128 / 147
四章 ―― 夢と空の遺跡 ――
遺跡4 『リザードマン集団戦』
しおりを挟む
④
火柱がトカゲ達を黒焦げにしていく。
鉤爪がトカゲの首筋を切り裂いていく。
「フィリー! もうすぐだよ! 頑張ろう!!」
「おう!」
突然現れたリザードマンの集団に囲まれた私たちだったが、以前のゴブリン戦を経験してきた私たちにとって、リザードマンは敵ではなかった。
フィリーが素早く動き回り、トカゲの首を次々にはねていく。
フィリーを狙うリザードマンを中心に、私の放つ火炎弾がトカゲを焼き尽くしていく。
数えることもできなかった群れがどんどん減少していき、ついに両手で数える程度に減る。
「フィリー! 右側!」
「!」
剣と鉤爪が重なり合う。
一瞬の静寂の後、フィリーが瞬きのうちに消え、リザードマンの顔半分を削り飛ばした。
「フィリー強くなった!?」
「なめんじゃねーよ! 元から強ぇーんだよ!」
そうですか。
それにしても……。
襲いかかるトカゲを炎魔法で燃やしながら、私はちらりと“石碑”の欠片が浮いている中央部分に目を向ける。
ローブを着た存在が隣で、ただ私たちの動きを見つめている。
たぶん、リザードマンを呼んだのはこの存在だ。赤い雷のような魔法でリザードマンを操って、私たちを襲わせた。
なのに、このローブはそれ以来なにもしてこない。
一体、何者なんだろう。顔も見えないからオスかメスかも分からない……ううん、それとも、もしかしたら人間? 魔族が魔族を襲うのは余り考えられないし……
それに、あの“石碑”だ。
なんかバラバラになっちゃってるけど、アレは確かに常見重工ビルの屋上に現れた石碑の一部だ。
水晶玉みたいな宝石も付いているし、見間違えるわけがない。
なんでアレがここにあるんだろう。
私の意識と一緒にこちらの世界に飛んできたとか?
だとしたら……まさか――
「ノエル! 避けろ!」
「はぁう!?」
フィリーの叫びにわれに帰ると、ハンマーが私目掛けて振り下ろされている。
「――邪魔!!」
ハンマーよりも早く、両手を振り上げた。リザードマンの足元が白く光り、爆炎が柱のように吹き上がる。
ぼんっと音を立て、炎の中にいるリザードマンの頭がなくなった。
駆けつけたフィリーの一撃だ。
「遅い!」
「うるせぇ! ぼーっとしてんじゃねーよ」
たしかに、戦闘中余計なこと考えていた私が悪いけどさ!
だって、気になるじゃん。
まるで観察するみたいにあの黒いローブが――
あ、あれ? 黒いローブが――
「フィリー! 後ろ!!」
いつの間にか、黒いローブがフィリーの後ろに立っていた。
右手をフィリーの頭に掲げていて、その手が白く輝いている。
フィリーは行動していた。男から逃れようと身体を捻っていた。
けれどそれよりも早く、男の手から赤いしじまが噴き出して――
フィリーの大きな身体が崩れ落ちた。
「フィリー!!」
私の呼びかけに、身動き一つしない。
私は右手を輝かせた。ローブの存在を燃やそうと右手を掲げていた。
その腕をローブの存在に握り閉められた。
ローブから伸びる長く太い爪。毛むくじゃらの片手が見える。
ああ、これは人間じゃない。明らかに、人間とは違った手だ。
私が考えられたのはそこまでだった。
ぱりっと小さな音が頭の中で響き、私の意識は暗闇に包まれた。
*****
*****
*****
⑤
「僕は……僕は一体、なんてことを……」
リビングで、お父さんがお酒を飲みながら呟いている。
頭を抱えて、うなだれている。
隣でお母さんがなだめながら、何かをしきりに説得している。
私の家の、いつもの光景だ。
私が中学に上がるくらいから、お父さんは変わってしまった。
それまではちょっと気弱だけど、優しくて、私に勉強を教えてくれたり面倒見のよい人だった。
けれど私が中学生になったころに仕事場でなにかがあったらしく、日を重ねるごとに家でお酒を飲む量が増えていき、目の下にクマを作りながら何かをぶつぶつ呟くことが多くなっていった。
なにがあったの? といくらお父さんやお母さんに聞いても、なにも答えてくれない。
しだいに、私は家の中で孤立していった。
そして、日を重ねるごとに、私は悠人に依存していった。
同じ高校に行くことが決まってからは、悠人は積極的に私に話しかけてくれて、私もそれが嬉しかった。
高校に入ってからはすぐに昔のような友達関係に戻って、私の気持ちは一日ごとに膨れ上がっていった。
私はひとりじゃない。そう思える居場所が、悠人と一緒にいる時間だった。
会話のない夕食を終えて、私は「勉強するね」と二階にある自室に向かう。
私の部屋は、私だけの空間。冷えきったお家の中で、唯一安らげる私の場所だ。
飲み物を手に、明日悠人とどんな会話をしようと考えながら、見慣れた扉を開く。
「おかえり、つばさ」
「ふぇ!?」
真っ黒の髪、優しげな目。見慣れた顔立ち。
私のベッドに悠人が座っていた。
火柱がトカゲ達を黒焦げにしていく。
鉤爪がトカゲの首筋を切り裂いていく。
「フィリー! もうすぐだよ! 頑張ろう!!」
「おう!」
突然現れたリザードマンの集団に囲まれた私たちだったが、以前のゴブリン戦を経験してきた私たちにとって、リザードマンは敵ではなかった。
フィリーが素早く動き回り、トカゲの首を次々にはねていく。
フィリーを狙うリザードマンを中心に、私の放つ火炎弾がトカゲを焼き尽くしていく。
数えることもできなかった群れがどんどん減少していき、ついに両手で数える程度に減る。
「フィリー! 右側!」
「!」
剣と鉤爪が重なり合う。
一瞬の静寂の後、フィリーが瞬きのうちに消え、リザードマンの顔半分を削り飛ばした。
「フィリー強くなった!?」
「なめんじゃねーよ! 元から強ぇーんだよ!」
そうですか。
それにしても……。
襲いかかるトカゲを炎魔法で燃やしながら、私はちらりと“石碑”の欠片が浮いている中央部分に目を向ける。
ローブを着た存在が隣で、ただ私たちの動きを見つめている。
たぶん、リザードマンを呼んだのはこの存在だ。赤い雷のような魔法でリザードマンを操って、私たちを襲わせた。
なのに、このローブはそれ以来なにもしてこない。
一体、何者なんだろう。顔も見えないからオスかメスかも分からない……ううん、それとも、もしかしたら人間? 魔族が魔族を襲うのは余り考えられないし……
それに、あの“石碑”だ。
なんかバラバラになっちゃってるけど、アレは確かに常見重工ビルの屋上に現れた石碑の一部だ。
水晶玉みたいな宝石も付いているし、見間違えるわけがない。
なんでアレがここにあるんだろう。
私の意識と一緒にこちらの世界に飛んできたとか?
だとしたら……まさか――
「ノエル! 避けろ!」
「はぁう!?」
フィリーの叫びにわれに帰ると、ハンマーが私目掛けて振り下ろされている。
「――邪魔!!」
ハンマーよりも早く、両手を振り上げた。リザードマンの足元が白く光り、爆炎が柱のように吹き上がる。
ぼんっと音を立て、炎の中にいるリザードマンの頭がなくなった。
駆けつけたフィリーの一撃だ。
「遅い!」
「うるせぇ! ぼーっとしてんじゃねーよ」
たしかに、戦闘中余計なこと考えていた私が悪いけどさ!
だって、気になるじゃん。
まるで観察するみたいにあの黒いローブが――
あ、あれ? 黒いローブが――
「フィリー! 後ろ!!」
いつの間にか、黒いローブがフィリーの後ろに立っていた。
右手をフィリーの頭に掲げていて、その手が白く輝いている。
フィリーは行動していた。男から逃れようと身体を捻っていた。
けれどそれよりも早く、男の手から赤いしじまが噴き出して――
フィリーの大きな身体が崩れ落ちた。
「フィリー!!」
私の呼びかけに、身動き一つしない。
私は右手を輝かせた。ローブの存在を燃やそうと右手を掲げていた。
その腕をローブの存在に握り閉められた。
ローブから伸びる長く太い爪。毛むくじゃらの片手が見える。
ああ、これは人間じゃない。明らかに、人間とは違った手だ。
私が考えられたのはそこまでだった。
ぱりっと小さな音が頭の中で響き、私の意識は暗闇に包まれた。
*****
*****
*****
⑤
「僕は……僕は一体、なんてことを……」
リビングで、お父さんがお酒を飲みながら呟いている。
頭を抱えて、うなだれている。
隣でお母さんがなだめながら、何かをしきりに説得している。
私の家の、いつもの光景だ。
私が中学に上がるくらいから、お父さんは変わってしまった。
それまではちょっと気弱だけど、優しくて、私に勉強を教えてくれたり面倒見のよい人だった。
けれど私が中学生になったころに仕事場でなにかがあったらしく、日を重ねるごとに家でお酒を飲む量が増えていき、目の下にクマを作りながら何かをぶつぶつ呟くことが多くなっていった。
なにがあったの? といくらお父さんやお母さんに聞いても、なにも答えてくれない。
しだいに、私は家の中で孤立していった。
そして、日を重ねるごとに、私は悠人に依存していった。
同じ高校に行くことが決まってからは、悠人は積極的に私に話しかけてくれて、私もそれが嬉しかった。
高校に入ってからはすぐに昔のような友達関係に戻って、私の気持ちは一日ごとに膨れ上がっていった。
私はひとりじゃない。そう思える居場所が、悠人と一緒にいる時間だった。
会話のない夕食を終えて、私は「勉強するね」と二階にある自室に向かう。
私の部屋は、私だけの空間。冷えきったお家の中で、唯一安らげる私の場所だ。
飲み物を手に、明日悠人とどんな会話をしようと考えながら、見慣れた扉を開く。
「おかえり、つばさ」
「ふぇ!?」
真っ黒の髪、優しげな目。見慣れた顔立ち。
私のベッドに悠人が座っていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる