50 / 172
夏休み前編 (超能力者管理委員会編)
第49話 - 正義感
しおりを挟む
和人は既に胸に負った傷は回復し、サイクスの訓練に戻っている。
「和人、あなたの超能力を考えると"超常現象"の応用は割りかし簡単に使いこなせるようになると思うわよ」
花が和人に説明を施す。
「と言うと……?」
いまいちピンと来ていない和人に対して"弓道者"を発動するように指示し、和人はそれに従う。
「そのまま……じゃあ、あの扉に向かって矢を放ってみて」
––––"衝撃"
和人は指示通りに"衝撃"の矢を扉に向かって放ち見事に命中した。
「和人、あなた矢を放つときどういう気持ちで放ってる?」
「どうって……狙って当たれって」
花が頷く。和人は当たり前の質問に対して初めは違和感を覚えたがそこで気付く。
「あっ!」
花が少し笑い、話し始める。
「分かった? 今のは物に対して放ったけどあなた樋口兼やJESTERに向けてもその矢を放ったわよね? つまりあなたは弓矢を模したサイクスに対して、つまり対象に向けて"害意"を持って攻撃したのよ」
和人はなるほどと頷く。
「"超常現象"による攻撃も同じ要領・論理よ」
和人は納得した後に花に抱いた疑問をぶつけた。
「でも先生、僕、家で試したことがありますけど……なかなか上手くいきませんでしたよ?」
花は右人差し指を和人に向けながら答える。
「良い質問ね。あなたの"弓道者"はあなた自身のサイクスで弓矢に模したもの。そもそもあなたの弓道に対する思いが形になって創造されたものよ。だからあなたの感情を反映しやすいの。対して"超常現象"の場合、大して思い入れのないものに感情とサイクスを込める。また、状況によって対象の大きさや形も変わるでしょ? だから安定しないのよ」
和人は花の説明を頭の中で整理しながら答える。
「なるほど……そもそもサイクス学の授業で例えば石を数cm動かすのにも皆んな苦戦しますもんね。これらは単純な指示だけどそれが複雑になると困難になるのは当たり前のことなのか」
「その通り。小さい頃に友達とふざけて消しゴムをぶつけ合ったりしなかった?」
「しました!」
「あれも実はこれの一種なのよ。だって相手にぶつけてるんだもの。けど"いたずら"っていう軽い感情程度なら出来るのよ。けど相手にダメージを与えようという目的だと途端に難しくなる」
「どうすれば出来るようになるんですか?」
花は答えるまでに少し間を置く。
「これもアウター・サイクスやインナー・サイクスと同じで自分で感覚を掴むことが大事よ。大きさによって込めるサイクス量はどのくらい必要なのか? どの程度の感情を込めるのか? 経験も必要よ」
「難しそうですね」
「勿論難しいわよ。けどあなたのその"弓道者"の精度を考えるとある程度のバランス感覚はあるはずよ」
花はそう言うと大量の硬式ボールが入った箱を和人の足元に置いた。
「さ、分かったらこれを私にぶつけるように。勿論投げずにね」
「硬球でですか!?」
「あら私の心配してくれるの? 防御するから大丈夫よ。それにゴムボールみたいな柔らかい物質の方が"超常現象"は難しいのよ。それだけ多くのサイクスを込める必要があるし、込めるサイクス量のバランスが悪ければコントロールも難しくなる」
「そうなんだ……」
「初めは私、一歩も動かないからね。慣れてきたら避ける私に対して当てられるようにしましょう」
「了解です」
それから和人は箱に入っている硬球に対してサイクスを込めて花に向けて飛ばしたが花から逸れる。それから"超常現象"の反復練習が始まった。
#####
和人が花との訓練に励んでいるのとほぼ同時刻、瑞希は多田の診療所を訪れていた。
「瑞希ちゃん、体調はどう?」
瑞希は多田を真っ直ぐに見つめながら答える。
「大分良くなりました。昨日、先生の診察受ける前はよくあのシーンがフラッシュバックして身体が強張ってたりしたんですけど……」
「よしよし、順調ね。前に私の診察受けた時と同じような手順を追っていくわね。少しずつあなたに対して悪さしている感情が籠もったサイクスを混ぜていってそれを中和していきながら克服していきましょう」
「はい」
それから瑞希と多田の会話が始まる。
「(本当に正義感の強い子ね)」
瑞希と会話を交わしながら多田は確信する。
「("精神問診票"に込められた感情、恐怖が大半を占めているけど絶対的"悪"に対して自分が役に立てなかったことへの後悔や怒りも多くある。そしてその源は……)」
「お姉ちゃんを守れない」
「愛香ちゃんのこと?」
「はい。お姉ちゃん、車椅子でただでさえ大変な思いをしているのに毎日凶悪な犯罪者たちを相手してる……いつ危険な目に遭うか……私が不甲斐ないとお姉ちゃんに迷惑かけちゃう。役に立ちたいんです」
その姿や絞り出される言葉が数年前の愛香と重なる。
#####
「先生、私、瑞希を危険な目に遭わせたくないんです。こんな身体になった私でもあの子を守りたいんです」
#####
診察を終えて帰路についた瑞希の背中を眺めながら多田は頭を抱える。
「(私の報告、結構重大ねぇ……まぁ、これまでの報告や事実を総合的に考慮して決まるんだろうけど。はぁ……)」
画面に表示されている"TRACKARS"に関する資料を消し、多田は外の空気を吸いに屋上へと向かった。
「和人、あなたの超能力を考えると"超常現象"の応用は割りかし簡単に使いこなせるようになると思うわよ」
花が和人に説明を施す。
「と言うと……?」
いまいちピンと来ていない和人に対して"弓道者"を発動するように指示し、和人はそれに従う。
「そのまま……じゃあ、あの扉に向かって矢を放ってみて」
––––"衝撃"
和人は指示通りに"衝撃"の矢を扉に向かって放ち見事に命中した。
「和人、あなた矢を放つときどういう気持ちで放ってる?」
「どうって……狙って当たれって」
花が頷く。和人は当たり前の質問に対して初めは違和感を覚えたがそこで気付く。
「あっ!」
花が少し笑い、話し始める。
「分かった? 今のは物に対して放ったけどあなた樋口兼やJESTERに向けてもその矢を放ったわよね? つまりあなたは弓矢を模したサイクスに対して、つまり対象に向けて"害意"を持って攻撃したのよ」
和人はなるほどと頷く。
「"超常現象"による攻撃も同じ要領・論理よ」
和人は納得した後に花に抱いた疑問をぶつけた。
「でも先生、僕、家で試したことがありますけど……なかなか上手くいきませんでしたよ?」
花は右人差し指を和人に向けながら答える。
「良い質問ね。あなたの"弓道者"はあなた自身のサイクスで弓矢に模したもの。そもそもあなたの弓道に対する思いが形になって創造されたものよ。だからあなたの感情を反映しやすいの。対して"超常現象"の場合、大して思い入れのないものに感情とサイクスを込める。また、状況によって対象の大きさや形も変わるでしょ? だから安定しないのよ」
和人は花の説明を頭の中で整理しながら答える。
「なるほど……そもそもサイクス学の授業で例えば石を数cm動かすのにも皆んな苦戦しますもんね。これらは単純な指示だけどそれが複雑になると困難になるのは当たり前のことなのか」
「その通り。小さい頃に友達とふざけて消しゴムをぶつけ合ったりしなかった?」
「しました!」
「あれも実はこれの一種なのよ。だって相手にぶつけてるんだもの。けど"いたずら"っていう軽い感情程度なら出来るのよ。けど相手にダメージを与えようという目的だと途端に難しくなる」
「どうすれば出来るようになるんですか?」
花は答えるまでに少し間を置く。
「これもアウター・サイクスやインナー・サイクスと同じで自分で感覚を掴むことが大事よ。大きさによって込めるサイクス量はどのくらい必要なのか? どの程度の感情を込めるのか? 経験も必要よ」
「難しそうですね」
「勿論難しいわよ。けどあなたのその"弓道者"の精度を考えるとある程度のバランス感覚はあるはずよ」
花はそう言うと大量の硬式ボールが入った箱を和人の足元に置いた。
「さ、分かったらこれを私にぶつけるように。勿論投げずにね」
「硬球でですか!?」
「あら私の心配してくれるの? 防御するから大丈夫よ。それにゴムボールみたいな柔らかい物質の方が"超常現象"は難しいのよ。それだけ多くのサイクスを込める必要があるし、込めるサイクス量のバランスが悪ければコントロールも難しくなる」
「そうなんだ……」
「初めは私、一歩も動かないからね。慣れてきたら避ける私に対して当てられるようにしましょう」
「了解です」
それから和人は箱に入っている硬球に対してサイクスを込めて花に向けて飛ばしたが花から逸れる。それから"超常現象"の反復練習が始まった。
#####
和人が花との訓練に励んでいるのとほぼ同時刻、瑞希は多田の診療所を訪れていた。
「瑞希ちゃん、体調はどう?」
瑞希は多田を真っ直ぐに見つめながら答える。
「大分良くなりました。昨日、先生の診察受ける前はよくあのシーンがフラッシュバックして身体が強張ってたりしたんですけど……」
「よしよし、順調ね。前に私の診察受けた時と同じような手順を追っていくわね。少しずつあなたに対して悪さしている感情が籠もったサイクスを混ぜていってそれを中和していきながら克服していきましょう」
「はい」
それから瑞希と多田の会話が始まる。
「(本当に正義感の強い子ね)」
瑞希と会話を交わしながら多田は確信する。
「("精神問診票"に込められた感情、恐怖が大半を占めているけど絶対的"悪"に対して自分が役に立てなかったことへの後悔や怒りも多くある。そしてその源は……)」
「お姉ちゃんを守れない」
「愛香ちゃんのこと?」
「はい。お姉ちゃん、車椅子でただでさえ大変な思いをしているのに毎日凶悪な犯罪者たちを相手してる……いつ危険な目に遭うか……私が不甲斐ないとお姉ちゃんに迷惑かけちゃう。役に立ちたいんです」
その姿や絞り出される言葉が数年前の愛香と重なる。
#####
「先生、私、瑞希を危険な目に遭わせたくないんです。こんな身体になった私でもあの子を守りたいんです」
#####
診察を終えて帰路についた瑞希の背中を眺めながら多田は頭を抱える。
「(私の報告、結構重大ねぇ……まぁ、これまでの報告や事実を総合的に考慮して決まるんだろうけど。はぁ……)」
画面に表示されている"TRACKARS"に関する資料を消し、多田は外の空気を吸いに屋上へと向かった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる