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【第3章】
■第59話 : 広瀬と八尾、その過去②
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「八尾って言ったよな? お前、歳はいくつ?」
うどん屋のカウンター席に横並びで座った広瀬と八尾の二人。
広瀬は、うどんをすすりながら八尾に話しかけた。
「えっと、20歳……です」
「なんだ、俺とタメじゃん!」
「え……? あ、そ、そうなん……っすか?」
「うん。
あれ? なんか意外そうにしてない?
俺、そんな老けて見えた?」
「いや、むしろ俺より下かな、って……」
「危ね~!
下に見られたならまだいいや。
いや、いきなり敬語使われたから、年上に見られたのかと思ってショック受けたよ~。
勘弁してくれよ~」
「あ、あはは……」
「じゃあ、普通に喋りなよ!
俺、タメに敬語使われるの大っ嫌いなんだよ」
「あ……う、うん……」
八尾は、広瀬の豪放磊落さに圧倒されていた。
それもそのはず。
つい今しがた金を奪おうとしていた男に、うどんを奢られているのである。
気圧されてしまうのも当然だ。
「あ、あのさ広瀬君。
いっこ聞いていい……?」
うどんをすする広瀬に、おそるおそる質問する八尾。
「ん? 何?」
「あのさ、なんでこんな俺をメシに誘ってくれたの?
俺は、キミから金を奪おうとしてたのに……」
「なんだ、そんなことか」
「そ、そんなことって……」
「簡単な話だよ。
お前、あれだろ? パチかスロで負けまくって、そんで借金膨らんであんなことしようとしてたんだろ?」
「な、なんでそれが……?」
「あんな計画性のない換金所強盗ってのは、大概はパチ屋で負けた奴が突発的にやるもんさ。実際そうだったろ?」
「まあ……そんなとこ……かな」
広瀬はいったん箸を置き、視線を宙へやりながら呟くように語りだした。
「俺さ、パチスロを愛してんだよね。あんなにかわいいモンはないよ。こっちの要望にはきっちりと応えてくれる。つまり、高設定を打ち続ければきっちりと結果がついてきてくれる。
巧みなリール制御や演出で楽しませてくれてるのに、金まで貰えるんだぜ?
ま、たまにヘソ曲げちゃう時もあるけどね。理不尽なハマリとか。それがまた、たまんないんだけどね!」
「……」
「パチスロってのはそんな素晴らしいもんなのに、そのパチスロが原因でああいう行動起こす人間がいるってのが悲しくてさ。
俺、今グループ組んでで、人数も15人くらいいるんだけど、全員元々はお前みたいな感じだったんだ。みんな、パチやスロが原因で二進も三進もいかなくなっててな。さすがに、お前みたいに強盗までやらかそうって奴はいなかったけど」
ははは、と軽く笑った広瀬は、そのまま言葉を続けた。
「そういう人間を全員救うことなんて出来ないけど、せめて何かの縁で出会った人間くらいは救っていきたいなって思ってんだよね。
今回のお前と俺も、出会いっちゃ出会いじゃん?
しかも、強盗しようとした人間と強盗されそうになった人間、なんていう出会い方、めっちゃ面白くない?」
そう言って、広瀬はケタケタと笑った。
しかし八尾は、今広瀬が口にした『グループ』の存在が気になって仕方がなく、笑ってなどいられなかった。
すぐさま、頭に浮かんだことを広瀬に訴えかける。
「じゃ、じゃあ!
もしかして俺も……そのグループに入れてもらえたりする……のかな……?」
「ああ。お前が望むんなら。
パチ屋で負った借金はパチ屋で取り返したいだろ?
それにさ、勝たなきゃスロの本当の楽しさ、素晴らしさってのもわかんないだろうし。
俺としては、それを知ってもらいたいってのもあってさ」
「じゃあ俺、是非広瀬君のグループに……」
「ああ、来なよ。明日からでも」
「あ、あ、ありがとう!」
「まあいいからさ、とりあえず食っちゃおうぜ」
八尾は黙って頷き、残りのうどんを一気に平らげた。
食事後、軽く一服した後店を出て、その場で携帯の番号を交換した。
それから広瀬は、明日『マルサン』に来るようにと八尾に告げ、その場を去っていった。
(広瀬……君か。なんか不思議な男だな。パチスロを愛してるって……。変な男だ)
心の中で軽く毒づいてみる八尾だったが、その実、広瀬という人間に強烈に惹かれていた。
そして、広瀬と過ごしたたった数十分のおかげで、先ほどまで胸の中に渦巻いていた黒雲がいつの間にか消え去っていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日から、約束どおり広瀬は八尾をグループに入れ、パチスロのイロハを教え込んでいった。
そして、広瀬の指示通りに打ち、勝った金の8割を打ち手が貰い、残り2割はグループへ入れるというルールに従った。
これは八尾だけでなく、広瀬のグループにいる人間全員に課される義務。
そしてこの2割ずつ集められた金を「救済基金」とし、当日の収支がマイナスだった者はここから予め決められたルールに基づいて分配を受ける。
なぜこんなシステムがあるのか?
その理由は……。
パチスロは、高設定に座り続けても負け続けることが多々ある。
そんな時、「正しい立ち回りなのだから、これは仕方のないことだ、単なる確率のイタズラだ」と無理矢理自分を納得させるが、やはり内心気持ちの良いものではない。
そんな気苦労を少しでも減らそうとして、広瀬が考案したのが上記の制度。
完全なノリ打ちにすると、大勝ちした者としてはガックリきてしまう。
もちろん、逆に助けられることもあるゆえ、仕方のないことだと頭では理解できるのだが、それでもある程度は気分的にヘコんでしまうだろう。
しかし、2割程度なら問題ない。
いざ自分が負けた時に、この資金から助けてもらうのだから、なんら問題なく出せる。
なるべく打ち手に日々のストレスを溜めさせないように、という広瀬の思いやりから生まれた、「保険」と同じようなシステムだった。
このシステムは、グループ内では大好評だった。
ただ一人を除いて……。
うどん屋のカウンター席に横並びで座った広瀬と八尾の二人。
広瀬は、うどんをすすりながら八尾に話しかけた。
「えっと、20歳……です」
「なんだ、俺とタメじゃん!」
「え……? あ、そ、そうなん……っすか?」
「うん。
あれ? なんか意外そうにしてない?
俺、そんな老けて見えた?」
「いや、むしろ俺より下かな、って……」
「危ね~!
下に見られたならまだいいや。
いや、いきなり敬語使われたから、年上に見られたのかと思ってショック受けたよ~。
勘弁してくれよ~」
「あ、あはは……」
「じゃあ、普通に喋りなよ!
俺、タメに敬語使われるの大っ嫌いなんだよ」
「あ……う、うん……」
八尾は、広瀬の豪放磊落さに圧倒されていた。
それもそのはず。
つい今しがた金を奪おうとしていた男に、うどんを奢られているのである。
気圧されてしまうのも当然だ。
「あ、あのさ広瀬君。
いっこ聞いていい……?」
うどんをすする広瀬に、おそるおそる質問する八尾。
「ん? 何?」
「あのさ、なんでこんな俺をメシに誘ってくれたの?
俺は、キミから金を奪おうとしてたのに……」
「なんだ、そんなことか」
「そ、そんなことって……」
「簡単な話だよ。
お前、あれだろ? パチかスロで負けまくって、そんで借金膨らんであんなことしようとしてたんだろ?」
「な、なんでそれが……?」
「あんな計画性のない換金所強盗ってのは、大概はパチ屋で負けた奴が突発的にやるもんさ。実際そうだったろ?」
「まあ……そんなとこ……かな」
広瀬はいったん箸を置き、視線を宙へやりながら呟くように語りだした。
「俺さ、パチスロを愛してんだよね。あんなにかわいいモンはないよ。こっちの要望にはきっちりと応えてくれる。つまり、高設定を打ち続ければきっちりと結果がついてきてくれる。
巧みなリール制御や演出で楽しませてくれてるのに、金まで貰えるんだぜ?
ま、たまにヘソ曲げちゃう時もあるけどね。理不尽なハマリとか。それがまた、たまんないんだけどね!」
「……」
「パチスロってのはそんな素晴らしいもんなのに、そのパチスロが原因でああいう行動起こす人間がいるってのが悲しくてさ。
俺、今グループ組んでで、人数も15人くらいいるんだけど、全員元々はお前みたいな感じだったんだ。みんな、パチやスロが原因で二進も三進もいかなくなっててな。さすがに、お前みたいに強盗までやらかそうって奴はいなかったけど」
ははは、と軽く笑った広瀬は、そのまま言葉を続けた。
「そういう人間を全員救うことなんて出来ないけど、せめて何かの縁で出会った人間くらいは救っていきたいなって思ってんだよね。
今回のお前と俺も、出会いっちゃ出会いじゃん?
しかも、強盗しようとした人間と強盗されそうになった人間、なんていう出会い方、めっちゃ面白くない?」
そう言って、広瀬はケタケタと笑った。
しかし八尾は、今広瀬が口にした『グループ』の存在が気になって仕方がなく、笑ってなどいられなかった。
すぐさま、頭に浮かんだことを広瀬に訴えかける。
「じゃ、じゃあ!
もしかして俺も……そのグループに入れてもらえたりする……のかな……?」
「ああ。お前が望むんなら。
パチ屋で負った借金はパチ屋で取り返したいだろ?
それにさ、勝たなきゃスロの本当の楽しさ、素晴らしさってのもわかんないだろうし。
俺としては、それを知ってもらいたいってのもあってさ」
「じゃあ俺、是非広瀬君のグループに……」
「ああ、来なよ。明日からでも」
「あ、あ、ありがとう!」
「まあいいからさ、とりあえず食っちゃおうぜ」
八尾は黙って頷き、残りのうどんを一気に平らげた。
食事後、軽く一服した後店を出て、その場で携帯の番号を交換した。
それから広瀬は、明日『マルサン』に来るようにと八尾に告げ、その場を去っていった。
(広瀬……君か。なんか不思議な男だな。パチスロを愛してるって……。変な男だ)
心の中で軽く毒づいてみる八尾だったが、その実、広瀬という人間に強烈に惹かれていた。
そして、広瀬と過ごしたたった数十分のおかげで、先ほどまで胸の中に渦巻いていた黒雲がいつの間にか消え去っていた。
◇◇◇◇◇◇
翌日から、約束どおり広瀬は八尾をグループに入れ、パチスロのイロハを教え込んでいった。
そして、広瀬の指示通りに打ち、勝った金の8割を打ち手が貰い、残り2割はグループへ入れるというルールに従った。
これは八尾だけでなく、広瀬のグループにいる人間全員に課される義務。
そしてこの2割ずつ集められた金を「救済基金」とし、当日の収支がマイナスだった者はここから予め決められたルールに基づいて分配を受ける。
なぜこんなシステムがあるのか?
その理由は……。
パチスロは、高設定に座り続けても負け続けることが多々ある。
そんな時、「正しい立ち回りなのだから、これは仕方のないことだ、単なる確率のイタズラだ」と無理矢理自分を納得させるが、やはり内心気持ちの良いものではない。
そんな気苦労を少しでも減らそうとして、広瀬が考案したのが上記の制度。
完全なノリ打ちにすると、大勝ちした者としてはガックリきてしまう。
もちろん、逆に助けられることもあるゆえ、仕方のないことだと頭では理解できるのだが、それでもある程度は気分的にヘコんでしまうだろう。
しかし、2割程度なら問題ない。
いざ自分が負けた時に、この資金から助けてもらうのだから、なんら問題なく出せる。
なるべく打ち手に日々のストレスを溜めさせないように、という広瀬の思いやりから生まれた、「保険」と同じようなシステムだった。
このシステムは、グループ内では大好評だった。
ただ一人を除いて……。
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