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白銀の死神編

第116話 - QUEEN

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––––バリバリッ……!!

「……ッッ!」

 QUEENが両手の平を合わせた瞬間、彼女の纏っているサイクスから電撃がほとばしる。

「へぇ、あなた身体強いのねぇ。結構強めの帯電だったのだけれど……」

 QUEENは感心しながら呟く。柳の"痛みを力にパワー・オブ・ペイン"の効力ギリギリのタイミングでの発動であったためにダメージは軽減されていた。

「(まずい……。"痛みを力にパワー・オブ・ペイン"の持続時間が切れた……! 次、耐えられるかしら!?)」

 柳の"愛に痛みはつきものラヴ・ペイン"は再生にも近い治癒能力であるが、初撃で即死、または戦闘不能 (気絶など)がなされた場合、"愛に痛みはつきものラヴ・ペイン"の発動は不可能となる。
 
 そのサイクスの減衰をQUEENは見逃さなかった。

「バイバイ」

 QUEENが再び両手の平を合わせて柳に電撃を与えようとする。

––––"愛は海よりも深くハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン"

 QUEENの込められたサイクスを見た仁は直ぐさま超能力を発動、柳を移動させて電撃を回避させることに成功する。

「ありがとうございます、仁先生」
「うむ、問題ない」

 QUEENは仁の超能力を見て「ヒュー」と呟いた後に話し始める。

「1回目の電撃の時はとんでもなく強いサイクスだったのに2回目は突如サイクスが減ったことから何らかの超能力による効果が切れたのか、私をナメてるのかのどちらかね」

 QUEENは「パリッ」という音を自身のサイクスから発しながら話す。QUEENは仮面の奥で少しだけ微笑みながら仁、柳、鈴村の3人に自身の両手の平と両手の甲を交互に見せる。右手の平には円の中にプラスの刻印、左手の平の中には三角形の中にマイナスの刻印が施され、一方で手の甲は図形の中に書かれているプラス・マイナスの刻印が逆になっている。

「ウフフ……。少しだけ特別に見せてあげるわね。JESTERに対するお礼も含めて」

 QUEENは両手の平を合わせ、その後3人に向ける。

「放電」
「!!!」

 両手の平から強力な電気を帯びたサイクスが3人を襲いかかる。その電撃は直撃すれば大ダメージは避けられない。また特性上、動きを止められることを予測していた3人は回避に回る。

「正解。その放電は直線的にしか進まない」

 QUEENは左拳を作った後に人差し指と親指を使って小さな石を2つ、鈴村と柳に向けて弾き飛ばす。鈴村はそれを余裕を持って躱し、柳は左手で弾く。その間にQUEENは鈴村の背後へと一瞬で移動する。

「(なっ……! 疾い!!)」

 QUEENの右脚による蹴りが鈴村を強襲する。鈴村は何とか反応して左手で防御するものの、QUEENはそのまま両手で連撃を浴びせる。鈴村もその攻撃を両手で防御に徹しつつも隙を見て負けじと反撃する。

「!!!」

 鈴村は突如、身体の内部から雷撃に見舞われる。

「(一体……!?)」

 QUEENは鈴村の動きが止まったのを見計らい、腹部に左足で前蹴りを強烈に見舞う。

「ぐっ……!!」

––––"気鮫きさめ"

 仁の"気鮫きさめ"がQUEENに襲いかかる。

「あら、可愛らしい鮫さんね。でも大丈夫?」
「!?」

 突如、鈴村がQUEENに引き寄せられる。鈴村はそのまま"気鮫きさめ"に噛み付かれてダメージを負う。その後、QUEENは"超常現象ポルターガイスト"を利用して那由他ビルの瓦礫を仁に向けて飛ばして足止めをする。

「チッ」

 仁は舌打ちをした後に直ぐさま"気鮫きさめ"を解除し、JOKERの方を見る。JOKERは笑顔のまま手を振り、自分は関与していないことをアピールする。
 
 QUEENは鈴村に強烈な左脚の回し蹴りを浴びせて吹き飛ばす。

 一方、柳は"愛に痛みはつきものラヴ・ペイン"を発動して先の電撃によるダメージを回復、更に"痛みを力にパワー・オブ・ペイン"によって攻撃力を底上げしてQUEENに右ストレートを炸裂させようと攻撃する。
 柳の攻撃がQUEENを直撃する瞬間、QUEENは左手の平を柳に向け、柳はQUEENと共に反対方向に弾き飛ばされる。

「さぁ、どうする?」

 QUEENは右手で持った石を上空高くに投げ飛ばす。上空の石から柳と鈴村に向かって電撃が襲いかかる。2人はその強力な電撃を帯びたサイクスを躱しにかかるも、そのサイクスは2人を追尾する。

「お爺ちゃんは邪魔しないでね」

 仁が"愛は海よりも深くハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン"を使って2人を救おうとしているのを察してQUEENは仁に告げる。

––––"迷宮電気回路エレクトリック・メイズ" 

 先ほどまで"超常現象ポルターガイスト"によって仁を襲っていた瓦礫がその場に動きを止め、電気を帯びたサイクスが瓦礫と瓦礫の間を行き来する。


––––柳と鈴村の2人に雷撃が直撃する。
 

 直撃したその電撃は柳と鈴村に膝を突かせるには十分な威力で、鈴村に関してはJOKER、JESTER、PUPPETEERとの戦闘によるダメージも相まって戦闘を続けることが困難なほどにまで追い込んだ。

 瓦礫間を飛んでいた電気を帯びたサイクスは止まり、仁とQUEENは正面から対峙する。

「"超常現象ポルターガイスト"による攻撃を防御せずに全部躱したのは偶然かしら?」
「お主のサイクスに触れることで発動しているように思えたのでな。この表現も正確でないと思うが」

 QUEENは愉快そうに笑う。

「QUEEN、モウ良イダロウ」

 後ろで戦況を見つめていたMOONが機械音の混じった声で話しかける。

「あら、楽しくなってきたのに」
「目的ヲ忘レルナ」

 MOONの諭すような言葉にQUEENはハッと何かを思い出したかのようにしてJOKERとPUPPETEERに声をかける。

「そうよ。JOKER、PUPPETEER、帰るわよ」

 QUEENは振り向くとJOKERとPUPPETEERは既に巨大な蝶、"ナハト"の上に乗っている。

「こっちはもう準備出来てるよ。どちらかと言うとQUEEN待ちさ」

 PUPPETEERはやれやれと言ったようなリアクションを見せる。

「言ってくれれば良いのに」
「楽しそうだったからね」

 QUEENが"ナハト"の上に乗るのを見ながらJOKERが愉快そうに返答する。

–––– "月に憑かれたピエロピエロ・リュネール"・"舟歌バルカローレ"

 MOONがフルートを奏で始めた瞬間、"ナハト"の目に黒い光が宿り、大きな翼を羽ばたかせる。周囲への衝撃はなく、その巨体からは想像ができないほどに静かに上空を舞う。

「すごく楽しかったよ。お祖父ちゃん。瑞希ちゃんにもよろしく」

 JOKERはそう言い残すと再びマスクを着けて軽く手を振る。
 
 こうして能古島で起きた死闘は不協の十二音の介入による鹿鳴組の壊滅から始まり、那由他ビルの倒壊、MOONの超能力による回収で幕を閉じる。
 JOKER、JESTER、PUPPETEER、QUEENの危険性は仁、柳、鈴村の3人に大きな衝撃を与え、心に深く刻まれた。


––––遥か上空へと姿を消した不協の十二音であったがMOONによるピアノの音色はいつまでも鳴り響いた。



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