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夏休み後編
第65話 - ホテルオーキ福岡
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「私の"Psychic Air-Car"を用意して」
由里子はAIにそう指示し、その後2階から降りてきた2人のアンドロイド (ケイトとレイン) に頼んで全員の荷物を運ばせる。先ほど突然福岡に行く羽目になった芽衣もアメニティー関連はホテルオーキ福岡に揃っていることからも軽く準備を終わらせてアンドロイドに預ける。
3122年現在、超能力のエネルギー源となるサイクスが注目を集めるが、科学技術も目覚ましい発展を遂げており、AIとアンドロイドはその最たる例である。最早アンドロイドと人間の区別は難しくなっている。
芽衣の自動車や大木家のエアコンの様にAIの簡単な命令 をサイクスが"感情"として読み取ることが可能となり、今日では更なる複雑なプログラムとサイクスの融合を進める研究がなされている。
「さぁ、お嬢ちゃんたち乗りなさい」
由里子はそう言って5人を車に促す。助手席には芽衣が座り、セカンドシートには瑞希、萌、綾子が、サードシートには志乃と結衣が座る。
Psychic Air-Carは車の側面部分に主翼が、後尾に尾翼が収納されている。飛行機は対気速度 (空気に対する速度) を上げて翼に揚力を生み出して浮き上がる。言い換えれば飛行機には飛ぶための速度が必須である。それを得るために助走が必要で広大な面積の空港が本来は必要である。
しかしながら、近年ではサイクスを使って出力を補助することで助走を必要としなくなった。その為、少人数での日本国内の移動程度ならばPsychic Air-Carで事足りるようになった。
小型飛行機免許証を取得していれば東京都10地区にそれぞれ存在する小さな空港 (Tokyo Domestic General Airport = "TDGA" 1 – 10) から離陸可能で、海外移動に関しては必要なサイクスが膨大なことと移動命令の規模の大きさから第4地区にあるTokyo Airport (旧羽田空港) が利用される。瑞希たちの住む第3地区にあるTDGA3は大木の近所にある。
車内では"品評会"において恥をかいた瑞希が顔を真っ赤にしたまま、隣の綾子の胸に顔を埋めている。その様子を見ながら綾子は「よしよし」と優しく頭を撫でている。
「可愛かったから大丈夫だよ~」
萌はニヤニヤしながらその様子を眺めている。
「そう言えば!」
既に自動運転に任せている由里子が思い出したかのように「パンッ」と手を軽く叩きながら声をあげた。
「今回のホテル、海辺ってこともあって水族館と提携しているのよ。もう既に水族館はオープンしているんだけど皆んなで遊びに行ってみたら?」
すると結衣の目が途端に輝きだす。
「水族館!? やった!! 私、海もお魚も泳ぐのも大好きなんです!」
「そっか、結衣は前に海洋生物の研究とかしたいって言ってたもんね」
綾子が後ろを振り向きながら話す。
「あら、今の時期から目標があることは良いことよ」
由里子はそう言って結衣を褒める。
瑞希が綾子の胸から顔を上げ、結衣に話しかける。
「うちのおじいちゃん、海洋生物学者だったよ。今はもう第一線には居ないみたいだけど」
「え! そうなの!? 会ってみたいな!」
会話を交わす中でAIのアナウンスが車内に流れる。
「TDGA3に到着しました」
そのまま車は空港の入り口でスキャンされ、登録済みPsychic Air-Carであるかを確認された。
その後、由里子はスマートコンタクトを起動、共有モードにして空間にIDを表示、機器にスキャンさせて持ち主本人の照合を行った。照合が終わると空港職員がやって来る。
「17:30からご予約の大木由里子さんですね。行き先は福岡、人数はご本人様含めて7名ですね。移動の為のサイクスはご自分のサイクスをお使いになられますか? それともTDGA3のサイクスをお求めになられますか?」
移動に必要なサイクスは搭乗者のサイクスを使用するか、空港内で必要な物質刺激型サイクスを料金を支払って使用するかを選択出来る。これによって非超能力者もPsychic Air-Carを利用することが可能となっている。
「自分のを使用します」
由里子は丁寧に答え、変換器を利用しながら福岡までの移動に必要な分だけタンクにサイクスを込める。
その後、離陸口まで誘導されPsychic Air-Carに収納されていた主翼と尾翼が展開される。
「初めてだからワクワクする!」
「私も!」
Psychic Air-Carに搭乗したことのない綾子と結衣は興奮を隠し切れていない。一方で瑞希は翔子や生前の父・蒼生の操縦以外で乗ったことはない為にやや緊張気味だった。
「離陸するまでカウントします」
AIは10秒のカウントを開始し、7人を乗せたPsychic Air-Carは勢いよく射出される。
サイクスの利用と科学技術の発展の融合により移動速度は格段に上がり、東京都から福岡まで (使う機体の性能にもよるが) 約40分で到着する。
#####
ホテルオーキがある福岡県第2地区にある"Fukuoka Domestic General Airport"に着陸する。由里子は空港スタッフとの手続きを済ませた後に7人に声をかける。
「さ、ホテルオーキに向かうわよ! 主人も既に到着しているから紹介するわね!」
7人の返事を聞いた後に由里子はハンドルを握り、通常の道路を走行し始めた。Psychic Air-Carは飛行モードを終えた後、機体のかかった負担を考慮してサイクスを利用した運行は2時間自動的に制限される。
退勤ラッシュに捕まり、少々時間を要したものの30分ほどでホテルオーキへと一行は到着する。
ホテルスタッフが2名が車を駐車場へと誘導しする。
「奥様、お嬢様方、ご学友の皆さま、長旅お疲れ様でございます。お荷物の方はアンドロイドと運搬用ロボットがお部屋にお運び致しますので今必要なもの以外はそのままで結構です」
そう言うと奥から3人のアンドロイドと2体のロボットが現れる。
「ご主人様がお待ちです。こちらへどうぞ」
瑞希、綾子、萌、結衣は丁寧な対応に感嘆しつつ付いていく。
ロビーへ到着すると志乃の父・輝之が待っており、7人を見て笑顔で出迎える。
「ようこそ! 志乃がいつもお世話になっております、父の輝之です!」
4人は1人ずつ丁寧に挨拶を交わし、ホテルオーキ福岡へ招かれた。
由里子はAIにそう指示し、その後2階から降りてきた2人のアンドロイド (ケイトとレイン) に頼んで全員の荷物を運ばせる。先ほど突然福岡に行く羽目になった芽衣もアメニティー関連はホテルオーキ福岡に揃っていることからも軽く準備を終わらせてアンドロイドに預ける。
3122年現在、超能力のエネルギー源となるサイクスが注目を集めるが、科学技術も目覚ましい発展を遂げており、AIとアンドロイドはその最たる例である。最早アンドロイドと人間の区別は難しくなっている。
芽衣の自動車や大木家のエアコンの様にAIの簡単な命令 をサイクスが"感情"として読み取ることが可能となり、今日では更なる複雑なプログラムとサイクスの融合を進める研究がなされている。
「さぁ、お嬢ちゃんたち乗りなさい」
由里子はそう言って5人を車に促す。助手席には芽衣が座り、セカンドシートには瑞希、萌、綾子が、サードシートには志乃と結衣が座る。
Psychic Air-Carは車の側面部分に主翼が、後尾に尾翼が収納されている。飛行機は対気速度 (空気に対する速度) を上げて翼に揚力を生み出して浮き上がる。言い換えれば飛行機には飛ぶための速度が必須である。それを得るために助走が必要で広大な面積の空港が本来は必要である。
しかしながら、近年ではサイクスを使って出力を補助することで助走を必要としなくなった。その為、少人数での日本国内の移動程度ならばPsychic Air-Carで事足りるようになった。
小型飛行機免許証を取得していれば東京都10地区にそれぞれ存在する小さな空港 (Tokyo Domestic General Airport = "TDGA" 1 – 10) から離陸可能で、海外移動に関しては必要なサイクスが膨大なことと移動命令の規模の大きさから第4地区にあるTokyo Airport (旧羽田空港) が利用される。瑞希たちの住む第3地区にあるTDGA3は大木の近所にある。
車内では"品評会"において恥をかいた瑞希が顔を真っ赤にしたまま、隣の綾子の胸に顔を埋めている。その様子を見ながら綾子は「よしよし」と優しく頭を撫でている。
「可愛かったから大丈夫だよ~」
萌はニヤニヤしながらその様子を眺めている。
「そう言えば!」
既に自動運転に任せている由里子が思い出したかのように「パンッ」と手を軽く叩きながら声をあげた。
「今回のホテル、海辺ってこともあって水族館と提携しているのよ。もう既に水族館はオープンしているんだけど皆んなで遊びに行ってみたら?」
すると結衣の目が途端に輝きだす。
「水族館!? やった!! 私、海もお魚も泳ぐのも大好きなんです!」
「そっか、結衣は前に海洋生物の研究とかしたいって言ってたもんね」
綾子が後ろを振り向きながら話す。
「あら、今の時期から目標があることは良いことよ」
由里子はそう言って結衣を褒める。
瑞希が綾子の胸から顔を上げ、結衣に話しかける。
「うちのおじいちゃん、海洋生物学者だったよ。今はもう第一線には居ないみたいだけど」
「え! そうなの!? 会ってみたいな!」
会話を交わす中でAIのアナウンスが車内に流れる。
「TDGA3に到着しました」
そのまま車は空港の入り口でスキャンされ、登録済みPsychic Air-Carであるかを確認された。
その後、由里子はスマートコンタクトを起動、共有モードにして空間にIDを表示、機器にスキャンさせて持ち主本人の照合を行った。照合が終わると空港職員がやって来る。
「17:30からご予約の大木由里子さんですね。行き先は福岡、人数はご本人様含めて7名ですね。移動の為のサイクスはご自分のサイクスをお使いになられますか? それともTDGA3のサイクスをお求めになられますか?」
移動に必要なサイクスは搭乗者のサイクスを使用するか、空港内で必要な物質刺激型サイクスを料金を支払って使用するかを選択出来る。これによって非超能力者もPsychic Air-Carを利用することが可能となっている。
「自分のを使用します」
由里子は丁寧に答え、変換器を利用しながら福岡までの移動に必要な分だけタンクにサイクスを込める。
その後、離陸口まで誘導されPsychic Air-Carに収納されていた主翼と尾翼が展開される。
「初めてだからワクワクする!」
「私も!」
Psychic Air-Carに搭乗したことのない綾子と結衣は興奮を隠し切れていない。一方で瑞希は翔子や生前の父・蒼生の操縦以外で乗ったことはない為にやや緊張気味だった。
「離陸するまでカウントします」
AIは10秒のカウントを開始し、7人を乗せたPsychic Air-Carは勢いよく射出される。
サイクスの利用と科学技術の発展の融合により移動速度は格段に上がり、東京都から福岡まで (使う機体の性能にもよるが) 約40分で到着する。
#####
ホテルオーキがある福岡県第2地区にある"Fukuoka Domestic General Airport"に着陸する。由里子は空港スタッフとの手続きを済ませた後に7人に声をかける。
「さ、ホテルオーキに向かうわよ! 主人も既に到着しているから紹介するわね!」
7人の返事を聞いた後に由里子はハンドルを握り、通常の道路を走行し始めた。Psychic Air-Carは飛行モードを終えた後、機体のかかった負担を考慮してサイクスを利用した運行は2時間自動的に制限される。
退勤ラッシュに捕まり、少々時間を要したものの30分ほどでホテルオーキへと一行は到着する。
ホテルスタッフが2名が車を駐車場へと誘導しする。
「奥様、お嬢様方、ご学友の皆さま、長旅お疲れ様でございます。お荷物の方はアンドロイドと運搬用ロボットがお部屋にお運び致しますので今必要なもの以外はそのままで結構です」
そう言うと奥から3人のアンドロイドと2体のロボットが現れる。
「ご主人様がお待ちです。こちらへどうぞ」
瑞希、綾子、萌、結衣は丁寧な対応に感嘆しつつ付いていく。
ロビーへ到着すると志乃の父・輝之が待っており、7人を見て笑顔で出迎える。
「ようこそ! 志乃がいつもお世話になっております、父の輝之です!」
4人は1人ずつ丁寧に挨拶を交わし、ホテルオーキ福岡へ招かれた。
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