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追う者、追われる者編

第127話 - 厄介

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「いや~、遅刻してしまって申し訳ない。皆さんお揃いですか?」

 葉山は爽やかな笑顔をその場にいる11人に向けながら謝罪する。その後、一度立ち止まって全員を見渡し、2つの空席を見て少し寂しそうな顔をして空いている議長席に着席する。

「呼び出しておいて遅いぞ、MAESTRO」

 JACKは少し不機嫌そうな声色で葉山に話しかける。

「いや~、大変だったんですよ? 上野さんの件。TUPREO (*東京未成年超能力者再教育機関) で15歳の女の子が脱走を図ろうとするだなんてねぇ~。お陰で休日返上で朝から疲れましたよ~」

 UPREO (*未成年超能力者再教育機関) やPCDF (*Psychic Criminals Detention Facilities=超能力犯罪者収容施設) は警察組織と超能力者管理委員会が管理・運営を行っており、有事の際には協力して対策を打つ方針となっている。

「加えてメディア対応なんかもあるので疲れちゃいました」

 葉山は笑顔を崩さないもののわざとらしく肩を落として疲労を過剰にアピールする。

「人気者は色々と大変ね」

 QUEENが溜め息をつきながら割って入る。それを聞いて葉山は糸のように細めた目をQUEENに向けて「そうなんですよ」と呟く。

「人気者ってのは否定しないんだね」
「えぇ、僕、事実に基づいたことしか言えないんですよ」

 PUPPETEERの一言に対して屈託のない笑顔で葉山は返答する。

「ふん、管理委員会の委員長でありながら我々十二音を率いているペテン師が何を言う」
「おっと、これは一本取られましたね」

 JACKの一言に対して葉山は右手人差し指を立てながら左手で後頭部を触りながらオーバーにリアクションする。その後、目を上に向けて何か思いついたように話し始める。

「いやいや、僕は聞かれていないだけで嘘はついてませんよ~。それに……」
「長くなりそうね、帰って良いかしら?」

 ここまで腕組みして下を向いていたJESTERがいつもより低目の声で口を挟む。

「おや、JESTERさん、ご帰還おめでとうございます。ご機嫌斜めですね?」

 葉山は両手を机についてJESTERの方を少し覗き込むようにして尋ねる。

「話が脱線して長くなるのが嫌なのよ。女を待たせるなんて最低の所業よ、ねぇ? SKULLスカル

 JESTERは黒いロングヘアを後ろへ流し、黒いタクティカルスカルマスクを装着した女へと話を振る。口鼻部分に通気穴があり色白な肌が覗く。眼部にはスチールメッシュを使用しており、その網目から炎のようにう紅い美しい緋色の眼が微かに動いて右隣にいるJESTERを見る。

「私は別に」

 SKULLはあまり興味無さそうに答える。

「アハハ、JESTERさん味方になってもらえませんでしたね~」

 葉山は愉快そうに笑い声を上げて更に言葉を続ける。

「だってねぇ? 遅くなったのは何も管理委員会だけじゃないですもんね?」

––––ゴゴゴゴ……

「何が言いたいのかしら?」

 JESTERの表情が一変し、黒い禍々しいサイクスを纏う。纏われたサイクスは明らかに怒りを孕みJESTERの身体全体を這う。

「おやおや? お分かりでない? それなら教えて差し上げますよ? 福岡でJESTERさんが死んじゃってそれをDOCさんが治すのに時間を奪われたのです」

 JESTERの腕組みしていた両手がそれぞれの肘辺りを震えるほどに強く握り、挑発に耐えている。

「あっ、もしかしてか弱いお嬢さんを再現した感じですか? そうでないとお強いJESTERさんが負けるはずないですよね?」

 葉山は息継ぎのために一瞬だけ言葉を切る。葉山は「止めときなよ……」というPUPPETEERの小さな呟きが聞こえてないかのようにそのまま言葉を再開する。

「いや、そうだとしても流石に死ぬまではないかなぁ? 相手がすごく強かったか……JESTERさんが弱いからかなぁ?」

––––ズズズズ……

 葉山の周りから黒いサイクスのドームが出現。同時に黒い渦からJESTERが現れて葉山の首筋にメスを当てて軽く動かし、軽く傷を付ける。
 PUPPETEERは「あーあ」と小さく呟き、他の者たちは葉山とJESTERを止めようともせずそれぞれ静観、または興味が無さそうに下を向いたり手遊びをしたりしている。

「MAESTRO、あなた大丈夫? この"並行世界ヌブル"、あなたの"クイズ"やらしないで作ったでしょう? その場合、"持ち曲レパートリー"から超能力を呼び出せないんじゃない?」

*****

4. もし"予測と結果の狭間でオルタナティヴ・ユニヴァース"によって知った過程の内容に超能力が含まれる場合、また、葉山の推測の対象が相手の超能力でそれが正しかった場合、それは"持ち曲レパートリー"として具現化された譜面に記譜される。
5. "持ち曲レパートリー"を使用する場合、"予測と結果の狭間でオルタナティヴ・ユニヴァース"を1度成功させる必要がある。その後、任意の人数を"並行世界ヌブル"へと連れて行き、そこで"持ち曲レパートリー"から選んで"発動演奏"する。
 発動した超能力は最低でも演奏される音楽が終わるまで使用し続けなければならない。超能力の併用をすることは不可能で、1度使った超能力をまた使うには1度現実世界へ戻って再び"並行世界ヌブル"に戻る必要がある。

番外編① - 『予測と結果の狭間で』 参照

*****

 "並行世界ヌブル"自体は自由に呼び出すことが可能だが、条件を満たしていない場合は"持ち曲レパートリー"を使用することはできない。

「!?」

 葉山の背後に立っていたJESTERはいつの間にか元の席に着席していた。

「その通り、僕は今"持ち曲レパートリー"を使えません……。でも"予測と結果の狭間でオルタナティヴ・ユニヴァース"は使えるんですよ」

 JESTERの顔を真っ直ぐに見据えながら葉山が告げる。

「この嘘つきが……!」

 JESTERの悪態に対して葉山はフッと笑いながら返答する。

「嘘はついてませんよ? 僕は『"持ち曲レパートリー"を使えない』と言っただけで"予測と結果の狭間でオルタナティヴ・ユニヴァース"については言及していません」

 「確かに」とPUPPETEERが呟く。

「あ、あとそれお返ししますね」

 葉山はそう付け加えるとJESTERの左腕を放り投げる。その間にJESTERの傷口から出血が始まる。

「この……ッッッ!」

 JESTERは左腕を千切られていることに気付いておらず、それに対する驚きと左腕の痛みに顔を歪ませる。

「(疾いな……)」

 JOKERは葉山に感心する。

「"持ち曲レパートリー"の持ち主が同じ"並行世界ヌブル"内にいて、且つその超能力を発動した場合、僕も使えるようになるんですよ。あ、因みに言及してないだけで嘘はついてませんよ?」

 葉山は意地悪な笑みを浮かべながら痛みに耐えるJESTERの顔を覗き込む。

「そうやって冷静さを欠くから危ない目に遭うんですよ? 気を付けて下さいね」

 そして不気味なサイクスを僅かに纏いながらJESTERに忠告する。

「JESTERさんが死んじゃったら"暗黒の解剖室シャドウ・シアター"が"持ち曲レパートリー"から消滅しちゃうので……気を付けて下さいね?」

 その言葉に対してJESTERは「分かったわよ……」と力なく答える。PUPPETEERは「ほら、止めときなって言ったろ?」とJESTERに告げる。

「あのさぁ!! 仕事増えるの僕なんだけど!」

 DOCは葉山に対して不満をぶつける。葉山はそれまでの不気味さが一気に消え、手を合わせながらDOCに謝罪する。

「(厄介だな……超能力ちからも性格も……!)」

 JOKERは葉山の様子を観察しながら考えているとそれに気付いた葉山がJOKERの方を見て微笑んだ後に言葉を続ける。

「さ! 本題に入りましょうか。いや~、それにしてもこれで僕が正直者っていうのは証明されて良かったなぁ~」

 葉山の言葉に対してQUEENは肩をすくめて反応するも葉山は意に介さない。

「僕も気を付けないとな~! 聞かれたら僕も正直に答えてしまうかも」

 そして葉山の隣の空間が歪み、そこから"暗黒の解剖室シャドウ・シアター"による黒いドーム状サイクスを引っ張り出す。

「内倉さんのように」

 その中には福岡で近藤がJESTERにされたようにバラバラに解剖された内倉が引っ張り出された。



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