162 / 172
番外編②後編 - GOLEM / SHADOW編
番外編②-25 – 人間味
しおりを挟む
「部活の中では俺のことを皆んな『ゆづ』って呼ぶようになったんです。それは顧問の内倉先生も例外ではなく、授業以外では俺のことをそう呼んでました」
牧田は第三地区高等学校で男子バスケ部に入部しており、その顧問を内倉祥一郎が務めていた。
DEEDの麻薬オークション数日前にGOLEMとSHADOWが姿を現した際に、採血をしていなかった牧田や巻き込まれた一般人たちはDEEDのメンバーから責められ暴力を振るわれていた。偶然その場面に出くわしたGOLEMが怒りをあらわにしたのだ。
当初、杉本は横手の一般人、特に学生が巻き込まれているのを見て怒りを表明していたという証言からGOLEMは教育関係者や子供を相手にする仕事に就いているのではないかという推測を立てた。
しかし、正確には違った。
GOLEM、内倉祥一郎はDEEDのメンバーの中に数年前の自分の教え子がいたこと、そして他のメンバーからの扱いを見て明らかに巻き込まれていることを悟った。
「(もしかしたら、牧田の家庭のことから無理やり利用されていたという考えにも及んだかもしれないわね)」
そして突如目の前に現れた元教え子に対して困惑し、思わず口について出た言葉が『どうして……ゆづ』という言葉だったのだ。
牧田のことを『ゆづ』と呼ぶ者は当時男子バスケ部に入部していた部員やマネージャー、そして顧問である内倉祥一郎だけである。
GOLEMの口から漏れた『ゆづ』という言葉を聞き逃さなかった牧田はそのGOLEMの体型などからその正体が内倉であると確信したのだ。
「内倉せんせ……GOLEMは俺たちに暴力を振るっていたDEEDの人たちを一瞬で薙ぎ払った後に、交渉を行っていた上層部の人たちに『契約は取り止めだ』ってすごい剣幕で伝えていました」
牧田の言葉を聞いた後に花は1つ質問する。
「どうして……警察に連絡してくれなかったの?」
牧田は少し躊躇った後に答える。
「その……学生時代すごくお世話になった面倒見の良い先生で……今回も助けてもらえて……言えなかったんです。それに違う人かもしれないし……。あとは単純に脅迫されていたのも理由です」
花は「なるほど」と呟いた後に瀧への伝え方について考える。
「(瀧は明らかに私の動きを気にして本気を出していない。ただ周辺住人の避難完了の知らせがあいつにも送られてるはずだからこのビルから出て戦闘を始めるはず)」
花はこの1ヶ月の捜査期間中、瀧がGOLEMの行動について思うところがある様子を見ていた。
「(瀧は明らかになるまで本気を出せない気がする。かと言ってこの事実を知って内倉に情が移るのもまずい)」
––––花は瀧との会話を思い返す。
「杉本警部の考えが正しかった場合、あんたちゃんと闘えるの?」
瀧は今回の事件に関するMT (マテリアル・タブレット) をスワイプしながら答える。
「たりめーだ。こいつらがやってる事は許されることじゃねーだろ。ただコイツだけ少し異質じゃねーか。気になるんだよ。それだけだ」
#####
「あの言葉、信じるわよ、馬鹿」
花はそう小さく呟くと瀧に向けてメッセージを作成する。
#####
––––ビッ
瀧のポケットの中に入っている警察手帳端末のバイブが鳴る。
警察手帳端末 (単に警察手帳、警察手帳タブレット、カード等と呼称される) は警察組織に所属しているという身分証明、データの送受信、機密コードの付与などその機能は多岐に渡る。しかし、より高度な操作が必要な場合は花のようにTech-PadのようなタブレットやTechbook-proといったラップトップを使用する。
その中で周辺住民の避難完了報告、データの送受信、機密コードの付与といった類のものはそれぞれバイブの振動パターンや受信音が異なる。
「(避難完了か)」
瀧はそのバイブの振動パターンで周辺住民の避難が完了したことを悟った。
––––ドオォン!!
瀧はD–2ビル1階の壁を右拳で殴り、大きな穴を開ける。
「おい、場所変えねーか?」
瀧はGOLEMに話しかける。
「周辺住民の避難が完了したんだ。外の方が広く暴れられる。そうだろ?」
GOLEMは静かに頷く。瀧は今しがた開けた穴の方を首で指し、付いてくるように促す。
2人は静かに互いの距離を保ちつつ外へ出る。
「(徳田の方は終わったみたいだな)」
瀧は外へ歩きながら"第六感"で花を感知、動きが止まっていることを確認し、DEED残党を制圧したことを確信した。その確信はGOLEMにも至る。
––––ビッ
瀧の警察手帳のバイブが再び鳴る。その送信者が花であることを理解した瀧は2度瞬きをする。
2度の瞬きによって装着しているスマートコンタクトのXRを起動。空間上に花からの情報を表示させる。
「お前、徳田のこと知ってるな」
GOLEMは微動だにせず瀧の話を聞いている。
「お前は第三地区高等学校に勤務する教師、内倉祥一郎だな?」
それでも尚、反応を示さないGOLEMに対して瀧はそのまま話を続ける。
「安心しな。お前が気になっていたであろう牧田佑都くんに関しては徳田が既に保護した」
GOLEMは黙ったままであるもののそのサイクスが一瞬、柔らいだのを瀧は見逃さなかった。
「4年前の資料といい、今回の件といい俺はお前から他の十二音の連中とは違う、人間味を感じてた。それで徳田の制圧が終わるのを待ってたわけだが……」
ここで初めてGOLEMが口を開く。
「本気を出さずとも俺を殺れると?」
その言葉を聞いて瀧は「フッ」と笑う。
「お互い様だろ。"第六感"で牧田くんのこと追ってたんだろ? それもあって建物を破壊するのを避けるためにお前も手を抜いていた」
GOLEMの肉体を覆っている赤い鎧が解かれ、装着する仮面を取る。
「如何にも。俺の名は内倉祥一郎だ」
内倉は落ち着いた声で告げ、真っ直ぐに瀧を見据える。
牧田は第三地区高等学校で男子バスケ部に入部しており、その顧問を内倉祥一郎が務めていた。
DEEDの麻薬オークション数日前にGOLEMとSHADOWが姿を現した際に、採血をしていなかった牧田や巻き込まれた一般人たちはDEEDのメンバーから責められ暴力を振るわれていた。偶然その場面に出くわしたGOLEMが怒りをあらわにしたのだ。
当初、杉本は横手の一般人、特に学生が巻き込まれているのを見て怒りを表明していたという証言からGOLEMは教育関係者や子供を相手にする仕事に就いているのではないかという推測を立てた。
しかし、正確には違った。
GOLEM、内倉祥一郎はDEEDのメンバーの中に数年前の自分の教え子がいたこと、そして他のメンバーからの扱いを見て明らかに巻き込まれていることを悟った。
「(もしかしたら、牧田の家庭のことから無理やり利用されていたという考えにも及んだかもしれないわね)」
そして突如目の前に現れた元教え子に対して困惑し、思わず口について出た言葉が『どうして……ゆづ』という言葉だったのだ。
牧田のことを『ゆづ』と呼ぶ者は当時男子バスケ部に入部していた部員やマネージャー、そして顧問である内倉祥一郎だけである。
GOLEMの口から漏れた『ゆづ』という言葉を聞き逃さなかった牧田はそのGOLEMの体型などからその正体が内倉であると確信したのだ。
「内倉せんせ……GOLEMは俺たちに暴力を振るっていたDEEDの人たちを一瞬で薙ぎ払った後に、交渉を行っていた上層部の人たちに『契約は取り止めだ』ってすごい剣幕で伝えていました」
牧田の言葉を聞いた後に花は1つ質問する。
「どうして……警察に連絡してくれなかったの?」
牧田は少し躊躇った後に答える。
「その……学生時代すごくお世話になった面倒見の良い先生で……今回も助けてもらえて……言えなかったんです。それに違う人かもしれないし……。あとは単純に脅迫されていたのも理由です」
花は「なるほど」と呟いた後に瀧への伝え方について考える。
「(瀧は明らかに私の動きを気にして本気を出していない。ただ周辺住人の避難完了の知らせがあいつにも送られてるはずだからこのビルから出て戦闘を始めるはず)」
花はこの1ヶ月の捜査期間中、瀧がGOLEMの行動について思うところがある様子を見ていた。
「(瀧は明らかになるまで本気を出せない気がする。かと言ってこの事実を知って内倉に情が移るのもまずい)」
––––花は瀧との会話を思い返す。
「杉本警部の考えが正しかった場合、あんたちゃんと闘えるの?」
瀧は今回の事件に関するMT (マテリアル・タブレット) をスワイプしながら答える。
「たりめーだ。こいつらがやってる事は許されることじゃねーだろ。ただコイツだけ少し異質じゃねーか。気になるんだよ。それだけだ」
#####
「あの言葉、信じるわよ、馬鹿」
花はそう小さく呟くと瀧に向けてメッセージを作成する。
#####
––––ビッ
瀧のポケットの中に入っている警察手帳端末のバイブが鳴る。
警察手帳端末 (単に警察手帳、警察手帳タブレット、カード等と呼称される) は警察組織に所属しているという身分証明、データの送受信、機密コードの付与などその機能は多岐に渡る。しかし、より高度な操作が必要な場合は花のようにTech-PadのようなタブレットやTechbook-proといったラップトップを使用する。
その中で周辺住民の避難完了報告、データの送受信、機密コードの付与といった類のものはそれぞれバイブの振動パターンや受信音が異なる。
「(避難完了か)」
瀧はそのバイブの振動パターンで周辺住民の避難が完了したことを悟った。
––––ドオォン!!
瀧はD–2ビル1階の壁を右拳で殴り、大きな穴を開ける。
「おい、場所変えねーか?」
瀧はGOLEMに話しかける。
「周辺住民の避難が完了したんだ。外の方が広く暴れられる。そうだろ?」
GOLEMは静かに頷く。瀧は今しがた開けた穴の方を首で指し、付いてくるように促す。
2人は静かに互いの距離を保ちつつ外へ出る。
「(徳田の方は終わったみたいだな)」
瀧は外へ歩きながら"第六感"で花を感知、動きが止まっていることを確認し、DEED残党を制圧したことを確信した。その確信はGOLEMにも至る。
––––ビッ
瀧の警察手帳のバイブが再び鳴る。その送信者が花であることを理解した瀧は2度瞬きをする。
2度の瞬きによって装着しているスマートコンタクトのXRを起動。空間上に花からの情報を表示させる。
「お前、徳田のこと知ってるな」
GOLEMは微動だにせず瀧の話を聞いている。
「お前は第三地区高等学校に勤務する教師、内倉祥一郎だな?」
それでも尚、反応を示さないGOLEMに対して瀧はそのまま話を続ける。
「安心しな。お前が気になっていたであろう牧田佑都くんに関しては徳田が既に保護した」
GOLEMは黙ったままであるもののそのサイクスが一瞬、柔らいだのを瀧は見逃さなかった。
「4年前の資料といい、今回の件といい俺はお前から他の十二音の連中とは違う、人間味を感じてた。それで徳田の制圧が終わるのを待ってたわけだが……」
ここで初めてGOLEMが口を開く。
「本気を出さずとも俺を殺れると?」
その言葉を聞いて瀧は「フッ」と笑う。
「お互い様だろ。"第六感"で牧田くんのこと追ってたんだろ? それもあって建物を破壊するのを避けるためにお前も手を抜いていた」
GOLEMの肉体を覆っている赤い鎧が解かれ、装着する仮面を取る。
「如何にも。俺の名は内倉祥一郎だ」
内倉は落ち着いた声で告げ、真っ直ぐに瀧を見据える。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる