15 / 17
第一章
『第十三話』
しおりを挟む
「昔、僕と会ったことありますか?」
静かに問い掛けると三日月さんは、驚いたような表情を浮かべた。
「思い出したんですか?」
「……僕は高校二年の頃の記憶が一部ありません、期間は一週間ほど。その期間の記憶がないことは正直、気にしたことはありませんでした。勉学も、学校生活も友人や先生方のことを覚えていないわけではなかったので」
静かに、自分のことを語る。その間、三日月さんはただただ静かに聞いていた。
「ですが先日、姉さんに聞かれたんです。『覚えていないの?』と。それから、覚えていない期間のことを気になってまして。三日月さん、僕が覚えていない期間のことを知っているのなら教えて下さい」
懇願するようにそう言うと三日月さんはじっと僕を見ていた。そして目を逸らした。話さない、という意思表示だろうか。
そんなことを思っていると三日月さんはカバンの中に先程僕がサインした本を仕舞った。
「ここではなんですので、公園にでも行きませんか?」
「……いいですよ」
僕自身もノートと筆箱をカバンの中に仕舞い、立ち上がった。
○○○
カフェから程近い場所にある大きな公園にやってくると三日月さんは入ってすぐの場所にあるベンチに座った。
「隣、どうぞ」
「失礼します」
僕は一言そう言うと三日月さんの隣に座った。
「俺の話をしますね」
三日月さんはそう切り出した。
「高校一年生の頃の俺は、軽度の女性恐怖症でした。女性と話すのも、触れ合うのも駄目で。一緒の空間にいるのも耐えられなくて女性恐怖症だと分かってから母と離れて暮らしたりもしました。高校は男子校に通っていました」
今度は僕は静かに聞く番。
「ある日の学校帰りに、アルファだからと女性に迫られたことがあって。逃げたいけど逃げられなくて、その時でした。困って怖がっていた俺を助けてくれたのが心広さん、あなたでした」
「えっ、僕?」
首を傾げて問い掛けると三日月さんは優しい笑みを浮かべて「はい、心広さんです」と言った。
「『困っているから、離してあげて下さい』。そう言って俺を助けてくれました。それでも女性たちは離れてくれなくて。俺の手を引いて逃げてくれたんです。あの時から心広さんのこと、オメガだって分かったんです。でも逃げている途中で心広さんがヒートになってしまって。それでも俺を助けようとしてくれたらしくて苦しそうにしながら助けてくれたんです。その後、騒ぎを聞いていた人たちが警察を呼んでくれたらしくて俺は助かりました」
全然、覚えていない……。
「その後、聞きました。心広さんがヒートになっていて、いつもより重いみたいだって。警察の人も驚いていました、『オメガがアルファを助けるなんて聞いたことがない』って」
そういえば、姉さんがその一週間のこと、『ヒートが重くて入院した』って言っていたな。
静かに問い掛けると三日月さんは、驚いたような表情を浮かべた。
「思い出したんですか?」
「……僕は高校二年の頃の記憶が一部ありません、期間は一週間ほど。その期間の記憶がないことは正直、気にしたことはありませんでした。勉学も、学校生活も友人や先生方のことを覚えていないわけではなかったので」
静かに、自分のことを語る。その間、三日月さんはただただ静かに聞いていた。
「ですが先日、姉さんに聞かれたんです。『覚えていないの?』と。それから、覚えていない期間のことを気になってまして。三日月さん、僕が覚えていない期間のことを知っているのなら教えて下さい」
懇願するようにそう言うと三日月さんはじっと僕を見ていた。そして目を逸らした。話さない、という意思表示だろうか。
そんなことを思っていると三日月さんはカバンの中に先程僕がサインした本を仕舞った。
「ここではなんですので、公園にでも行きませんか?」
「……いいですよ」
僕自身もノートと筆箱をカバンの中に仕舞い、立ち上がった。
○○○
カフェから程近い場所にある大きな公園にやってくると三日月さんは入ってすぐの場所にあるベンチに座った。
「隣、どうぞ」
「失礼します」
僕は一言そう言うと三日月さんの隣に座った。
「俺の話をしますね」
三日月さんはそう切り出した。
「高校一年生の頃の俺は、軽度の女性恐怖症でした。女性と話すのも、触れ合うのも駄目で。一緒の空間にいるのも耐えられなくて女性恐怖症だと分かってから母と離れて暮らしたりもしました。高校は男子校に通っていました」
今度は僕は静かに聞く番。
「ある日の学校帰りに、アルファだからと女性に迫られたことがあって。逃げたいけど逃げられなくて、その時でした。困って怖がっていた俺を助けてくれたのが心広さん、あなたでした」
「えっ、僕?」
首を傾げて問い掛けると三日月さんは優しい笑みを浮かべて「はい、心広さんです」と言った。
「『困っているから、離してあげて下さい』。そう言って俺を助けてくれました。それでも女性たちは離れてくれなくて。俺の手を引いて逃げてくれたんです。あの時から心広さんのこと、オメガだって分かったんです。でも逃げている途中で心広さんがヒートになってしまって。それでも俺を助けようとしてくれたらしくて苦しそうにしながら助けてくれたんです。その後、騒ぎを聞いていた人たちが警察を呼んでくれたらしくて俺は助かりました」
全然、覚えていない……。
「その後、聞きました。心広さんがヒートになっていて、いつもより重いみたいだって。警察の人も驚いていました、『オメガがアルファを助けるなんて聞いたことがない』って」
そういえば、姉さんがその一週間のこと、『ヒートが重くて入院した』って言っていたな。
35
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
エンシェントリリー
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる