TRACKER

セラム

文字の大きさ
上 下
81 / 172
夏休み後編

第79話 - 徳田花 vs 皆藤勝

しおりを挟む
「連絡が来ねーから様子見に来たらこんなことになっとるとはな」

 百道船着き場に到着して警察車両2台を破壊した後に皆藤が呟く。皆藤は言葉の途中に1人の女と目が合い、見失う。
 
 徳田花は皆藤の頭上を越え、携帯と共に背中に触れる。その後空中で態勢を変えながら右手に拳銃、左手にナイフを取り出して静かに着地、皆藤の背後に立つ。

「両手を挙げて大人しく投降しなさい。あなたは包囲されているわ」

 皆藤は余裕の表情を浮かべながら周りを見渡す。

「髪色と一緒で攻撃的やね、姉ちゃん」

 "私とあなたの秘密シークレット・フェイス"で金髪のロングヘアーをなびかせる女性の姿へと変化させている。

「7人」

 皆藤は花に背を向けたまま尚も余裕の表情を浮かべながら更に続ける。

「非超能力者4人に超能力者が3人。しかもあんた以外は虫ケラやん。見た感じ姉ちゃんも戦闘タイプじゃないやろ?」

 皆藤の話を聞き流しながら花は手を考えている。

「(身体刺激型超能力者であることから中・近距離戦闘タイプか。更にあの性格からして十中八九、近距離タイプ。なるべく距離を取って闘いたいけど私が持っている武器はこのナイフにハンドガンのみ。理想的ではないわね)」

「7人? そうだと良いわね」

「あぁ?」

 花の言葉に皆藤の表情が変わる。

「へへへ。姉ちゃん、スナイパーでも用意してるって言うんかい? 俺には効かんよ」

 花は不敵な笑みを浮かべながら少しだけ後ずさる。

「ま、お手並み拝見」

 皆藤はそう言うと一気に距離を詰める。それを見て花は後ろへ勢いよく下がりながら発砲する。放たれた3発の銃弾は正確に命中するものの皆藤はそれらを意に介さずそのまま突進、サイクスを込めた右拳でそのまま殴りかかる。
 
––––ドォォン!!!

 花がその拳を難なく躱すと勢いそのままに地面に穴を開ける。花は皆藤の左側頭部に向けて至近距離からサイクスを込めて発砲、衝撃による風圧を利用しながら後ろへと下がり距離を取った。

 砂煙が舞い上がり、その中心に向けて他の警官たちも所持する拳銃で無数の銃弾を浴びせる。花はその様子をレンズを使用しながら観察する。

「(至近距離でのサイクスを込めた銃弾でも無傷……!)」

 一方で無数の銃弾の雨を一身に受けながらも動じない皆藤は思考する。

「(周りの雑魚はいつでも殺せるから良いとしてやはりあの金髪女は注意が必要やな。近藤の話では別地域からの応援要請は無いやろうって話だったが……。あんな超能力者今まで見たことねぇ。予想が外れたんかな?)」

 皆藤は近くの非超能力者の目の前へと移動し、2人を同時に殴り飛ばして戦闘不能状態にする。 

「(まぁ、馬鹿な俺が何を考えても分からんし、こいつら全員殺っちまえば良い話やんな)」

 次の瞬間、皆藤は凄まじい咆哮と共に大量のサイクスを放出して足元に拳を振り下ろす。

「っらあぁ!!」

 それによって生じた瓦礫を周りの警官へ向けて裏拳で一気に全てを弾き飛ばす。

#####

––––別に身体刺激型超能力者と物質刺激型超能力者に複雑な超能力は必要ないよ

 以前言われた言葉が皆藤の脳裏をよぎる。
 
 近藤組に所属する超能力者の殆どが身体刺激型超能力者または物質刺激型超能力者で構成されており、一部を除いて固有の超能力を持たない。
 
 殊、戦闘において身体刺激型超能力者は攻守に最もバランスが良い。己の身体機能に影響を及ぼす身体刺激型超能力者のサイクスを込めた打撃は同程度のサイクス量を持つ他系統の超能力者を上回る。
 その為、鍛錬を積むことで生身の身体能力を向上して基本性能を上乗せ、更にフローを極めてサイクスを適切に配分することで相手との差を広げる。

 同じことは物質刺激型超能力者にも言える。そもそも"超常現象ポルターガイスト"は物質刺激型超能力者の得意分野で、害意や悪意を込めた"超常現象ポルターガイスト"の応用さえ覚えてしまえば他系統の超能力者よりも消費するサイクス量は少なく効率的に攻撃を仕掛けられる。
 また、先の花のように拳銃にサイクスを込めながら発砲する行為も精神刺激型超能力者である花よりも効率的、且つ強力な銃弾を放つ事が可能である。

#####

「うわああああ!!」

 皆藤の攻撃を受けた警官達は勢いよく吹き飛び、悲鳴を上げる。花は迫り来る無数の岩石を躱しながら皆藤の背後へ回り込む。

「(やっぱこの女、強ぇな。俺の攻撃を躱して死角や背後を確実に突いてくる……!)」 

 皆藤は花に発砲する時間を与えずに一気に距離を詰めて格闘に持ち込み、両手にサイクスを溜めてラッシュで花を追い込む。
 その速い連撃はこれまでのものとは異なり、相手に逃げる隙をも与えない。

 花は最小限のサイクスを両腕に施して打撃を防御し、致命傷を避けつつレンズで皆藤のサイクスの流れを観察する。

「(身体の使い方やサイクスの配分・流れからして右利きね。だから……)」

 花は腕に込めていたサイクス量を増加させて皆藤の右ストレートを防御、更に両足にもサイクスを配分して踏ん張りを利かせて皆藤の拳を弾く。連打が止んだその一瞬に花は右足にサイクスを込めて皆藤の左大腿部にローキックを見舞う。

「!!!」

 皆藤は一瞬バランスを崩すものの直ぐに攻撃に転じ、右手を振り上げてそのまま殴りかかる。

「(咄嗟の攻撃には右が出やすい)」

 動きを読んでいた花はそれを躱して懐に潜り込み、逆手持ちにしたナイフを順手持ちに持ち替えて皆藤の右肩を突く。
 サイクスを込めたナイフの突きであっても皆藤の屈強な肉体にはかすり傷しか残せなかったが、花はフッと笑みを浮かべると"超常現象ポルターガイスト"を発動して瓦礫で死角を作り、その場から離れる。 

「良いねぇ! 強ぇ奴との1on1は昂ぶるねぇ!」

 皆藤はそう叫び、花が逃げた方向へと視線をやると黒髮ショートヘアの見知らぬ女が立っていた。

「……だと良いわね」

 そう呟くと女は皆藤に拳銃を向けた。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...