ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第61話 : 広瀬と八尾、その過去④

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月日は過ぎ、2004年9月25日。
つまり、広瀬が優司に敗れてから2日後。

時間は丁度昼飯時だった。

「ヒロちゃん! ちょっと話があるんだけどいい?」

『ロージー』で昼食をとっていた広瀬。
いつものように、伊藤を含む数人と一緒にいた。

やや強めの語調で、そこへ乗り込んできた八尾。

広瀬が、キョトンとしながら答える。

「どうしたんだ八尾?
 お前、今日は『ジュピター』で打ってんじゃなかったっけ? 信次と一緒に」

「そうだけどさ、今日はどうしても言いたいことがあって来たんだ。
 本当は昨日言いたかったんだけど、なかなかヒロちゃんつかまらなくてさ」

八尾の姿を見て、バツが悪そうにしている伊藤。

しかし、それに気付かず八尾との会話を続行する広瀬。

「ん? 言いたいこと?
 ……あっ! もしかしてあれか? 一昨日の夏目との勝負のことか~?」

広瀬は、おどけながら八尾に問いかけた。
だが、八尾はニコリともせずに会話を続ける。

「……そこにいる伊藤のことだよ。
 コイツ、昨日で4日連続救済基金の世話になってるらしいじゃん。
 しかも、そのうち1回はヒロちゃんの指示に従わないで独断で動いて高設定をハズしやがったみたいだし。
 それで基金から金を受け取るってどうなの? おかしくないか?
 しかも、今話に出た夏目の件もそうだよ。コイツが不甲斐なく負けたせいで、ヒロちゃんがケツ持つハメになったんでしょ?
 超疫病神じゃん、このバカ」

伊藤を睨みつけながら、はき捨てるように八尾が言い放った。

さすがに後ろめたいのか、伊藤はうつむいたまま黙っている。

だが広瀬は、相変わらずニコニコしたまま。

「なんだ、そのことか。
 そんなに目くじら立てることもないだろ?
 毎度毎度、完全に俺の指示に従わなきゃダメってのもなぁ?
 俺としては、なるべく己の判断で動いて、どんどん力をつけていって欲しいし。その結果失敗したら保証しない、ってのはかわいそうだろ?
 チャレンジ精神を奪うのはよくないよ」

「……」

「それに夏目の件もさ、伊藤もやむなく受けたってところもあるし、実際勝負してみていい刺激にはなったと思うんだよ、伊藤にとっても。
 俺もやり合ってみて、楽しかったしさ。
 いやぁ、夏目は実際凄いよ!」

「でもっ!
 伊藤は、3年近くもこのグループにいるんだよ? 俺だってまだ2年なのに。
 で、俺はほとんど基金の世話になることはない。
 確かに、独断で動いた時の高設定ツモ率は少し伊藤の方が高いかもしれないけど、収支では断然俺が勝ってるんだ!
 そんな情けないヤツを、いつまでも甘やかしてたら駄目でしょっ?」

「あのなぁ、前も言ったと思うけど、高設定掴んで負ける分にはしょうがな――」

「それはもう聞き飽きたよッ!
 でも、そんなのは本人の気の持ちようだ! 勝とうっつー気持ちが希薄だからそんなヌルいヒキになるんだよ!
 どんな世界でもそうでしょ? 稼ぐヤツが一番偉いんだよ!」

ここで、徐々に広瀬の表情が変わっていく。

一呼吸おき、穏やかな口調で諭すように話し出した。

「八尾、ことギャンブルに限っちゃそういう考えは通用しない。
 そんな精神論で運が良くなるなら苦労はしないんだ。
 いいか、もう一度言っておくぞ、パチスロにおいて『ヒキ』の部分で人を責めるのはよせ。
 努力でどうにかなるもんじゃないし、そもそも、理論上はヒキなんてもんは存在しないんだ。
 ヒキってのは、ただの結果にすぎない。
 俺たち打ち手ができるのは、ただひたすら期待値の高い台を追いかける、それだけだ」

「そ、そんな理屈は分かってるよ! でも――」

「いや、分かってない。
 お前は、ヒキってもんに捉われすぎてる。
 パチスロの腕ってのは、『どれだけ高期待値台で稼働している割合が高いか』ってだけなんだ。
 それ以外は一切関係ないんだよ」

「……」

「伊藤はよくやってるよ。
 展開負けすることこそ多いものの、そんなのは立ち回りじゃどうにもならないもんさ。
 そこにケチつけだしちゃキリがないぜ?
 なぁに、これからもどんどん試行を増やしていけば安定してくるさ」

下を向き、唇を噛み締めながら軽く震えている八尾。

そして、何かを決意したように喋りだした。

「……じゃあ、俺か伊藤、どっちかしかグループに残せないって言ったらどっちを残す……?」

唐突すぎる八尾の質問。
話がやたら飛躍している。

広瀬は、面食らった様子で返答した。

「へ? なんでいきなりそんな話になるんだ?」

「いいから! 答えてくれよヒロちゃん!」

突拍子のない質問をぶつけられ、広瀬は困惑の表情を浮かべる。
伊藤は、横でヒヤヒヤしながら二人のやりとりを聞いていた。



しばらく考えこんでいた広瀬が、おもむろに口を開いた。

「まあ、どっちを残すかと聞かれれば、伊藤を残すだろうね」

「なッ……」

言葉を失う八尾。
心のどこかでは、自分を選んでくれると信じていたのだ。

横で黙って聞いていた伊藤は、この瞬間にパっと明るい表情になり、そのまま勝ち誇ったように八尾に視線を向けた。

沈んだ声で八尾がぼそぼそと呟く。

「……そうか。
 じゃあ、俺はいらないんだね……。
 残念だよヒロちゃん……。
 ヒロちゃんと俺で、もっともっとグループをでかくしていけると思ってたのに……」

「何か勘違いしてるみたいだな。
 俺は、グループをでかくなんかしたくないんだぜ?
 むしろ、早く全員自立できるようにして、グループを解散したいくらいなんだ。
 それは知ってるだろ?」

「もういいよ……。そんなことは聞きたくない。
 とにかく、俺は今日限りでグループを抜ける。今の言葉で決心がついたよ。
 ……で、ケジメとして、はっきりともう1回ヒロちゃんの口から聞きたいんだ。
 本当に俺が出て行っていいのかどうか」

「……」

「早く言ってくれよ!
 本当に俺を追い出すんなら、はっきりとそう言ってくれよッ!」

本心では、考え直して「やっぱり必要だ」と言ってくれることを期待していた八尾だったが、その願いは叶わなかった。

「……わかった。
 八尾、お前は今日限りで俺のグループを抜けてくれ。
 で、今後は自力で頑張ってくれ。
 お前なら心配ない。やれるはずだ」
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