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四章    ―― 夢と空の遺跡 ――

遺跡4 『リザードマン集団戦』

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 火柱がトカゲ達を黒焦げにしていく。
 鉤爪がトカゲの首筋を切り裂いていく。

「フィリー! もうすぐだよ! 頑張ろう!!」

「おう!」
 突然現れたリザードマンの集団に囲まれた私たちだったが、以前のゴブリン戦を経験してきた私たちにとって、リザードマンは敵ではなかった。

 フィリーが素早く動き回り、トカゲの首を次々にはねていく。
 フィリーを狙うリザードマンを中心に、私の放つ火炎弾がトカゲを焼き尽くしていく。
 数えることもできなかった群れがどんどん減少していき、ついに両手で数える程度に減る。

「フィリー! 右側!」

「!」
 剣と鉤爪が重なり合う。
 一瞬の静寂の後、フィリーが瞬きのうちに消え、リザードマンの顔半分を削り飛ばした。

「フィリー強くなった!?」

「なめんじゃねーよ! 元から強ぇーんだよ!」
 そうですか。
 それにしても……。

 襲いかかるトカゲを炎魔法で燃やしながら、私はちらりと“石碑”の欠片が浮いている中央部分に目を向ける。
 ローブを着た存在が隣で、ただ私たちの動きを見つめている。

 たぶん、リザードマンを呼んだのはこの存在だ。赤い雷のような魔法でリザードマンを操って、私たちを襲わせた。

 なのに、このローブはそれ以来なにもしてこない。

 一体、何者なんだろう。顔も見えないからオスかメスかも分からない……ううん、それとも、もしかしたら人間? 魔族が魔族を襲うのは余り考えられないし……

 それに、あの“石碑”だ。
 なんかバラバラになっちゃってるけど、アレは確かに常見重工ビルの屋上に現れた石碑の一部だ。
 水晶玉みたいな宝石も付いているし、見間違えるわけがない。

 なんでアレがここにあるんだろう。
 私の意識と一緒にこちらの世界に飛んできたとか?
 だとしたら……まさか――

「ノエル! 避けろ!」

「はぁう!?」
 フィリーの叫びにわれに帰ると、ハンマーが私目掛けて振り下ろされている。

「――邪魔!!」
 ハンマーよりも早く、両手を振り上げた。リザードマンの足元が白く光り、爆炎が柱のように吹き上がる。
 ぼんっと音を立て、炎の中にいるリザードマンの頭がなくなった。
 駆けつけたフィリーの一撃だ。

「遅い!」

「うるせぇ! ぼーっとしてんじゃねーよ」
 たしかに、戦闘中余計なこと考えていた私が悪いけどさ!
 だって、気になるじゃん。

 まるで観察するみたいにあの黒いローブが――
 あ、あれ? 黒いローブが――

「フィリー! 後ろ!!」
 いつの間にか、黒いローブがフィリーの後ろに立っていた。
 右手をフィリーの頭に掲げていて、その手が白く輝いている。

 フィリーは行動していた。男から逃れようと身体を捻っていた。
 けれどそれよりも早く、男の手から赤いしじまが噴き出して――

 フィリーの大きな身体が崩れ落ちた。

「フィリー!!」
 私の呼びかけに、身動き一つしない。
 私は右手を輝かせた。ローブの存在を燃やそうと右手を掲げていた。
 その腕をローブの存在に握り閉められた。
 ローブから伸びる長く太い爪。毛むくじゃらの片手が見える。

 ああ、これは人間じゃない。明らかに、人間とは違った手だ。

 私が考えられたのはそこまでだった。
 ぱりっと小さな音が頭の中で響き、私の意識は暗闇に包まれた。


    *****

    *****




    *****

「僕は……僕は一体、なんてことを……」
 リビングで、お父さんがお酒を飲みながら呟いている。
 頭を抱えて、うなだれている。
 隣でお母さんがなだめながら、何かをしきりに説得している。

 私の家の、いつもの光景だ。
 私が中学に上がるくらいから、お父さんは変わってしまった。

 それまではちょっと気弱だけど、優しくて、私に勉強を教えてくれたり面倒見のよい人だった。
 けれど私が中学生になったころに仕事場でなにかがあったらしく、日を重ねるごとに家でお酒を飲む量が増えていき、目の下にクマを作りながら何かをぶつぶつ呟くことが多くなっていった。

 なにがあったの? といくらお父さんやお母さんに聞いても、なにも答えてくれない。

 しだいに、私は家の中で孤立していった。

 そして、日を重ねるごとに、私は悠人に依存していった。
 同じ高校に行くことが決まってからは、悠人は積極的に私に話しかけてくれて、私もそれが嬉しかった。
 高校に入ってからはすぐに昔のような友達関係に戻って、私の気持ちは一日ごとに膨れ上がっていった。
 私はひとりじゃない。そう思える居場所が、悠人と一緒にいる時間だった。

 会話のない夕食を終えて、私は「勉強するね」と二階にある自室に向かう。
 私の部屋は、私だけの空間。冷えきったお家の中で、唯一安らげる私の場所だ。

 飲み物を手に、明日悠人とどんな会話をしようと考えながら、見慣れた扉を開く。

「おかえり、つばさ」

「ふぇ!?」
 真っ黒の髪、優しげな目。見慣れた顔立ち。

 私のベッドに悠人が座っていた。

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