TRACKER

セラム

文字の大きさ
上 下
28 / 172
クラスマッチ編

第27話 - サイクスを使ったスポーツ

しおりを挟む
「日曜日も学校来なきゃなんて瑞希も大変だねぇ」

 翌日から3日間行われるクラスマッチに向けて各クラスの生徒たちは日曜日にも登校し、練習を行なっている。
 東京第三地区高等学校はクラスマッチのチーム編成として基本的に非超能力者と超能力者で分けて行われる。(サイクスを一切使わないというルールの下、超能力者が非超能力者のチームに参加することもある)
 また、超能力者競技においては競技によって若干ルールが異なるがボールにサイクスを込めての強化は反則とされない。しかし、敵選手に直接影響を与える超能力を使うことは許されずこれは反則行為の対象となり、発覚時点で不戦敗となる。
 競技は8人制男子サッカー (最低8名)、女子バレーボール (最低6名)、男女混合ドッジボール (最低男子3名、女子3名)、男子バスケットボール (最低5名)、女子バスケットボール (最低5名)となる。

 瑞希の1年1組は上野菜々美が逮捕となったことで合計人数は41名となり、そのうち超能力者は19名 (男子11名、女子8名)となり、全競技に参加することがクラス全体として決まった為、複数競技に参加する生徒が必然的に存在する。

 瑞希は花からの指示もあり、女子バレーボール、男女混合ドッジボール、女子バスケットボールと全ての競技に参加する。

「サイクスの配分を考えながらスポーツするの楽しいよ。特にピボちゃん出してるとサイクス少ないからフローが大事になるからね」 

 瑞希は女子バスケットボールの練習に戻る。特別教育機関にいた頃にバスケットボールの経験がある瑞希はチームの中心として動く。
 クラスマッチという特性上、どの競技も明確にポジションを分けているわけではないがPGポイントガードとしてゲームメイクを担う。

 普通の生徒でもサイクスを込めてボールスピードなどを変えることは可能である。しかし、フローの概念を知らないために配分のバランスが悪くパスが通らなかったり、シュートがコントロール出来ないことが殆どである。

 フローの概念を理解し、またその見極めに自信のある瑞希は1つ1つのプレーにサイクスの配分を考慮しながらプレーをする。

「(足裏に1割にも満たないサイクスを込めて身体のバランスを安定、状況に合わせて膝と肘にサイクスを込めてシュートやパスの瞬間のバネの強さを強化。そしてまた状況に応じてボールに込めるサイクスを調整してボールスピードに変化を加えるっと)」

「瑞希、ナイスパス!」

 綾子が瑞希からパスを受けるとそのままレイアップでゴールする。

「月島さん、人によってパスの強さとか調整してくれるからすっごいやり易い!」

 バスケ部に所属する大木おおき 志乃しのが興奮しながら瑞希に駆け寄る。
 瑞希は少し照れながら「任せて」と答える。

 瑞希以外の生徒は正確に自分のサイクスを把握していないためサイクスを込めると毎回安定しない。更に試合という緊張感の中だとサイクスを多く込め過ぎたり逆に少な過ぎたりしてしまう。それが理由でサイクスを使わない生徒もいる。
 瑞希は経験あるポジションということもあるがパスにおいても繊細に調整可能な為にPGポイントガードを任された。

「バスケ部の志乃ちゃんと経験ある月島さん、スポーツ経験豊富な綾子ちゃんが中心になってもらって経験ないうちと萌は3人にパスが繋がるようにすることが大事だね!」

 長野ながの 結衣ゆいはそう言い、豊島《とよしま》 もえもそれを聞いて大きく頷く。
 
「皆んな私が上手く状況見ながらどんどんパス回すから積極的にいこ!」

 瑞希がチームメイトを鼓舞し、その日の練習は終了となった。


#####

 綾子と瑞希は一緒に下校する。

「瑞希、出る競技多いんだから無理しないでね」
「大丈夫だよ」
「でも気分悪くなったり怪我したりしたらちゃんと言うんだよ」
「うん、ありがとね。綾子ちゃんもバスケとドッジボール出るんだし気を付けてね」
「うん! 明日頑張ろうね!」
「また明日ね!」

 瑞希は綾子と別れた後、アウター・サイクスをインナー・サイクスに切り替えた。

「切り替えも更にスムーズになったね」

 ピボットが瑞希に声をかける。

「うん。2種類のサイクスの感覚を掴んでからやり易くなったかな。インナー・サイクスは何かしながらっていうのはまだまだ難しいけどね」
「成長著しくてボクは嬉しいよ」

 ピボットは顔を手で覆って泣くフリをする。

「ピボちゃんからは何も教えてもらってないけどねー!」

 そう言って瑞希は歩を速めて自宅へと向かった。

#####

「(だんだんとコイツの性能が分かってきたぜ……)」

 第3地区8番街第2セクターの裏路地に座り込む男、樋口兼がいた。

「(とにかくコイツは常にサイクスを欲している。ある基準値を下回り始めると俺にまで空腹がきやがる。喰ったサイクスを消化する前まではそのサイクスを俺に回して俺自身の攻撃力や防御力の強化に役立ってくれるらしい)」

 大食漢グラトニーはそれ自身に意思があり、超能力者を見つけると自動的に喰らいに行く。食べる量は様々だが自分に対して敵意のある者に対しては多くのサイクスを喰おうとする。

「(何だかよく分かんねぇけど勝手に見えなくなることあるしな……ただ1番の問題は常にサイクスを喰う場所、つまり超能力者が多くいる所に行かなきゃなんねーことにある。つまりはこの間の奴らみたいなサツの連中に見つかるリスクが高まるってことだ)」

「とにかく目立たないようにサイクスが多く得られる所に行かねーと……」

 樋口はそう呟くと立ち上がり、また闇の中へと消えて行った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...