尾、その過去⑤

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「や、八尾さん! ど、どうしたんですか? い、いきなり呼び出すなんて?
 お、俺、今北斗の6掴んでて……」

突然八尾に呼び出された信次が軽く不満を口にする。
しかし八尾は意に介さず、口を開く。

「……俺、たった今グループを抜けてきたよ」

信次の動きが止まる。

「え……?
 な、何言ってるんですか八尾さん……?」

「本当なんだ。
 ヒロちゃ……。いや、広瀬から直接『グループを抜けてくれ』って言われちまったよ」

「そ、そんな……」

「お前はどうする?
 あんなくだらないグループに残るつもりか?」

「……い、いや、それなら自分も抜けます。八尾さんと一緒に」

信次の言葉を聞き、急に表情が和らぐ八尾。

「そっか。
 よし、それなら今からお前もグループから抜けるんだぞ。俺と一緒に」

「……はいッ!」

八尾は、ただにこやかに頷いた。

「そ、それにしても……
 ひ、広瀬さんも見る目ないですよね! 八尾さんをクビにするなんて。
 め、目が曇ってきたんですかね~」

すると、にこやかだった八尾の表情は一変した。

「……おい。二度とそういうことを言うんじゃねぇ……。
 次言ったら許さねぇぞ、信次」

「え、え……? あ、あの……」

「いいか、くだらないのはあのグループにたかってる寄生虫どもだ。広瀬じゃねぇ。
 大体、俺には間違っても広瀬に文句言う資格なんかないしな。文句言うつもりもねぇし。
 むしろ…………。
 まあいいや。とにかく、そういうことは二度と言うなよ」

「……はい」

信次としては、八尾をフォローするつもりで口走った広瀬への毒づき。
しかし待っていたのは、予想外の叱咤だった。

視線を下げ、おどおどとしている信次を見ながら、八尾が柔らかなトーンで話しかける。

「悪かったよ。そんなにしょげるな」

信次の肩を軽くポンっと叩き、八尾はふたたびにこやかな表情に戻った。



◇◇◇◇◇◇



「ホントありがとうございます!
 いやぁ、一瞬ヒヤっとしましたよぉ~!
 もしかしたら、俺が追い出されるんじゃないかと思って」

八尾と天秤にかけられた結果、グループに居座る権利を獲得した伊藤。
そのはしゃぎっぷりはかなりのものだった。

単純に『残れた!』という嬉しさよりも、積年の恨みがある八尾に対して『勝った!』という気になっていた。

だが、そんな浮かれた伊藤を見て、いつも穏やかな広瀬が珍しく厳しい口調で伊藤に向かって話し出した。

「伊藤、喜んでる場合じゃないぞ
 俺が、なんで八尾を抜けさせてお前を残したかわかるか?」

「え……?
 いや……それは、八尾はグループにとって邪魔なヤツで、俺は特に問題がないから……」

その途端、広瀬の表情は、今まで仲間たちの前では見せたことのないような悲しいものへと変わっていった。

「はぁ……
 何にもわかってなかったんだな……」

「な、何がですか……?」

「あのな、俺が八尾をグループから抜けさせたのは、アイツには独立してやっていく力量があると思ったからだ。
 逆に、お前はまだ不安な部分があるから残しただけだ」

「へっ……?」

「確かにお前は、八尾よりは台読みの能力がある。
 でもな、稼動に対する貪欲さがないんだ。
 調子の悪い時は粘ってもしょうがない、みたいな考えを持ってるよな?」

「えぇ……まぁ……」

「それは間違ってる。
 6に座ったら、とことんまで粘るべきなんだ。
 どれだけハマろうとも、10万でも20万でもぶっこむのが正しい立ち回りなんだよ。
 八尾は、その点では成熟してる。どんなに出ない高設定でも粘り倒す。
 自分では、『ヒキが強いから最終的にはなんとかなる』とか考えてるみたいだけど、どっちにしてもそれが粘る原動力になってるわけだから結果オーライだ」

「……」

「伊藤、お前は『今日の6はダメだ』と思ったらすぐヤメちまうだろ? 」

「まあ、そんな時もありますね」

「確かにわからないでもない。出ない時は徹底して出ない6もあるからな。
 ……でもな、八尾は決してそういうことを言わない。
 あいつにだって、高設定でヘコむ時ももちろんあるんだ。
 そんな時でも、八尾は文句一つ言わず閉店まで黙々と回す。それこそが正しい姿勢なんだよ。機械の調子なんてのは、人にはわからないんだからな。
 そんな、存在するかどうかもわからない機械の調子なんてものを考慮しようとすんのは間違いだ。
 お前には、そういう部分がまだ身に付いてない。
 地力では、お前よりは八尾の方が上なのさ」

「お、俺より八尾の方が上……?」

「ああ。 それは間違いない。
 だからこそお前を残したんだ。
 本当なら、お前は残されたことを恥じなきゃいけないんだよ。
 それなのに喜んじまって……情けないよ、俺は……」

「…………」

自分がグループに残された本当の意味を知った伊藤。
ただただ恥ずかしく、言葉もなく黙ってしまった。

さらに広瀬が言葉を続ける。

「元々、そろそろ八尾は独立させようと思ってたんだ。
 地力も充分についてるし、お前らとも噛み合ってなかったみたいだしな。
 でも、もちろん俺はこれからも個人的には八尾と付き合っていくつもりだ。お前らがどう思おうとな。
 大体、独立して初めて対等な関係になれるんだ。それは分かるだろ?
 このグループにいたんじゃ、どうしても俺に気を使っちまうもんな」

「…………」

グゥの音も出ず、ただただ下を向く伊藤たち。
そう、これは伊藤だけでなく、伊藤以外の連中すべてに言えることだった。

『基金』の存在があるゆえ、多少稼動に対する甘えがあったメンバー達。
八尾のように、どんなに設定6で悪い展開を喰らおうとも閉店ギリギリまで粘る貪欲さが彼らにはなかった。 

痛いところを突かれ、ただ黙るしかない伊藤と他のメンバー達。

しかし、それ以上に彼らにとってショックだったのが、グループ内で一番広瀬から評価されていたのは、実は八尾だったということを知ったことだった。

静まりかえる『ロージー』の店内。

広瀬は、寂しそうに物思いに耽る。

(八尾、きっと誤解してるだろうな……。
 でも、あそこでゴチャゴチャとフォローじみたことは言いたくはなかった。その方があいつはもっと傷つくはずだ。
 プライドの高い八尾だから、どんなに言い繕ったって、追い出す口実にしか聞こえないだろうしな。
 でも、俺にとって、グループ内で唯一対等に話ができるのはお前だけだったよ、八尾……)
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