ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第50話 : 刻々と悪化する状況

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開店から1時間が経過し、時刻は11:00。

優司の頭上には、既に満タンに近いドル箱が1つ。
下皿にもそこそこコインがある状態。
出玉にして、トータル1500枚ほどとなっていた。

つまり、この勝負においては『かなり悲惨な状況』に置かれている。

(嘘だろ……?
 1時間で1500枚放出って……
 なんでだ? なんでなんだよッ……
 一向に128Gを突破する様子がないじゃん……)

巨人の星の当たり濃厚ゾーンである128Gをまったく超えず、128G以内の連チャンを繰り返していた。
128Gさえ抜けてしまえば、そこからはハマる可能性が高いのに。

段々とイヤな汗が出てきた。

ハマるために完璧な台を選んだはずなのに、結果がついてこない。
『なぜだ、なぜなんだ』という不毛な自問自答が心の中で続く。

そして……。

(……待てよ?
 よく考えたら、この状態って……
 もしかして……普段の俺っ?
 そうだ! これって、普段の俺の状況と全く同じじゃん……
 いつも完璧に6に座ってんのに、極端なヒキ弱のせいで結果がついてこない。
 出したいと思って立ち回ってんのに全然出ない。
 今回は、ただそれが逆転してるだけ……)

自然と手が止まってしまう。
うつむき加減になり、表情もうつろ。

そんな優司を監視しつつ、信次は思う。

(す、すごい……。ほ、ほんとに八尾さんの言った通りになった……
 こ、ここまでズバリ言い当てるなんて……)

勝負を取り付けた直後に、ヒキ弱・ヒキ強という概念に関しての八尾の熱弁。
それを今、鮮明に思い出す信次だった。

(あ、あの時は勢いに流されて納得したけど、れ、冷静になってみるとやっぱりイマイチ納得がいかなかった。
 『ヒキ』なんてものは偶然の産物なんだし、そ、そんなにうまいこといくわけない、って。
 で、でも、今実際に八尾さんの言ったとおりになってるんだ。
 『ヒキ』ってのが、こ、ここまで露骨に表れるだなんて……)



◇◇◇◇◇◇



しばらく手が止まっていた優司。
しかし、すぐに気を取り直す。

(大丈夫だ。信じろ。
 この台は設定1濃厚なんだ。
 短期的には出ることもあるけど、長い目で見れば絶対にヘコむ!
 今はたまたま出ちゃってるだけだ。
 回せ、回せ!)

止まっていた手を動かし、猛然と回しだした。



一方、八尾を監視する日高は……。

(夏目のやつ、もう箱使ってんのか。
 それに引き換え、八尾は今ようやくボーナスを引いたところだ。
 21000円使って、しかもバケ。
 いきなり大差つけられてんじゃねぇか……)

優司とは違い、順調そのものの八尾。
頭上のゲーム数カウンターは『638』、ここでようやくボーナスを引いたのだ。
しかもREG。

たった1時間で、現金にして5万円以上の大差。
優司にとってはかなり絶望的な状況。

(ヒキなんてもんは信じない俺だけど、夏目に限っては本当にありそうな気がしてくるぜ……
 なんでこんなに、ことごとく悪い方へ偏るんだよ……)

日高は、まるで自分のことのように焦っていた。

そんな日高へ、REGを消化し終えた八尾が悠々と話しかける。

「よぉ、お宅の大将、なんだか調子良さそうだねぇ。
 もうあんなに出しちゃってんじゃん! 羨ましいなぁ~。
 俺なんて、ほれ、2万使ってまだこれっきゃないぜ?」

下皿にある100枚ちょっとのコインを指差した。

「うるせぇ。いい加減にしねぇと、この勝負自体をぶち壊すぞ……。
 あんま調子乗んなよテメェ……」

ニヤっと笑った後、再びプレイに戻る八尾。
だが、それでも日高は八尾の後姿を睨み続けていた。
拳を握り締めながら。

(こんなにイラつく野郎も珍しいぜ。
 クソッ……本当にブッ飛ばしてやりてぇ……)

はらわたが煮えくりかえる思い。
我慢の限界ももう間近だった。

(監視役が遼介じゃなくて正解だったな。
 あいつだったら、朝の時点でもう手が出てただろうし)

必死で自分を落ち着け、なんとか冷静に監視役を務めようとする。

(頼む、夏目……。なんとかしてくれ……。こんなヤツに負けないでくれ……)
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