僕を愛して

冰彗

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第一章

『第四話』

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 手を離して欲しいな。そんなことを思いながら立っているとある考えが頭を過ぎった。

「番って、あなた、アルファなんですか?」

「はい、そうです」

 彼がそう言った途端、ゾワッとした悪寒が体中を駆け巡ったのを感じた。

 その時だ、男性は驚いたような痛みに耐えるような表情を浮かべた。

「いたっ!?」

 それと同時に握っていた僕の手は解かれ手は自由になった。咄嗟に斐都の方を見ると斐都は男性のふくらはぎを何度も蹴ったりパンチしたりしていた。

「ママから離れてっ!」

 普段大人しく、大きな声を出さない斐都が大きな声を出して、小さな身体で僕より身体の大きなアルファに敵意を剥き出しにしていた。

「っ……」

 僕は我が子の成長を感じると共に、何が何でもこの子を守らなければと思った。

 震える身体を動かし斐都を抱き上げる。

「すみません、失礼します」

 やや早口になりながらそう言い、その場から逃げるように去った。

 五分もしないうちに自宅である部屋に着く。

 息は上がっていて肩で呼吸しているような状態だった。玄関には僕の荒い息だけが響いていた。

 ――カゴ、共有コインランドリーに置いてきちゃったな。

 斐都を抱っこしたまま壁に寄り掛かり、そのまま床に座り込みながら今は考えなくていいことを考えてしまった。

 共有スペースにいたってことはこのマンションの住人、だよね。僕が住めるくらいだからアルファはいるとは思っていたけれどあんなこと言われるだなんて。

 先程のことを思い出し、思わず身体を小さく縮めてしまう。それと同時に抱っこしていた斐都も抱き締める。

「ママ……?」

「……大丈夫、だよ。ごめんね、苦しかった?」

「んーん、だいじょーぶ」

「よかった。もう少しだけぎゅってさせてくれる?」

「いいよ」

 僕の問い掛けに斐都は嫌な顔ひとつせずに了承して僕を抱き締め返してくれた。

 本当に優しくて思いやりのある子だ。僕より身体の大きいアルファにあまり会ったことがない。斐都だって怖かったはずだ、自分より大きくて力を持つアルファが。なのに、僕を守ろうと恐怖の対象であるはずのアルファに対して攻撃した。

「アヤ、ごめんね。不甲斐ないママでごめんね」

「……?」

 あまり聞いたことのない言葉を聞いたせいか斐都はきょとんとした表情を浮かべて首を傾げていた。

 その時、僕はあることに気付いた。家を出る時に持っていたはずの斐都のお気に入りであるクマの人形がないことに。

「斐都、クマさんは?」

「スペースに置いてきちゃった」

 クマの人形がないことに今気付いたらしい斐都は僕の問い掛けを聞き、ハッとした表情を浮かべた後、泣きそうな表情を浮かべた。

「クマさん……」

「ママが取ってくるから、少しの間一人で待てる?」

「ママ、ひとりでいくの?」

「カゴも置いてきちゃったし取ってくるだけだよ。一人でいい子にお留守番出来る?」

「……うん」

「いい子」

 渋々だが頷いてくれた斐都の前髪を少しだけあげ額に軽くキスを落とす。斐都が我慢していると分かった時はいつもしている。『大丈夫だよ』というおまじない代わりのようなものだ。

「よし、じゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい、ママ」

 斐都を床に下ろしそう言う。付け加えるように「お靴ちゃんと脱いでね」と言ってから家を出て共有コインランドリーに向かった。
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