TRACKER

セラム

文字の大きさ
上 下
53 / 172
夏休み前編 (超能力者管理委員会編)

第52話 - 超能力者管理委員会

しおりを挟む
「さてと、始めましょうか」

 派手なスーツに身を包み、爽やかな笑顔を浮かべながら若い男が議長席へと座り、話を始めた。
 男の名は葉山はやま 順也じゅんや。先日23歳になったばかりのこの男は2年前に若くして衆議院議員に当選し、今年から"超能力者管理委員会"の委員長を務めている。

––––超能力者管理委員会
 日本国民の超能力に関する情報を管理している。日本国民は出生届と共に先天的にサイクスを持つかどうかを政府に提出することが義務付けられ、その管理やサイクス量を分析し、特別教育機関に入学させるかどうかの判断など、超能力に関する決定を任されている。
 超能力者管理委員会は意見の偏りなどを防ぐために与野党混合・超能力者/非超能力者混合で5大政党から2名ずつ計10名で構成される。
 
 また、超能力者管理委員会はどこの省庁にも属さず、超能力者に対する各省庁の動向、特にその特性から内務省を監視する立場となっている。

「フンッ」

 白髪を搔き上げながら貫禄ある男がわざとらしく声をあげる。

「どうされました?」

 葉山は笑顔のままその男に尋ねた。

「いや何だ、この間の総選挙で見事政権交代を果たし、最近の情勢から目玉と目されていた超能力者管理委員会・委員長を誰に任命するか……まさか人気だけが取り柄の経験不足な若者を置くとはねぇ……。人気取りに走るだけでは政権運用は上手くいかんよ」

 日本陽光党 (日陽党) の重鎮の一人である白井しらい 康介こうすけは少し大げさなアクションで答えた。
 日陽党は長期政権を築いていたが先の総選挙において日本月光党 (日月党) に政権を明け渡している。

「あはは。白井さんのような経験豊富な方にご指導して頂けて嬉しい限りです。あ、ちなみに超能力者による犯罪に歯止めを効かせられなかった政策に関しては参考にした方が良いですかね? 白井委員長?」

 葉山は依然として笑顔を崩さぬまま皮肉を浴びせる。

「この……」

 白井が葉山に対して言い返そうとした瞬間、1人の男が間に入る。

「お2人とも止めましょう。この場で政党同士のいざこざを持ち込むべきではありません。近年の超能力者による犯罪に対する対策が必要というのは全会一致のはず。私たちはそれに集中するべきです」

 日本光明党 (日光党) の石野いしの 亮太りょうたが2人を落ち着かせる。

「フンッ」

 白井が黙りこくる。
 その様子を見た葉山は再び話を始めた。

「ありがとうございます、石野さん。では本題に入りましょうか」

 葉山は一呼吸置いて続ける。

「まずはTRACKERSの設置区域や所属機関の話です。内務省直属の組織とすることに関して異議はあります?」

 国民自由党の伊田いだ 裕子ゆうこが挙手し、意見を発する。

「政府直属の機関にすることで政府の私利私欲に利用されてしまうのでは? という懸念を国民は抱いています。凶暴化する超能力者に対する組織ということで"TRACKERS"の超能力者も相当な使い手となります。そのような集団が暗躍するようなことになれば……という意見ですね」
「なるほど、なるほど。しかしそれを監視し、管理する為に僕らがいるのでしょう?」

 葉山の答えに対して石野が意見を挟む。

「そこで設置区域の話になります。東京だけだと全国的な犯罪に対しての動きが遅くなります。かと言って全国に1箇所ずつ設置するにしても超能力者の数が不足するし、管理が追いつかないでしょう。無理やり設置できるかもしれませんが、それだと設置区域によって超能力者の実力に偏りが生じてしまう。各県各区に設置するなど以っての外ですしね」

 眼鏡をかけたかけた気の弱そうな女性、異能共生党の国田くにた のぞみが手を挙げ意見を述べた。

「あの……県単位ではなくてもう少し大きな括り、例えば九州地方といった感じで"TRACKERS"を設置するのはどうでしょうか? そして10地域以内にして管理委員会の私たちがそれぞれの地域の責任者として運営するのはどうでしょう? 」
「良いアイデアですね。大きい単位だと1人では限界があるのでエリアに属する各県に協力を要請して管理委員会をそれぞれ設置しましょう。そして定期的に僕たちが集まって意見交換をし合って状況を把握し合う。そして必要ならば応援要請するという形で」

 そこにもう1人の日陽党の島田しまだ 修太郎しゅうたろうが言葉を発する。

「その場合、我々は東京が含まれる地域以外の場合、地方に飛ばされるということか?」

 各都道府県は最大10地区に分けられそれぞれの地区ごとに1人ずつ当選する。今日こんにちにおいてXR (クロスリアリティ) 技術や仮想空間を展開する超能力者の出現によって国会議員は当選地区や東京外の地域で業務をこなしながら参加することも可能となり、地方自治体の声をより国政に反映出来るようになった。

 少し間を空けて国田が答える。

「そういう事になりますね……」
「それは困るね」

 間髪入れずに白井が言う。

「私はこれまでこの東京で活動してきたし様々な繋がりもある。この場に留まれるのならば良いのだがねぇ……」
「いやいや白井さん、あなたほどの方でしたらそのコネクションを使ってその剛腕を発揮できるでしょう?」

 日月党の江藤えとう 隆弘たかひろが白井に言う。

「そうそう甘いものでもないんだよ、江藤くん。君もまだ若いとは言えそれなりに経験を積んだんだ、分かるだろう?」

 江藤は黙りこくる。

「それに少し嫌らしい話になってしまうが、私は東京第5地区。地区の有権者の皆様に私の活動が伝わりにくくなってしまうんじゃあないかなぁ。私は何よりも彼ら・彼女らの為に政治家生命を賭けて日々邁進しているんだ」

「(チッ……)」

 石野が内心で白井に毒づく。

「(こんな場でも白井は保身か。超能力者を利用して暗躍してきたお前が有権者たちのことをいちいち考えている筈がないだろう)」

 葉山が白井に向かって拍手しながら話す。

「いやー素晴らしい政治家姿勢ですね、白井さん。勉強になりますよ。白井さんのコネクションを存分に使えるというのは僕らにとってとても大きな意味を持ちます。そして白井さんにはそれらに直接かけ合って欲しい。どうでしょう? 皆さん、白井さんには東京に残ってもらうのは。この委員会の委員長という立場上僕も東京に残ることにもなりますが……」
「良いんじゃないですか? 私は反対しませんよ」

 伊田は答え、他の者も賛同する。

「フン、君に賞賛されるのは素直に喜べないが……私はそれで構わんよ」
「ありがとうございます」

 葉山は白井にニッコリと笑いかける。

「(何でアイツが頼まれたみたいになってんだ。希望通りになっただけだろ。それよりも葉山の狙いは何だ? 白井を遠ざけて影響力を少しでも抑える事じゃないのか?)」

 石野は思考を働かせているうちにその日の委員会は解散した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...