ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第46話 : 陰謀渦巻く勝負ルール③

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「待たせたな、八尾」

そう告げた優司は、日高とともに先ほどまで座っていた席へついた。

「早速だけど、最後の『ペナルティ』についてのルール、これは無効にしてくれないか」

「は?
 こ、これは必要だろ?
 公平なルールじゃねぇか! 何が問題なんだよ!」

「今、日高とも話したんだけど、ストック機でのボーナス後0Gヤメが3000円のペナじゃ、吉宗とかで悪用もできるだろ?」

「……」

「よく吟味していけば、他にも悪用できることがあるかもしれない。
だからこのルールは外してくれ。
3000円とかじゃなく、その場で失格にしようぜ」

「……どうしてもか?」

「ああ。それができないんならこの勝負は無効だ」

優司の強気な言葉を受け、しばらく黙り込む八尾。

日高は、横で腕組みをしながらジッと八尾を見据えている。

八尾の連れの信次は、なんだかソワソワした感じだ。

「……わかった。そこまで言うんならそのルールは外そう。
 勝負してくれないんじゃ話にならないしな」

この言葉で、一気に表情が緩む優司。

強気な発言をしながらも、ここまできて勝負相手がいなくなるのは優司にとっても痛手なのだ。
やっと見つかった勝負相手なのだから。

「そっか!
 それさえ外してくれるんならOKだ。
 あとは問題なさそうだし。
 じゃあ、反則を犯したらその場で失格な」

緊張が解けた面持ちの優司に対し、八尾は淡々と言葉を返す。

「ああ。
 じゃあこれで決まりでいいな?
 あとでウダウダ言うのはナシだぜ」

「ああ、わかったよ」

「よし。じゃあこのルールでいこう。
 ここに決めたこと以外はなんでもアリだ。
 お互いの機転が重要になってくる勝負ってことで」

八尾はそう言って、先ほどの紙に『反則があった場合は即座に失格』・『この紙に書いていないことならば何でもアリ、各々の機転で動いてよし』という項目を追加した。

そして、テーブルに置かれていた優司たちに渡した方の紙にも同様の書き込みを行なった。

ここで、一瞬日高の表情が曇る。
しかし、優司は気にせず話を進める。

「よし、これで決まりだね。
 で、勝負の日はいつにするんだ?」

「10月30日の土曜日、ベガスの前に、ここにいる4人で集合。
 これでどうだ?」

「約10日後か。
 随分日にちが空くけど……まあいいや、わかった。10月30日ね」

そう言いながら席を立とうとする優司。
それに続く日高。

「じゃあ俺らは帰るよ。
 くれぐれも勝負金バックれようとかはしないでくれよ。
 たまにそういう人間がいて苦労したもんだからさ」

「さすがは8連勝中のルーキー君だねぇ。
 既に勝った気とはね」

最後の優司の言葉にイラついたのか、八尾が挑発的な言葉を返す。

しかし、無事に勝負方法や日取りが決まったことに気を良くしていた優司は、あえて八尾の言葉を無視してそのまま立ち去った。

去りゆく二人を、苦々しい表情で見送る八尾。

(ちッ……。余裕ぶりやがって……。
 まあでも、今日のこのやりとりは俺の圧勝だな。
 ふふふふ……。バカが。
 夏目のやつ、まんまとハマりやがった。
 思い知らせてやるぜ……)



◇◇◇◇◇◇



「なぁ、あそこで席を立っちまって良かったのか?」

喫茶店の外へ出るなり開口一番、気になっていたことを口にする日高。

「ん? なんで?
 話はまとまったじゃん」

「まあ……そうなんだけどよ。
 どうにも、八尾が言ってた『ここで決めたこと以外はなんでもアリ』ってセリフが引っ掛かってな。
 しっかりと紙にも書き足してやがったし」

「ああ、あれね。
 俺もちょっとは気になったけど、まあ大丈夫だと思ってさ」

「それが危険なんじゃないのか?
 確かに、あそこまで話が進むと難癖つけにくい心理状態だよな、お互い。
 もう話もまとまりかけてるんだし、あそこからまた吟味すんのは面倒だ。
 だからこそ、それを狙ってあんなタイミングで書き足したんじゃねぇか?
 何か企んでる可能性も充分に考えられるんだし、なんだったら、ルールが書かれたこの紙を一回持ち帰って、一日じっくりチェックしたってやりすぎってことはないと思うぜ? 」

「……まあ、疑いだしたらキリがないしさ。
 大丈夫だよ! なんとかするって!
 俺には8連勝のノウハウもあるし勝ち運もある。
 相手をナメてるわけじゃないけど、自信を持つことは大事でしょ?」

「……まあな。でも、自信が過信にならないように気をつけろよ。
 そうなった瞬間、お前は負けるぜ」

「ああ、わかってるって!」

日高としても、優司がなんの勝算もなく大言を吐く男でないことは知っている。
なので、そこまで心配するのは不毛じゃないか?という気持ちもある。

だが、ここまで連勝する以前の優司とは微妙に言動・行動に違いを感じてしまう。
それが、日高の不安を駆り立てていた。

(まあでも、コイツはやる時はやるヤツだしな)

あえてそう思い込み、不安をかき消した。



◇◇◇◇◇◇



「だ、大丈夫なんですか八尾さん?
 さ、最後のルール、外されちゃったじゃないですか……?
 ア、アレって、このルールの肝だって言ってましたよね?」

不安そうに八尾を問い詰める信次。
だが、対する八尾は余裕の表情。

「へっ、大丈夫も何も、まさかあそこまで計算どおりに事が運ぶとは思ってもなかったぜ。
 まあ、あいつらがバカならここまで上手いこといかなかったから、そのへんは感謝だな。
 ちっとはまともな頭してやがるってことに」

「え……? け、計算どおりって……?」

「お前に『あのルールが肝』って言ったのは、ありゃ嘘だ。
 お前のハラハラしてる態度をあいつらに見せてやりたいからあえて言ったのさ。
 敵を欺くにはまず味方から、って言うだろ」

ポカーンとする信次。

「つまり、あのルールは撒き餌だ。
 あいつらだって、俺が何か企んでるくらいのことは予想してるだろ?
 でもな、最初から俺は、ルールに特別な何かを盛り込むつもりはなかった。
 強いて言えば、『ルールに書かれたこと以外は何でもアリだ』って認めさせることくらいだな」

「そ、そうだったんですか……?」

「ああ。
 俺の本当の仕掛けに注意がいかないよう、あえて何か策を弄してるように見せかけてやったんだよ。
 まんまと喰い付いてきやがったな。
 ま、わざわざそこまでしなくても、あんな甘ちゃんどもがあの時点で俺の仕掛けに気付くなんてことは不可能だけどな」

「は、はぁ……」

「まあ、当日見とけよ。
 俺は絶対に勝つぜ。
 あんなお友達ごっこしてるやつらに負けてたまるかよ。
 ……人生には勝つか負けるかしかねぇんだ。絶対に勝たなきゃ駄目なんだ……。どんな手を使ってでも……」

「……」

信次と喋っていたはずの八尾だが、いつの間にか自分に言い聞かせるような口調になっていた。
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