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夏休み後編
第95話 - 第二覚醒
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「(たったの6発……!)」
和人はサイクスの光に囲まれながら動きを止められている近藤を見て自身の無力さを痛感する。
"捕獲"は"弓道者"の中で最も特殊な矢である。この矢は対象者を捕獲することが目的で、サイクスを込めた打撃を相手に与えることで発動する。
与えた打撃の数が多いほど戦闘不能状態にする確率が上がる。完全に捕獲が完了すると相手はサイクスを使用することが一切出来なくなり、自身の肉体の力のみで抜け出さなければならない。
近藤から放たれたサイクスの筋は6本。これはつまり約7分間の近接戦において和人は6回の打撃しか近藤に与えられなかったことに他ならない。
更に超能力を発動できたのも田川の"火力増強銃"と花の"私とあなたの秘密"による援護が大きい。
「(クソ……! 俺はまだまだ弱い! 全力で向かってもサイクスが消耗し、更に片腕を失った近藤以下……!)」
静かに感情を露わにする和人に気付いた花はそっと肩に手を置いて労う。
「(何やこれは!?)」
一方、"捕獲"の矢に捕われている近藤は和人のサイクスを振り解こうと躍起になる。
「(クソっ! 機雷を発動させて何とか……!)」
完全に捕獲されるまでの間、"捕獲"内部でサイクスを使って抵抗することは可能。しかし、"捕獲"外部に対してサイクスを発することは不可能となる。
「(発動しないだと!?)」
近藤は自分の置かれた現状が限りなく悪いことを察する。弱った現在の近藤であっても落ち着いていれば抜け出すことは可能。
しかし、外部へのサイクスが発動しないこと、信頼を置いていた戦力である皆藤、中本の不在 (敗北)、敵の侵入など近藤の精神状態を揺るがすのに十分な要素がサイクスのコントロールに支障をきたした。
近藤は直感的に"捕獲"によって完全に捕獲されるとサイクスが使用できなくなると理解した。
「(まずい……!)」
近藤の動きが止まる。
「終わった……」
和人はそう確信し、胸を撫で下ろす。黄色く輝くロープ状のサイクスに縛られて跪く近藤の元へと向かう。
近藤の部下たちは最強だと思っていたリーダーの無抵抗な姿を見て戦意を喪失する。
「(絶対的信頼を置いていた頭がこんな状態になればしょうがないか……)」
花は負傷した右脚を押さえながら近藤組の逮捕に取り掛かろうとする。
「(前にこうやって死にかけたなぁ。あの時みたいにサイクスが増えやんやろか……)」
一方、近藤は中本、皆藤と共に海に沈められた時のことを考えていた。しかし、肝心なサイクスが使えない。使えたとしても液体という燃料が十分でない状態であるため、"人間潜水艇"も本来の力を発揮出来ない。
「(もう終わりやね……)」
近藤の思考が停止する。
––––ドクンッ
近藤の心臓が大きく脈打つ。一つ一つの脈動がまるで荒波のように全身に駆け巡る。
「(何や? 力が……)」
花と和人がその異常に真っ先に気付く。
「(なっ!? "捕獲"は完全に近藤を捕縛しているはず!?)」
和人の困惑は至極真っ当である。"捕獲"は確実に近藤の捕獲を完了しており、近藤はサイクスを一切使えない。にも関わらず、目の前の男が和人のサイクスから逃れようとしているのだ。
「(そんな……! まさかこいつが!?)」
一方で花の脳内ではある可能性が選択肢に現れ、動揺する。
––––『覚醒』は3種類存在する。
一般的な例であるサイクスの飛躍的向上は『第一覚醒』と呼ばれ、成長過程や窮地に立たされた時に多く観測される。
クラスマッチでの樋口凛や九条によって海に沈められた近藤や皆藤がその最たる例である。(後天的にサイクスが発現することもこの第一覚醒に分類され、愛香も覚醒超能力者の1人である)
そしてサイクスをほぼ使い果たした状態で突然、身体機能が飛躍的に向上すること、これを『第二覚醒』と言う。
心臓で生成されたエネルギーが2対の血管 (椎骨動脈と総頚動脈) を通って脳の中で感情の形成に関わる最も重要な部分である『扁桃体』へと向かい、それによってサイクスが生み出される。
一般的に心臓で生成されたエネルギーをも便宜上、サイクスと呼称するが、人体サイクス学では明確に用語が定められている。
心臓で形成されるエネルギーは身体機能を向上させることから"physical"を由来として『フィジクス』と呼ばれる。フィジクスには『身体刺激型フィジクス』と『物質刺激型フィジクス』の2種類が存在する。
どちらも身体機能を向上させるという効果は同じであるが、分析の結果、それぞれ『身体刺激型サイクス』と『物質刺激型サイクス』とよく似た成分が観測されたためにそう呼称される。
この研究結果から『身体刺激型サイクス』と『物質刺激型サイクス』は『源流サイクス』と呼ばれ、6タイプ存在する超能力の原形と目されている。
研究の結果、フィジクスとサイクスには以下のような相関関係があると発表された。
1. 心臓で身体刺激型フィジクスのみが生成される場合→身体刺激型サイクスを生成
2. 心臓で物質刺激型フィジクスのみが生成される場合→物質刺激型サイクスを生成
3. 心臓で2つのフィジクスが生成され、身体刺激型フィジクスが総頚動脈を通る場合→精神刺激型サイクスを生成
4. 心臓で2つのフィジクスが生成され、物質刺激型フィジクスが総頚動脈を通る場合→物質生成型サイクスを生成
5. 心臓で2つのフィジクスが生成され、椎骨動脈と総頚動脈どちらにも2つのフィジクスが混合しており、割合が均一でない場合→自然科学型サイクスを生成
6. 心臓で2つのフィジクスが生成され、椎骨動脈と総頚動脈どちらにも2つのフィジクスが混合しており、割合が5:5の場合→特異 (複合) 型サイクスを生成
数字が割り当てられているが、第一覚醒と第二覚醒に順番はない。しかし、第二覚醒は第一覚醒に比べて珍しく、これが引き起こされた者はフィジクスを体内でコントロールすることが可能となる。
また、『第三覚醒』は第一覚醒と第二覚醒の両方を経験した者のみに発生し、サイクスとフィジクスの両方が爆発的に増加することで身体能力の更なる向上、超能力の強化や精度の上昇、発動条件の緩和・変更などが観測される。
これが起こることは非常に稀で、現役の警察官の中では警視庁捜査一課長の藤村洸哉のみが第三覚醒を経験しており、彼が現在の警察組織における最高戦力と言われる所以である。
近藤にサイクスはまだ残っていたものの和人の超能力によってサイクスが封じられたことが逆に第二覚醒への引き金となった。
近藤はその向上した筋力で和人のサイクスを無理やり突破した。
反応する隙すらなく和人の鳩尾に近藤の左拳が直撃し、近くのコンテナごと吹き飛ばされる。
「和人!!!」
花が叫ぶ。
田川はハンドガンを構えて1マガジン分を込めた弾丸を近藤に撃とうとするも目の前にいた近藤を見失う。
「ガハッ……!」
背後に回った近藤は左手を田川の背中から貫通させ、一気に引き抜く。
大量の血を流しながら田川はその場に崩れ落ちる。
「ははははははッッ!!!」
復活した赤いサイクスを纏った近藤の笑い声がコンテナ船を邪悪に響き渡る。
和人はサイクスの光に囲まれながら動きを止められている近藤を見て自身の無力さを痛感する。
"捕獲"は"弓道者"の中で最も特殊な矢である。この矢は対象者を捕獲することが目的で、サイクスを込めた打撃を相手に与えることで発動する。
与えた打撃の数が多いほど戦闘不能状態にする確率が上がる。完全に捕獲が完了すると相手はサイクスを使用することが一切出来なくなり、自身の肉体の力のみで抜け出さなければならない。
近藤から放たれたサイクスの筋は6本。これはつまり約7分間の近接戦において和人は6回の打撃しか近藤に与えられなかったことに他ならない。
更に超能力を発動できたのも田川の"火力増強銃"と花の"私とあなたの秘密"による援護が大きい。
「(クソ……! 俺はまだまだ弱い! 全力で向かってもサイクスが消耗し、更に片腕を失った近藤以下……!)」
静かに感情を露わにする和人に気付いた花はそっと肩に手を置いて労う。
「(何やこれは!?)」
一方、"捕獲"の矢に捕われている近藤は和人のサイクスを振り解こうと躍起になる。
「(クソっ! 機雷を発動させて何とか……!)」
完全に捕獲されるまでの間、"捕獲"内部でサイクスを使って抵抗することは可能。しかし、"捕獲"外部に対してサイクスを発することは不可能となる。
「(発動しないだと!?)」
近藤は自分の置かれた現状が限りなく悪いことを察する。弱った現在の近藤であっても落ち着いていれば抜け出すことは可能。
しかし、外部へのサイクスが発動しないこと、信頼を置いていた戦力である皆藤、中本の不在 (敗北)、敵の侵入など近藤の精神状態を揺るがすのに十分な要素がサイクスのコントロールに支障をきたした。
近藤は直感的に"捕獲"によって完全に捕獲されるとサイクスが使用できなくなると理解した。
「(まずい……!)」
近藤の動きが止まる。
「終わった……」
和人はそう確信し、胸を撫で下ろす。黄色く輝くロープ状のサイクスに縛られて跪く近藤の元へと向かう。
近藤の部下たちは最強だと思っていたリーダーの無抵抗な姿を見て戦意を喪失する。
「(絶対的信頼を置いていた頭がこんな状態になればしょうがないか……)」
花は負傷した右脚を押さえながら近藤組の逮捕に取り掛かろうとする。
「(前にこうやって死にかけたなぁ。あの時みたいにサイクスが増えやんやろか……)」
一方、近藤は中本、皆藤と共に海に沈められた時のことを考えていた。しかし、肝心なサイクスが使えない。使えたとしても液体という燃料が十分でない状態であるため、"人間潜水艇"も本来の力を発揮出来ない。
「(もう終わりやね……)」
近藤の思考が停止する。
––––ドクンッ
近藤の心臓が大きく脈打つ。一つ一つの脈動がまるで荒波のように全身に駆け巡る。
「(何や? 力が……)」
花と和人がその異常に真っ先に気付く。
「(なっ!? "捕獲"は完全に近藤を捕縛しているはず!?)」
和人の困惑は至極真っ当である。"捕獲"は確実に近藤の捕獲を完了しており、近藤はサイクスを一切使えない。にも関わらず、目の前の男が和人のサイクスから逃れようとしているのだ。
「(そんな……! まさかこいつが!?)」
一方で花の脳内ではある可能性が選択肢に現れ、動揺する。
––––『覚醒』は3種類存在する。
一般的な例であるサイクスの飛躍的向上は『第一覚醒』と呼ばれ、成長過程や窮地に立たされた時に多く観測される。
クラスマッチでの樋口凛や九条によって海に沈められた近藤や皆藤がその最たる例である。(後天的にサイクスが発現することもこの第一覚醒に分類され、愛香も覚醒超能力者の1人である)
そしてサイクスをほぼ使い果たした状態で突然、身体機能が飛躍的に向上すること、これを『第二覚醒』と言う。
心臓で生成されたエネルギーが2対の血管 (椎骨動脈と総頚動脈) を通って脳の中で感情の形成に関わる最も重要な部分である『扁桃体』へと向かい、それによってサイクスが生み出される。
一般的に心臓で生成されたエネルギーをも便宜上、サイクスと呼称するが、人体サイクス学では明確に用語が定められている。
心臓で形成されるエネルギーは身体機能を向上させることから"physical"を由来として『フィジクス』と呼ばれる。フィジクスには『身体刺激型フィジクス』と『物質刺激型フィジクス』の2種類が存在する。
どちらも身体機能を向上させるという効果は同じであるが、分析の結果、それぞれ『身体刺激型サイクス』と『物質刺激型サイクス』とよく似た成分が観測されたためにそう呼称される。
この研究結果から『身体刺激型サイクス』と『物質刺激型サイクス』は『源流サイクス』と呼ばれ、6タイプ存在する超能力の原形と目されている。
研究の結果、フィジクスとサイクスには以下のような相関関係があると発表された。
1. 心臓で身体刺激型フィジクスのみが生成される場合→身体刺激型サイクスを生成
2. 心臓で物質刺激型フィジクスのみが生成される場合→物質刺激型サイクスを生成
3. 心臓で2つのフィジクスが生成され、身体刺激型フィジクスが総頚動脈を通る場合→精神刺激型サイクスを生成
4. 心臓で2つのフィジクスが生成され、物質刺激型フィジクスが総頚動脈を通る場合→物質生成型サイクスを生成
5. 心臓で2つのフィジクスが生成され、椎骨動脈と総頚動脈どちらにも2つのフィジクスが混合しており、割合が均一でない場合→自然科学型サイクスを生成
6. 心臓で2つのフィジクスが生成され、椎骨動脈と総頚動脈どちらにも2つのフィジクスが混合しており、割合が5:5の場合→特異 (複合) 型サイクスを生成
数字が割り当てられているが、第一覚醒と第二覚醒に順番はない。しかし、第二覚醒は第一覚醒に比べて珍しく、これが引き起こされた者はフィジクスを体内でコントロールすることが可能となる。
また、『第三覚醒』は第一覚醒と第二覚醒の両方を経験した者のみに発生し、サイクスとフィジクスの両方が爆発的に増加することで身体能力の更なる向上、超能力の強化や精度の上昇、発動条件の緩和・変更などが観測される。
これが起こることは非常に稀で、現役の警察官の中では警視庁捜査一課長の藤村洸哉のみが第三覚醒を経験しており、彼が現在の警察組織における最高戦力と言われる所以である。
近藤にサイクスはまだ残っていたものの和人の超能力によってサイクスが封じられたことが逆に第二覚醒への引き金となった。
近藤はその向上した筋力で和人のサイクスを無理やり突破した。
反応する隙すらなく和人の鳩尾に近藤の左拳が直撃し、近くのコンテナごと吹き飛ばされる。
「和人!!!」
花が叫ぶ。
田川はハンドガンを構えて1マガジン分を込めた弾丸を近藤に撃とうとするも目の前にいた近藤を見失う。
「ガハッ……!」
背後に回った近藤は左手を田川の背中から貫通させ、一気に引き抜く。
大量の血を流しながら田川はその場に崩れ落ちる。
「ははははははッッ!!!」
復活した赤いサイクスを纏った近藤の笑い声がコンテナ船を邪悪に響き渡る。
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