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【第2章】
■第24話 : 不可思議な台選び
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いよいよ、真鍋との勝負当日となる2004年7月12日、月曜日。
優司は、朝7時から一人で並んでいた。
日高と勝負した日と同じように、開店3時間前から。
(それにしても、なんだか不思議な感じだな。
日高と勝負するために、つい2週間くらい前もこうやって誰もいないうちから並んでたっけ)
数日前の絶望感が嘘のようになくなり、懐かしさを感じられるくらいの余裕は取り戻していた。
(いや、油断するな俺。
多少の余裕を持つのはいいけど、過信は絶対にダメだ。
考えうるベストな策を講じたとはいえ、まだわからないんだし。
勝負は、決着がつくまで何が起こるかわからない。いつ足元をすくわれることになるかわからないんだ……)
緩んだ緊張感に、自ら渇を入れた。
なにしろ、ここで負ければすべてを失うことになってしまうのだから。
せっかく手に入れることができた、当面生活に困らない金と、自分が持つパチスロ立ち回りテクニックへの自信。
負ければ、それらがすべてご破算になってしまう。
かつ、日高たちとの交流までなくなってしまうかもしれない。
なぜ優司が、「負けたら日高たちとの交流まで失ってしまう」と考えているのか?
それは、仲良くなったきっかけが「スロのウデを認められたこと」だから。
そこから始まっているのに、あっさりとパチスロ勝負で負けてしまっては、関係が成り立たなくなると思い込んでいるのだ。
もちろん日高たちとしては、今となってはパチスロのウデだけを認めて仲良くしているわけではない。
何度か酒を酌み交わし、意気投合すれば、そんな小さなことは関係がなくなるもの。
しかし優司は、「ある理由」で学生時代から人間関係の面でやや苦しんでいたことがあった。
そしてさらに、ここ数ヶ月の孤独なホームレス生活も追い討ちとなり、一層人とのコミュニケーションについて屈折した考えを持ち始めていたのだ。
これらが原因となって、当たり前のことに気づけなくなっており、「ここで負けたら日高たちと仲間でいられなくなる」、そう考えてしまっていたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「よぉ! 早いな。
よく逃げずにきたもんだ! ハハハッ!」
開店1時間前、軽口を叩きながら真鍋は一人でやってきた。
「……ああ。負ける気しないしね。
俺と勝負して勝てる奴なんて、そうそういないよ」
あえて強がる優司。
とはいえ、半分は本心だが。
「おお~、言うねぇ。
ついこないだ、『勝負ホールを変えてくれ』なんて泣きついてきたような奴がよ?」
(なんて憎たらしい奴だっ……。
日高は、こいつのことを『わりと人望がある』みたいに言ってたけど、到底信じられないな)
呆れる優司を尻目に、おかまいなしで話し続ける真鍋。
「ま、デカいこと言うのはこの俺に勝ってからにしろよ。
知ってるだろうけど、『シルバー』の設定発表は午後10時だ。そこで勝負終了な。
で、負けた方はきっちり30万を支払う、と」
「ああ、それは前にも聞いたよ。
で、日高の時と同様、両方とも朝一ツモった台が設定6じゃなかったら引き分け再勝負、だろ?」
「そうそう。
こんな読みが利かないホールじゃ、下手したら勝負が長引いちまうかもな。
まあ、結局勝つのは俺だけどよ!」
(勝手にほざいてろ)
生活がかかっていることもあるが、それ以上に「この男だけには負けたくない」という思いが強くなっていった。
◇◇◇◇◇◇
10:00。
並びは50人ほど。
優司は当然先頭、真鍋は2番目。
大型ホールの割には並びがキツくないため、開店1時間前に来た真鍋も2番目に並べていた。
時間ぴったりに開店し、二人とも狙い台を取る為にダッシュする。
優司の狙いは4階フロア。
2段飛ばしで階段を駆け上がる。
そして、その後ろにピッタリとついてくる真鍋。
(真鍋も4階狙いか。
ってことは、多分新台に行くんだろうな)
優司の予想通り、4階に着くやいなや真っ先に新台コーナーへと駆け込む真鍋の姿が見えた。
(4階フロアの新台コーナーは、シルバーの中でも一番設定状況がいい。10台に2台は設定6が入るからな。
さすがに真鍋も、ある程度は調べてきてるみたいだな)
しかし優司は、最も設定状況がいいとわかっている新台コーナーをあえてスルーした。
◇◇◇◇◇◇
新台コーナーへ意気揚々と乗り込んだ真鍋。
朝の並びが2番目だったこともあり、当然一番乗りだった。
選んだ機種は、まだ設置されたばかりのストック機『ボンバーパワフル』。
ホヤホヤの新台だ。
狙い台を無事取ることができた真鍋は、対する優司がどの台を押さえたのかを確認しようとあたりを見回した。
しかし、どこにも優司の姿が見当たらない。
(ん? 夏目はどこ行ったんだ?
あいつ、俺より前を走ってたくせに)
徐々に客で埋まっていく新台コーナーを探しまわるが、どこにも優司の姿はない。
もしやと思い、逆サイドにある旧台コーナーへ向かった。
すると。
「はっ? な、何やってんだアイツっ?」
思わず声が出た。
そこには、今まさに旧台コーナーのサンダーVに座ろうとしている優司がいたからだ。
慌てて優司の元へ駆け寄る真鍋。
「お、おい! お前、ふざけてんのかっ?
なんで今更サンダーなんかに座ってんだよ!」
「いけないの? 機種を問わず、設定6をツモればいいんだろ?」
「そ、そりゃそうだけど……
わかってんのかっ? この旧台のシマは、他のシマに比べて圧倒的に6の割合が少ないんだぞ?」
「そんなことは知ってるよ。
でも、割合が少ないだけで、6がまったく設置されてないわけじゃないじゃん。
当然、このシマで6をツモっても問題はないわけだし」
「そりゃあ……問題なんかねぇけどよ……」
優司の考えていることがわからずに、真鍋はただただ混乱した。
「ほら、もう勝負は始まってるんだからさ、早く自分の台を回しに行きなよ」
たっぷりと余裕を見せる優司。
だが、真鍋はなかなか引き下がらない。
「お前、本当にわかってんだろうな?
旧台からの設定6発表率は、20台に1台くらいの割合だぞ?
確率にすると5%なんだぞ?」
「わかってるって。しつこいな」
「じゃあなんでなんだよ!
俺は、ちゃんと設定6発表率の高い新台コーナーで台を選んだ。
しかも、このホールは新台の場合、ハジ台にはあんまし6を置いてこないし、6据え置きも少ない。
お前だって、こんなことくらい調べてるはずだろ? なのに、なんで――」
真鍋の言葉をさえぎるように喋りだす優司。
「だからさ、それを今説明する必要はないでしょ? いいからさっさと打ちに行ってくれよ」
優司の素っ気無い態度に呆然とする真鍋。
そんな真鍋を見ながら、優司が付け足す。
「ちなみに一つだけ言っとくと、今あんたが言ったような新台コーナーの特徴は、もちろん俺だって知ってるよ。
でも、その情報を利用したところで、6をツモれる確率は良くても3回に1回くらいだ。
俺は、そんな低い確率には賭けられない。
俺とあんたじゃあ、負けた時に失うものが違いすぎるんだよ」
淡々とした口調で話す優司になんとなく圧倒されてしまい、無言のまま踵を返し、自分の席に戻っていく真鍋。
(アイツ……。俺が思ってたよりもスゲェ奴なのかもな。
3回に1回って確率を低いと感じるなんて……。
俺にしてみりゃ、こんな読みづらいホールで、6をツモれる可能性がそんだけあれば充分だと思っちまうのに)
優司の考え方に驚きを感じつつ、確保していたボンバーパワフルに座り、1000円札をサンドに投入する。
早速稼動を開始したものの、一つ、小さな疑問が沸いた。
(それにしても、気になることがある。
俺より前を走っていたはずの夏目が、なぜか俺よりも台を押さえるのが遅かった。
俺は、自分の狙い台を押さえた後しばらく経ってから旧台コーナーに行ったのに、アイツはその時、ようやく自分の台を選び終わったところだった。
事前に狙い台を決めてなかったのか……?
当日の朝にならなきゃわからないことでもあったのか……?)
優司は、朝7時から一人で並んでいた。
日高と勝負した日と同じように、開店3時間前から。
(それにしても、なんだか不思議な感じだな。
日高と勝負するために、つい2週間くらい前もこうやって誰もいないうちから並んでたっけ)
数日前の絶望感が嘘のようになくなり、懐かしさを感じられるくらいの余裕は取り戻していた。
(いや、油断するな俺。
多少の余裕を持つのはいいけど、過信は絶対にダメだ。
考えうるベストな策を講じたとはいえ、まだわからないんだし。
勝負は、決着がつくまで何が起こるかわからない。いつ足元をすくわれることになるかわからないんだ……)
緩んだ緊張感に、自ら渇を入れた。
なにしろ、ここで負ければすべてを失うことになってしまうのだから。
せっかく手に入れることができた、当面生活に困らない金と、自分が持つパチスロ立ち回りテクニックへの自信。
負ければ、それらがすべてご破算になってしまう。
かつ、日高たちとの交流までなくなってしまうかもしれない。
なぜ優司が、「負けたら日高たちとの交流まで失ってしまう」と考えているのか?
それは、仲良くなったきっかけが「スロのウデを認められたこと」だから。
そこから始まっているのに、あっさりとパチスロ勝負で負けてしまっては、関係が成り立たなくなると思い込んでいるのだ。
もちろん日高たちとしては、今となってはパチスロのウデだけを認めて仲良くしているわけではない。
何度か酒を酌み交わし、意気投合すれば、そんな小さなことは関係がなくなるもの。
しかし優司は、「ある理由」で学生時代から人間関係の面でやや苦しんでいたことがあった。
そしてさらに、ここ数ヶ月の孤独なホームレス生活も追い討ちとなり、一層人とのコミュニケーションについて屈折した考えを持ち始めていたのだ。
これらが原因となって、当たり前のことに気づけなくなっており、「ここで負けたら日高たちと仲間でいられなくなる」、そう考えてしまっていたのだった。
◇◇◇◇◇◇
「よぉ! 早いな。
よく逃げずにきたもんだ! ハハハッ!」
開店1時間前、軽口を叩きながら真鍋は一人でやってきた。
「……ああ。負ける気しないしね。
俺と勝負して勝てる奴なんて、そうそういないよ」
あえて強がる優司。
とはいえ、半分は本心だが。
「おお~、言うねぇ。
ついこないだ、『勝負ホールを変えてくれ』なんて泣きついてきたような奴がよ?」
(なんて憎たらしい奴だっ……。
日高は、こいつのことを『わりと人望がある』みたいに言ってたけど、到底信じられないな)
呆れる優司を尻目に、おかまいなしで話し続ける真鍋。
「ま、デカいこと言うのはこの俺に勝ってからにしろよ。
知ってるだろうけど、『シルバー』の設定発表は午後10時だ。そこで勝負終了な。
で、負けた方はきっちり30万を支払う、と」
「ああ、それは前にも聞いたよ。
で、日高の時と同様、両方とも朝一ツモった台が設定6じゃなかったら引き分け再勝負、だろ?」
「そうそう。
こんな読みが利かないホールじゃ、下手したら勝負が長引いちまうかもな。
まあ、結局勝つのは俺だけどよ!」
(勝手にほざいてろ)
生活がかかっていることもあるが、それ以上に「この男だけには負けたくない」という思いが強くなっていった。
◇◇◇◇◇◇
10:00。
並びは50人ほど。
優司は当然先頭、真鍋は2番目。
大型ホールの割には並びがキツくないため、開店1時間前に来た真鍋も2番目に並べていた。
時間ぴったりに開店し、二人とも狙い台を取る為にダッシュする。
優司の狙いは4階フロア。
2段飛ばしで階段を駆け上がる。
そして、その後ろにピッタリとついてくる真鍋。
(真鍋も4階狙いか。
ってことは、多分新台に行くんだろうな)
優司の予想通り、4階に着くやいなや真っ先に新台コーナーへと駆け込む真鍋の姿が見えた。
(4階フロアの新台コーナーは、シルバーの中でも一番設定状況がいい。10台に2台は設定6が入るからな。
さすがに真鍋も、ある程度は調べてきてるみたいだな)
しかし優司は、最も設定状況がいいとわかっている新台コーナーをあえてスルーした。
◇◇◇◇◇◇
新台コーナーへ意気揚々と乗り込んだ真鍋。
朝の並びが2番目だったこともあり、当然一番乗りだった。
選んだ機種は、まだ設置されたばかりのストック機『ボンバーパワフル』。
ホヤホヤの新台だ。
狙い台を無事取ることができた真鍋は、対する優司がどの台を押さえたのかを確認しようとあたりを見回した。
しかし、どこにも優司の姿が見当たらない。
(ん? 夏目はどこ行ったんだ?
あいつ、俺より前を走ってたくせに)
徐々に客で埋まっていく新台コーナーを探しまわるが、どこにも優司の姿はない。
もしやと思い、逆サイドにある旧台コーナーへ向かった。
すると。
「はっ? な、何やってんだアイツっ?」
思わず声が出た。
そこには、今まさに旧台コーナーのサンダーVに座ろうとしている優司がいたからだ。
慌てて優司の元へ駆け寄る真鍋。
「お、おい! お前、ふざけてんのかっ?
なんで今更サンダーなんかに座ってんだよ!」
「いけないの? 機種を問わず、設定6をツモればいいんだろ?」
「そ、そりゃそうだけど……
わかってんのかっ? この旧台のシマは、他のシマに比べて圧倒的に6の割合が少ないんだぞ?」
「そんなことは知ってるよ。
でも、割合が少ないだけで、6がまったく設置されてないわけじゃないじゃん。
当然、このシマで6をツモっても問題はないわけだし」
「そりゃあ……問題なんかねぇけどよ……」
優司の考えていることがわからずに、真鍋はただただ混乱した。
「ほら、もう勝負は始まってるんだからさ、早く自分の台を回しに行きなよ」
たっぷりと余裕を見せる優司。
だが、真鍋はなかなか引き下がらない。
「お前、本当にわかってんだろうな?
旧台からの設定6発表率は、20台に1台くらいの割合だぞ?
確率にすると5%なんだぞ?」
「わかってるって。しつこいな」
「じゃあなんでなんだよ!
俺は、ちゃんと設定6発表率の高い新台コーナーで台を選んだ。
しかも、このホールは新台の場合、ハジ台にはあんまし6を置いてこないし、6据え置きも少ない。
お前だって、こんなことくらい調べてるはずだろ? なのに、なんで――」
真鍋の言葉をさえぎるように喋りだす優司。
「だからさ、それを今説明する必要はないでしょ? いいからさっさと打ちに行ってくれよ」
優司の素っ気無い態度に呆然とする真鍋。
そんな真鍋を見ながら、優司が付け足す。
「ちなみに一つだけ言っとくと、今あんたが言ったような新台コーナーの特徴は、もちろん俺だって知ってるよ。
でも、その情報を利用したところで、6をツモれる確率は良くても3回に1回くらいだ。
俺は、そんな低い確率には賭けられない。
俺とあんたじゃあ、負けた時に失うものが違いすぎるんだよ」
淡々とした口調で話す優司になんとなく圧倒されてしまい、無言のまま踵を返し、自分の席に戻っていく真鍋。
(アイツ……。俺が思ってたよりもスゲェ奴なのかもな。
3回に1回って確率を低いと感じるなんて……。
俺にしてみりゃ、こんな読みづらいホールで、6をツモれる可能性がそんだけあれば充分だと思っちまうのに)
優司の考え方に驚きを感じつつ、確保していたボンバーパワフルに座り、1000円札をサンドに投入する。
早速稼動を開始したものの、一つ、小さな疑問が沸いた。
(それにしても、気になることがある。
俺より前を走っていたはずの夏目が、なぜか俺よりも台を押さえるのが遅かった。
俺は、自分の狙い台を押さえた後しばらく経ってから旧台コーナーに行ったのに、アイツはその時、ようやく自分の台を選び終わったところだった。
事前に狙い台を決めてなかったのか……?
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