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クラスマッチ編

第42話 - JESTERは笑う

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––––樋口の首が宙を舞う。

 JOKERは手を広げ、足でリズムを刻みながらステップを踏む。狂気じみた笑いを発しながら血の雨を一身に浴びる。

 その場にいた全員はJOKERのその予期せぬ残虐行為に思考が止まる。

 瑞希は一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、樋口の首が体育館の床に転がったのを見た瞬間、吐き気を止めることが出来ずその場に膝を突きながら倒れ込み、そのまま嘔吐する。

「あら? もしかしてこういうの見るの初めて?」

 JESTERが瑞希の背中をさすりながら優しく尋ねる。

「うっ……うっ……」

 瑞希にJESTERの言葉は耳に入っておらず、身体が激しく震え嗚咽を漏らす。

「可哀想にねぇ。でもこれからあなたはこういった場面に多く遭遇するのよ♡  」

 そう言いながらJESTERはまたしても瑞希の頰を一舐めした後にJOKERに声をかける。

「JOKER、いつまで遊んでるの?」

「おっと失礼」

 JOKERはダンスを止めて床に転がった樋口の首の頭を掴み瀧の足下に投げる。
 樋口の首は丁度正面に止まるように投げられ、瀧と目が合う。
 
 見開かれた樋口の目はただただ上を見ているだけでそこには何の感情も読み取ることは出来ない。気絶している状態で突如首を飛ばされた為に樋口は死への恐怖も生への執着も世への未練も感じる時間を与えられなかった。

 ––––もっともそれはある意味で幸せなことなのかもしれない。

 JOKERはこれまで目を覆いたくなるような残虐な方法で多くの人間を殺害してきた。それを考えれば……

 花はそう思いながら瀧の方を見る

「お前……何のつもりだ?」

 瀧が怒りの表情でJOKERに問う。

「キミたち警察はこの樋口兼を追っていたんだろう? 小野建設で多くの無実の人々の命を奪った酷い男だからねぇ。だから協力してあげたんだよ。これで世の中が少し平和になっただろう? ってことで見逃しておくれよ。もう何もせずに帰るからさ。お互いWIN-WINだろう?」
「てめぇ……おちょくってんのか? 俺たちは奴を捕まえて罪を償わせなけりゃいけねぇーんだよ!」
「4人」
「あ?」

 少し間を空けてJOKERが話す。

「彼は4人を殺した。そして負傷者が9名。13名もの罪無き人々に被害を与えた。更に13番駅では無差別にサイクスを奪い、キミたちにも襲いかかった。普通なら死刑の可能性は高いだろうねぇ。だけど最初の殺人は一見、後天的に生じたサイクスによる暴走と判断されて実刑を免れるかもねぇ。殺意を証明できるかい? そもそも司法の場でその超能力を証明するのも難しいだろうし。時間がかかるだろうねぇ」
「……」
「死刑となるにしても時間がかかるし、後天性ってことで刑が軽減されたり最悪実刑無しかもねぇ。なら今殺しちゃった方が良くない? キミならよく分かるだろう?」

 2590年代後半からサイクスを持つ超能力者が出現して以降、様々な変化と混乱が続いている。その一つが司法の場における超能力にによる犯罪の判決である。特に後天性超能力者による犯罪でサイクスの暴走に対する判断はかなり困難で長期化することが多い。

「お前が……」

 瀧が敵意を剥き出しにしたサイクスを放出し、怒りに満ちた表情でジョーカーを睨む。

「お前が司法を語るな!」

 瀧がJOKERに向かって殴りかかり、それをJOKEはふわりと躱す。瀧の拳は体育館床に穴を空ける。
 JOKERは右手で瀧の肩につき、バネの弾性力を利用して弾かれ二階席へと舞う。

「ねぇ、JOKER、この子持って帰って良い? 可愛い♡」

 目の前で残虐な方法で簡単に奪われた命、そして平然と笑うJOKERを目の当たりにして意識を失った瑞希をJESTERが愛おしそうに抱きしめながらJOKERに尋ねた。

「計画とは違うけどねぇ」
「でも私たちノリで計画なんて変わるじゃない」
「壊しちゃダメだよ? それとボクの獲物だよ」
「分かってるわよ、そんな勿体無いことしないわ。性癖は壊しちゃうかもだけど♡ 
 」
「まだ15歳の女の子なんだから勘弁してあげなよ」
「あらぁ、こういうのは若い頃から覚えるのが良いのよ♡」

 ––––"弓道者クロス・ストライカー" ・ "火炎フレア"!!!

 和人が放った炎の矢がジェスターの右腕を直撃する

「ああああああああ!! 熱い! 熱いいいいいい!!!」

 JESTERが右腕を抑えながら倒れ込む。

 ––––トスッ

 鈍い音が和人の後ろで音が鳴る。気付くと和人は背中から宙に浮いた右腕にナイフで貫かれ吐血していた。

「!?」

「何ちゃって♡」

 さっきまで悲鳴を上げていたのが嘘のように平然と直立しJESTERは笑う。彼女を中心に黒いドーム状のサイクスが出現し、肘から下には何もなく左手には燃え盛る右腕を持っている。
 同じ黒いドーム状のサイクスは2階席の凛にも広がっている。その右腕は何者かのサイクスに守られ、やがて火は消えた。

「あら、残念。MOONの超能力ちからね」

 JESTERは持っていた右腕を空中に投げると勢いよく回転しながら落下する右腕は突如として消え、和人をナイフで貫いた右腕も消える。
 JESTERの右腕は元に戻っている。

「坊や。レディーが話している間は黙って聞いておくものよ」

 唇に人差し指を当てて忠告する。

 轟音が鳴り響く。

 そこには意志持つサイクス、"大食漢グラトニー"。
 本来術者である樋口を失った時点で消失するはずのサイクスが動き始めた。

「ほう。これは興味深い」

 JOKERは右手で顎をさすりながら呟く。

「少しは役に立つじゃないか、樋口くん。じゃあ後はよろしく」

 二階席の窓が開き、風でカーテンが盛り上がる。カーテンが元の位置に戻った時、既にJOKERの姿は消えていた。

「もう、せっかちねぇ」

 JESTERは瑞希の唇に軽くキスし「また今度ね」と少し残念そうに小さく呟いた後、黒いドーム状サイクスが出現、忽然と姿を消した。

 代わりにそこには"See You next party!"と書かれたメモを両手に持つ不気味なピエロの人形が置かれていた。


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