TRACKER

セラム

文字の大きさ
上 下
49 / 172
夏休み前編 (超能力者管理委員会編)

第48話 - ストーリー

しおりを挟む
––––"教えてあなたのキモチストーリー"

 多田泉の超能力。
 扉が1つだけの個室で発動し、その個室に自身のサイクスを充満させ患者のサイクスと一体化する。
 患者に対し質問を行い"精神問診票メンタル・クエスチョン"に記入。不安・恐怖・焦燥など患者に対して害をなしている感情を特定し、その感情を"精神問診票メンタル・クエスチョン"が発するサイクスに封じ込めて一時的に患者をこの感情から脱却させる。
 その後、封じ込めたサイクスを少しずつ患者に馴染ませて精神的な治療を施し、克服させる。

 多田のこの超能力ちからを利用しようとする海外企業や軍関係者は多数存在し、日本政府は早い段階で多田を保護、サイクス第二研究所での勤務を命じている。

 多田本人は自身の超能力ちからを使って1人でも多く救いたいという思いが強く、その他の勢力による思惑に興味を持っていない。彼女の興味は目の前の患者の感情とそれを救うことにしか向いていない。

 "精神問診票メンタル・クエスチョン"はその形を変形させ小瓶となり、その中に負の感情が籠もったサイクスが封じられる。小瓶にはラベルが自動的に貼られそこには"月島瑞希"と書かれている。

「(予想よりは酷くないわね……)」

 政府からは瑞希の治療をなるべく早く済ませるよう要望がきている。迅速に精神面を安定させサイクスの訓練を再開させて戦力にしたいという思惑が読み取れる。
 しかし、治療を急ぎ過ぎると患者の状態に悪影響を及ぼすため多田は至って冷静に対処しようと考えていた。

「(まぁこの程度ならば直ぐに良くなるわ)」

 多田は小瓶から少量のサイクスを取り出し瑞希のサイクスに馴染ませる。

「瑞希ちゃん、これから少しお話しましょう。辛かったら遠慮せず言ってね」
「はい」

 多田は真っ直ぐに瑞希の目を見て話を始める。

「瑞希ちゃんが1番怖かった場面は?」
「……」

 瑞希もまた目を逸らさない。一時的に負の感情の込もったサイクスを取り除かれた患者は感情の起伏が無くなる。その為、多田は混ぜるサイクスの量を増やした。

「人の死を目の前にした時です」

 ゆっくりと瑞希が話を始める。

「怖いって思ったのと同時に怒りを感じました」
「(これは……)」

 瑞希の黒いサイクスが段々と力強くなる。

「それは何に対して?」
「あの仮面の人たち……」

 2人はしばらく話した後、診察の終わりの時間がきた。

「……今日は終わりにしようかしら」

 多田は話した内容をPCにまとめつつ瑞希に声をかけた。

「はい、分かりました」
「また明日同じ時間に」
「はい」

 瑞希は静かに扉を開けて診察室を後にした。

「(今日の時点で大分進んだわね)」

 多田は腕を組みながら思考する。

「(JOKERやJESTERといった悪意と触れ合ったことへの恐怖や人の死を目の前にした恐怖。更に両親を亡くした心の傷もあってパニックに陥り、気を失ったのは事実だけど同時に彼らに対する怒りの感情が異常なほど大きかった。正義感が強いわね)」

 多田の携帯が一人でに光だした。

「……それであなたは何か役割を担っているの?」

 携帯の中からピボットが現れる。

「どうしてそう思うんだい?」
「基本的に意思を持つサイクスが発現した場合、術者の深層心理を反映していることが多いからね」
「さっすがは先生。そう。ボクは瑞希の感情を基盤として作られているヨ」
「精神面に関して瑞希ちゃんに何か出来ることはあるの?」
「出来ないよ。勿論瑞希の感情は直ぐに分かるけど」
「そう……」
「ただサイクスの消費量を多くして少しの影響で気を失うように細工はしたけどね」
「戦闘すると命を落とす可能性があったから?」
「いやいや。彼らの感じからして瑞希を殺すようなことはないだろうからそこの心配はなかったよ」
「ではどうして?」
「瑞希の覚醒維持の終了はまだ早いからだよ」

 少し間を置いて多田がピボットに尋ねる。

「その傾向があったの?」
「ほんの少しだけその兆候があったのさ。先生も感じただろうけど憤怒の感情が強くなりかけていてねー。それだとさー瑞希くらいの年齢とまだ未熟な精神だと暴走の恐れがあったんだ。覚醒維持はしっかり時間をかけないと。無理やり終わらせるのには勿体無い」
「超能力発動の時の膨大なサイクスからして覚醒は終わってるのかと思ったわ」
「いいや。あれは覚醒維持さ。て言うか先生、覚醒維持なんてよくご存知で。あの潜在能力ポテンシャルが覚醒を終えると凄くなると思わない?」
「取り敢えず専門家だからね。あの状態で無理やり覚醒維持を終了させると現段階だとほぼ確実に暴走ね……。それに確かにきちんと段階を踏んで覚醒維持が終了するととんでもないことになる。私たちはどちらかと言うと恐ろしさの方が先立つけど」
「あのサイクスが怒りの感情を引き金として覚醒維持を終了させるとしたらキミたちが恐れていることが本当に起こってしまっていたかもしれないよ。感謝して欲しいくらいさ」

 口元に手を置きながら多田が考え込む。

「(伏せておくか……)」

「ピボット、あなたそれを誰かに伝えるつもり?」
「そんな予定はないよ」
「伏せておいて」
「OK」

 そう言った後、ピボットは多田の携帯画面から姿を消した。

「(瑞希ちゃん、向いてるのかもなぁ……)」

 多田はPCのタブから"TRACKERS"についての資料を持ち出しページ下部の一文を眺める。

––––多田泉には"TRACKERS"候補者の計画への適性について逐一報告すること

 多田は経過報告のページを開き書き込む

––––霧島和人に"TRACKERS"への適性有り。月島瑞希に関しては経過観察が必要

 多田は少し伸びをした後に部屋を後にした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...