11 / 138
【第1章】
■第11話 : 完全決着
しおりを挟む
午後9時。
ついに、設定発表の時刻となった。
運命の時を前に、優司は日高のもとへ行き、余裕をたっぷりとまとった声で言う。
「いよいよ発表の時間だね」
「……ああ」
日高はすでに、ある程度結果が分かっている様子だった。
そんな日高とは逆に、まだまだ日高の勝利を盲目的に信じている藤田。
「うるせぇぞ夏目! 日高さんがお前なんかに負けるかよ」
そう宣った直後、優司が打っていた北斗の右ハジ台に、ブッスリと「設定6」の札が刺さった。
日高は、その様子を無表情のまましばらく眺めてから、軽くため息をつき、優司に向けて言葉を放った。
「……とりあえず、コインを流して一旦外に出るか。
夏目も、6とはいえ、もうその台いいだろ? 全然出てないしよ」
「うん、俺はいいけど」
「よし。じゃあ行こうぜ。
藤田、お前も来いよ」
藤田は、引きつった顔をしながら小さく頷いた。
◇◇◇◇◇◇
「なんでだ? なんで、最後まであんなに余裕たっぷりでいられたんだ?」
外へ出るやいなや、日高は優司に詰め寄った。
出玉的に冴えなかったのに、終始自分の台に自信を持っていた優司の態度が不思議なのは当然だろう。
「なんでって言われても、それだけ自分の読みに自信があった、としか言いようがないよ」
この言葉に日高は異様に反応し、まくしたてるように話し出した。
「こんなはずはないんだ!
今日は土曜だよな。この店は、休日にはほぼ確実に前日一番ヘコんでた台に6を置いてくる店なんだよ。
それがさっきまで俺が打ってた台だ。本来なら、俺の台に6が入るはずだったんだ。
今日はたまたまイレギュラーで変なところに6が入っただけで、要はお前の勝ちは単なる運ってことだよ!」
動揺する日高に対し、優司は落ち着いた口調で返した。
「いや、運じゃないよ。
ていうか、今の話を聞いて、余計に運じゃなかったってことを確信したね。
ただ単に、君の読みが俺よりも劣っていただけだってことを」
「な、なんでだよっ?
俺はもう1年くらいこの店でジグマってんだぞ!
どう考えても俺の方がこの店について熟知してるはずだろ!」
「ジグマ期間が長けりゃいいってもんじゃないよ。
でも、この店だったらそこまでしっかりと分析しなくても勝ち続けられるかもね。ヌルいから。
まあ、そのヌルさのおかげで日高君が分析を怠ってくれたわけだから、今はそれに感謝してるよ」
「分析を怠った……?
じゃあ、俺には何が足りなかったっつーんだ? お前と俺とで何が違ったんだっ?」
「先に、渡すモン渡してもらえないかな?
前回痛い目見てるしね。そっちのバカに」
「……」
日高は、横にいる藤田を一睨みした後、おとなしく財布の中から30万円を取り出し、優司に差し出した。
藤田は、苦々しい表情を浮かべながらただただうつむいていた。
「30万円が入る財布を持ってるなんて凄いね。
じゃあ、遠慮なくもらうよ」
受け取った30万円をポケットにしまう優司。
その姿を確認した後、日高が前のめりで質問する。
「……で? 俺とお前の立ち回り、何が違ったんだ?」
優司は、少し考え込んでからおもむろに話し出した。
「まあ、もうこの店には来るつもりもないから教えとくよ。
まず、この店がヌルいことを知ってるってことは、設定の入れ方が決まりきってて、あんまり変則的なことはしてこないってのはわかってるよね?」
「ああ、もちろんだ。
だからこそ、この店で打ち続けてんだから。
そういうわかりやすいホールを見つけて、そこに居つくのもスロッターとしての腕だろ」
「まあね。
……で、確かにこのホールは、日高君の言うとおり、休日は、シマの中で前日に一番ヘコんでた台に必ず6を入れるクセがある。普段はね。
でも、『サラリーマンの一般的な給料日である25日を過ぎてからの最初の休日』は、ハジ台に、しかも前日によりヘコんでいた方のハジ台に6を置くクセがあるんだ。
今日は26日の土曜でしょ? しっかりとこの法則に当てはまる日ってわけ」
「な、なんだと……?」
日高は瞬時に青ざめた。
さすがの日高も、自分とは無縁の「サラリーマン」の給料日のことまで頭に入れていなかった。
サラリーマンの給料日やボーナス支給日の直後は、ホールにとっての回収期だということくらいは当然日高も知っていたが、それによりこの店の設定変更パターンが狂ってくることまでは読みきれていなかったのだ。
今回の勝負、優司にとっても『賭け』である部分もあった。
果たして日高が、どこまで今回の勝負ホールである『エース』に対して分析しているか。
この部分については未知だったのだから。
しかし、ヌルいホールをものにし、しかもそこでキッチリと勝ち続けているような状況ならば、いくら腕のあるスロッターとはいえ、その分析の精度も鈍るのではないか、と優司は考えていたのだ。
常勝しているような状況でもさらに分析を進め、月にたった1回程度設定変更パターンが違うということを見抜くなど神業に等しい、と。
人間、なかなかそこまでシビアになれるものではない。
好収支をキープし続けているような状況で、「もっとプラスを上乗せできるはず」と考えて、さらに調査・分析を進めるという行為はなかなかできることではないのだから。
結果的には、『エース』の極端なヌルさが、日高にとっては仇となった。
優司が口を開く。
「日高君、自分でもさっき『休日にはほぼ確実に前日一番ヘコんでた台に6を置く』って言ってたよね?
『ほぼ確実に』ってことは、何度かハズしてることもあったんでしょ?」
「あ……う……」
「そこんとこをもうちょっと詰めるべきだったね。
大体、少し考えればわかることだよ? なんだかんだいって、パチ屋の一番の上客はサラリーマンなんだ。そのサラリーマンに一番重きを置くのは当然でしょ?
そんな上客であるサラリーマンの給料日直後の休日に、なんらかのパターン変更があってもおかしくはない、って考えてみるくらいの柔軟さは必要だよ。
俺はそういうところにも気を配ってこのホールを分析して、2ヶ月でこのパターン変更を完全に見抜いたよ。
まあ、このホールが何でハジ台にこだわるのかは不明だけどね。知る必要もないし」
「……」
何も言い返せず、黙り込む日高と藤田。
特に藤田の表情は、この上ないほどに歪んでいた。
ついに、設定発表の時刻となった。
運命の時を前に、優司は日高のもとへ行き、余裕をたっぷりとまとった声で言う。
「いよいよ発表の時間だね」
「……ああ」
日高はすでに、ある程度結果が分かっている様子だった。
そんな日高とは逆に、まだまだ日高の勝利を盲目的に信じている藤田。
「うるせぇぞ夏目! 日高さんがお前なんかに負けるかよ」
そう宣った直後、優司が打っていた北斗の右ハジ台に、ブッスリと「設定6」の札が刺さった。
日高は、その様子を無表情のまましばらく眺めてから、軽くため息をつき、優司に向けて言葉を放った。
「……とりあえず、コインを流して一旦外に出るか。
夏目も、6とはいえ、もうその台いいだろ? 全然出てないしよ」
「うん、俺はいいけど」
「よし。じゃあ行こうぜ。
藤田、お前も来いよ」
藤田は、引きつった顔をしながら小さく頷いた。
◇◇◇◇◇◇
「なんでだ? なんで、最後まであんなに余裕たっぷりでいられたんだ?」
外へ出るやいなや、日高は優司に詰め寄った。
出玉的に冴えなかったのに、終始自分の台に自信を持っていた優司の態度が不思議なのは当然だろう。
「なんでって言われても、それだけ自分の読みに自信があった、としか言いようがないよ」
この言葉に日高は異様に反応し、まくしたてるように話し出した。
「こんなはずはないんだ!
今日は土曜だよな。この店は、休日にはほぼ確実に前日一番ヘコんでた台に6を置いてくる店なんだよ。
それがさっきまで俺が打ってた台だ。本来なら、俺の台に6が入るはずだったんだ。
今日はたまたまイレギュラーで変なところに6が入っただけで、要はお前の勝ちは単なる運ってことだよ!」
動揺する日高に対し、優司は落ち着いた口調で返した。
「いや、運じゃないよ。
ていうか、今の話を聞いて、余計に運じゃなかったってことを確信したね。
ただ単に、君の読みが俺よりも劣っていただけだってことを」
「な、なんでだよっ?
俺はもう1年くらいこの店でジグマってんだぞ!
どう考えても俺の方がこの店について熟知してるはずだろ!」
「ジグマ期間が長けりゃいいってもんじゃないよ。
でも、この店だったらそこまでしっかりと分析しなくても勝ち続けられるかもね。ヌルいから。
まあ、そのヌルさのおかげで日高君が分析を怠ってくれたわけだから、今はそれに感謝してるよ」
「分析を怠った……?
じゃあ、俺には何が足りなかったっつーんだ? お前と俺とで何が違ったんだっ?」
「先に、渡すモン渡してもらえないかな?
前回痛い目見てるしね。そっちのバカに」
「……」
日高は、横にいる藤田を一睨みした後、おとなしく財布の中から30万円を取り出し、優司に差し出した。
藤田は、苦々しい表情を浮かべながらただただうつむいていた。
「30万円が入る財布を持ってるなんて凄いね。
じゃあ、遠慮なくもらうよ」
受け取った30万円をポケットにしまう優司。
その姿を確認した後、日高が前のめりで質問する。
「……で? 俺とお前の立ち回り、何が違ったんだ?」
優司は、少し考え込んでからおもむろに話し出した。
「まあ、もうこの店には来るつもりもないから教えとくよ。
まず、この店がヌルいことを知ってるってことは、設定の入れ方が決まりきってて、あんまり変則的なことはしてこないってのはわかってるよね?」
「ああ、もちろんだ。
だからこそ、この店で打ち続けてんだから。
そういうわかりやすいホールを見つけて、そこに居つくのもスロッターとしての腕だろ」
「まあね。
……で、確かにこのホールは、日高君の言うとおり、休日は、シマの中で前日に一番ヘコんでた台に必ず6を入れるクセがある。普段はね。
でも、『サラリーマンの一般的な給料日である25日を過ぎてからの最初の休日』は、ハジ台に、しかも前日によりヘコんでいた方のハジ台に6を置くクセがあるんだ。
今日は26日の土曜でしょ? しっかりとこの法則に当てはまる日ってわけ」
「な、なんだと……?」
日高は瞬時に青ざめた。
さすがの日高も、自分とは無縁の「サラリーマン」の給料日のことまで頭に入れていなかった。
サラリーマンの給料日やボーナス支給日の直後は、ホールにとっての回収期だということくらいは当然日高も知っていたが、それによりこの店の設定変更パターンが狂ってくることまでは読みきれていなかったのだ。
今回の勝負、優司にとっても『賭け』である部分もあった。
果たして日高が、どこまで今回の勝負ホールである『エース』に対して分析しているか。
この部分については未知だったのだから。
しかし、ヌルいホールをものにし、しかもそこでキッチリと勝ち続けているような状況ならば、いくら腕のあるスロッターとはいえ、その分析の精度も鈍るのではないか、と優司は考えていたのだ。
常勝しているような状況でもさらに分析を進め、月にたった1回程度設定変更パターンが違うということを見抜くなど神業に等しい、と。
人間、なかなかそこまでシビアになれるものではない。
好収支をキープし続けているような状況で、「もっとプラスを上乗せできるはず」と考えて、さらに調査・分析を進めるという行為はなかなかできることではないのだから。
結果的には、『エース』の極端なヌルさが、日高にとっては仇となった。
優司が口を開く。
「日高君、自分でもさっき『休日にはほぼ確実に前日一番ヘコんでた台に6を置く』って言ってたよね?
『ほぼ確実に』ってことは、何度かハズしてることもあったんでしょ?」
「あ……う……」
「そこんとこをもうちょっと詰めるべきだったね。
大体、少し考えればわかることだよ? なんだかんだいって、パチ屋の一番の上客はサラリーマンなんだ。そのサラリーマンに一番重きを置くのは当然でしょ?
そんな上客であるサラリーマンの給料日直後の休日に、なんらかのパターン変更があってもおかしくはない、って考えてみるくらいの柔軟さは必要だよ。
俺はそういうところにも気を配ってこのホールを分析して、2ヶ月でこのパターン変更を完全に見抜いたよ。
まあ、このホールが何でハジ台にこだわるのかは不明だけどね。知る必要もないし」
「……」
何も言い返せず、黙り込む日高と藤田。
特に藤田の表情は、この上ないほどに歪んでいた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる