ゴーストスロッター

クランキー

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【第3章】

■第37話 : 友人たちの困惑

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話は戻り、優司と小島と斎藤の3人が飲んでいる居酒屋『魚次郎』。

依然、優司の愚痴は続いていた。



「なぁ小島ァ……。
 なんで俺みたいな優秀なスロッターが、こんなに苦しまなきゃいけねぇんだよぉ……。
 おかしくねぇかぁ……?」

テーブルに突っ伏し、ギリギリで呂律を回しながら言葉を繰り出す。
既に優司は泥酔状態だった。

「わ、わかったッスから! なるべく早めに相手を探しますよ!
 日高さん達も動いてくれてるんだし、もう少ししたら見つかりますって」

「だといいけどなぁ……どうだかなぁ……」

「……」

もはや、小島も斉藤もついていけないといった感じだった。
たまらず斉藤が反論する。

「ちょっと待ってよ!
 日高君も真鍋君も、一生懸命勝負相手を探してくれてるんだし、そんな言い方はないんじゃないの?」

「なぁにムキになってんだよ斉藤ぉ。いちいちあつくなるなって~」

酒に染まった真っ赤な顔をしながら、半笑いで斉藤の肩に手を置く優司。

酒に弱い方ではない優司だが、今日はいつもよりも明らかに酒量が多い。
普段とは比べ物にならないくらいの酔い方だった。

ここで二人とも我慢の限界に達し、会計をして店を出ることにした。



◇◇◇◇◇◇



会計を済ませ、店の外へ出た3人。

「んじゃぁ、俺は帰るよ~。
 帰るっつっても、俺に家はないんだけどねぇ。所詮はマンガ喫茶かカプセルだよ。ハッハッハッ!」

ご陽気な優司とは裏腹に、小島も斎藤も渋面を作っている。

「じゃあなぁ~! また明日ぁ~!」

楽しそうに千鳥足で去っていく優司を見送りながら、斉藤と二人になった小島がポツリと漏らす。

「夏目君、なんか変わっちゃったッスね……」

「ああ、そうだな。
 さすがに普段はあそこまでじゃないけど」

「まあ、今日はだいぶ酒入ってたッスからねぇ」

「でも、最初会った時と比べりゃかなり変わったな。
 真鍋君に勝った人だからってんで、同い年とはいえかなり尊敬してたんだけどなぁ、俺は。
 なんか、徐々に変わってきちゃったよな。」

「鮫島に勝ったあたりからッスよね。
 アイツが、賭け金の30万をバックれようとした時に真鍋さん達が追い込みかけたじゃないッスか?
 その様子を見てた夏目君が、『まだ甘い、もっと徹底的に追い込もう』みたいなこと言ってたの見ちゃって……
 今までの夏目君なら、絶対そんなこと言わなかったのに」

「確かに、前よりは何事にも強気になったよな。
 よく言えば『自分に自信を持つようになった』、悪く言えば『傲慢になった』、って感じだな」

「そうッスね。
 自分は今でも夏目君を嫌いじゃないんスけど、やっぱり以前よりは取っ付きにくくなったッス……」

「俺もそう思うよ。
 でも、ああやって変わっちゃったのも、わからないでもないけどな。
 みじめなホームレスの立場から、スロ勝負の連勝で200万円以上の金を手にして、名前も一気に知れ渡って、っていう感じで状況が激変したんだから。
 今の自分が置かれている環境に感情がついていかなくて、おかしくなっちゃってるのかもな」

「なるほどッス……」

軽くため息をついた後、斉藤が話し出す。

「なんにせよ、夏目君の設定読みの力は本物だ。俺としては、このまま勝ち続けて欲しい。
 なんだかんだで、仲間だしさ」

「……ッスね」

「それにさ、勝ち続けることで勝つことに慣れて、精神状態も安定して、また当時の謙虚な夏目君に戻ってくれるかもしれないじゃん」

「なるほど、確かにそうッスね。
 じゃあ、とにもかくにも、まずは勝負相手を少しでも早く探すべきですか?」

「そうだな」

「多少厳しい相手でも大丈夫ッスかね?」
 北条さんとか緒方さんとか」

「ああ。広瀬君にも勝っちゃった以上、そのへんのレベルの人に挑まないと受けてくれないだろ。
 彼らが受けてくれるかどうかはわかんないけど」

斎藤の言葉を受け、小島は何かを決意したように口を開いた。

「あの……。
 それだったら、いっそここらで神崎さんに挑んでみるってのはどうッスかね……?」

斎藤の顔色が変わる。

「はっ? お前、言ってる意味わかってんのかっ?」

「い、いや、そりゃ無茶言ってんのはわかってるッスけど、是非見てみたいって感じで……」

「あのなぁ……。
 小島の神崎さん憧れが凄いのは知ってるけど、もし実現したとしてもどっちかが泣くことになるんだぜ?
 そもそも、あの神崎さんが簡単にパチスロ勝負なんて受けてくれないだろうし」

「やっぱそうッスかねぇ……」

「ああ。もし勝負してくれても、夏目君が負けるのは目に見えてるぞ。
 神崎さんは格が違うんだしさ」

「そうッスね……。確かに、神崎さんがパチスロで誰かに負けるなんて姿は想像できないッス」

「だろ?
 俺たちは、あくまで夏目君の味方なんだ。そうじゃなきゃダメなんだよ。
 あんましそういうことは言わない方がいいぞ」

「……ッスね。気を付けます」

そのまま二人とも、なんとなく曇った表情のまま黙りこくってしまった。
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