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三章 ――白色の王子と透明な少女――
⑦<少女5> 『悪の魔族退治』
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⑩【ソフィア】
丁度良く荷馬車のおばちゃんと遭遇し、お家まで戻ってきた私は、マシューの声がけも無視し自分の部屋へと飛び込んだ。
ベッドでゴロゴロしていたメフィスが飛び起きる。
『もー、ソフィア、一体どこに――ぐぇえ!?』
「メフィス! あなたの力が借りたい!」
メフィスに飛びかかるようにベッドに転がった私はメフィスを掴んで抱きしめる。
『く、苦しい、苦しい! 言われなくてもナルヴィを倒すため僕は力を貸――』
「違う! そうじゃない!」
『はぃい!?』
「私は……私は倒さなきゃいけないの!」
『いやだから――』
「そう、私は戦わなくちゃいけないの! ……王子様と!」
『そう、ナルヴィ――ぉ王子様!?』
「そして私は絶対に倒す! 王子様を!」
『どうしてそうなった!?』
目を白黒させているメフィスに昨日の夜あった出来事を話す。
そう、昨日私は王子様と戦って手も足も出ずに敗北してしまった。
練習とはいえ、勝負事。それも仕方ない。私の力不足だったってだけだ。
大事なのはそうじゃない、それじゃない。
大事なのは、その時、王子様と一つの約束をしたことだ。
それは――
『一度でも王子様を倒せたら、なんでも一つ願いを叶えてくれるって?』
「そう! 私は確かにそう約束した!」
それこそが、たった一つの可能性だ。
あの時は倒せなかったけれど、あの約束に期限なんてなかった。それにもし昨夜だけの約束ならもう一度話して約束を取り付ければいい。
『でも勝てなかったんだよね、ソフィアは』
「あまーい! 全然、すっごいあまあまよメフィス!」
分かっていない。
私の考えをこの魔族は全く理解できていない。
ぐへへへへ……
……絶対に、王子様に勝てる方法があるじゃないの。
それは――
『顔が気持ち悪い。勝てないんなら諦め――はぁあ!? ま、まさか!?』
「その、まさかよ、メフィス」
やっと気がついたか鈍いヤツめ。
『僕の夢魔法を使うつもりか!』
「それなら勝てる!」
『自信満々に言うな!!』
そう、よく考えたら私には『夢魔法』なんてステキな力があったんだった。
それを使えば流石にあの強い王子様だって、うっかり負けてしまうことだってあるかもしれない。
『夢魔法を私物化すんなぁ! だいたい、ナルヴィを倒しに行くって約束はどうなったのさ!』
「行くよ! でも、ナルヴィを倒したらメフィス魔界に帰ってしまうんでしょ!? だったら先に済ませようよ」
『君の優先順位はどうなってるの!?』
世界を滅ぼすナルヴィは当然倒さなきゃいけない。それは私の義務だと思っている。
けれど、ナルヴィとの戦いはどうなるのか分からない。相手は眷属だし、私、うっかり負けちゃうかもしれない。そしたら、そしたら――
「世界が滅んだら、約束どころじゃなくなるじゃない!」
『それを防ぐ戦いでしょ!?』
当然防ぐけどそうじゃないんだ。
私が言いたいのはそうじゃないんだ。
最後の戦いの前に済ませられることを済ませておきたい。
ただ、それだけのこと!
『だいたい、約束って言っても何を約束するのさ?』
「『好きだからずっと一緒にいてください』。そう約束する!」
『……はぁ~、ホント人の意識って面倒くさいね。好きなんだったら約束せずとも一緒にいるものでしょ』
人の意識が何か分からないけど、魔族はそうでも人間はそうじゃないんだ。
「向こうはそう思ってないよ! だから約束するの!」
『約束したところで、向こうが好きじゃなければ一緒にいても意味がないでしょ。両方好きだから一緒にいたいと思うし、一緒にいられることが嬉しいんだ。そんな約束意味がないよ』
「ええぃ! うるさい! だって放っといたらいなくなっちゃうんだよ。今は一緒にいられる時間を増やすのが一番良いでしょ。一緒にいられるなら、もしかしたら私のこと好きになるかもしれないじゃない!」
『ああもう、分かったよ。……君がそうしたいなら僕の夢魔法を使ってもいい。けど、ナルヴィを倒しに行くのが先。王子様はその後だ』
「私の未来と世界、どっちが大切だと思ってるの!?」
『世界に決まってるでしょ!?』
くそう、やっぱり先にナルヴィを倒しに行かなきゃいけないのね。
だったら……とっとと悪の魔族を倒して、王子様も倒す。
私のやるべきことはそれだ!
「行きましょう! メフィス。ナルヴィを倒して、私の……げほん、みんなの未来をこの手で掴むのよ!」
『やる気になったのは嬉しいけど、なんか素直に喜べないなぁ……』
ぶつくさ言ってるメフィスを無視し、宝玉《オーブ》を首に提げ、着替えを済ませて準備を整える。
丈が短めのズボンに袖が広めの上着を合わせる。
動きやすい格好になったし、剣も持った。メフィスも自分の肩掛けバックに入れた。
これでばっちりだ。
メフィスが言うには、ナルヴィは『森のノカ』の聖堂にいるらしい。
目的地は『森のノカ』聖堂だ。
待っていろ、悪の魔族ナルヴィめ! とっととあなたを倒して、私は自分のやりたいことをやる!
丁度良く荷馬車のおばちゃんと遭遇し、お家まで戻ってきた私は、マシューの声がけも無視し自分の部屋へと飛び込んだ。
ベッドでゴロゴロしていたメフィスが飛び起きる。
『もー、ソフィア、一体どこに――ぐぇえ!?』
「メフィス! あなたの力が借りたい!」
メフィスに飛びかかるようにベッドに転がった私はメフィスを掴んで抱きしめる。
『く、苦しい、苦しい! 言われなくてもナルヴィを倒すため僕は力を貸――』
「違う! そうじゃない!」
『はぃい!?』
「私は……私は倒さなきゃいけないの!」
『いやだから――』
「そう、私は戦わなくちゃいけないの! ……王子様と!」
『そう、ナルヴィ――ぉ王子様!?』
「そして私は絶対に倒す! 王子様を!」
『どうしてそうなった!?』
目を白黒させているメフィスに昨日の夜あった出来事を話す。
そう、昨日私は王子様と戦って手も足も出ずに敗北してしまった。
練習とはいえ、勝負事。それも仕方ない。私の力不足だったってだけだ。
大事なのはそうじゃない、それじゃない。
大事なのは、その時、王子様と一つの約束をしたことだ。
それは――
『一度でも王子様を倒せたら、なんでも一つ願いを叶えてくれるって?』
「そう! 私は確かにそう約束した!」
それこそが、たった一つの可能性だ。
あの時は倒せなかったけれど、あの約束に期限なんてなかった。それにもし昨夜だけの約束ならもう一度話して約束を取り付ければいい。
『でも勝てなかったんだよね、ソフィアは』
「あまーい! 全然、すっごいあまあまよメフィス!」
分かっていない。
私の考えをこの魔族は全く理解できていない。
ぐへへへへ……
……絶対に、王子様に勝てる方法があるじゃないの。
それは――
『顔が気持ち悪い。勝てないんなら諦め――はぁあ!? ま、まさか!?』
「その、まさかよ、メフィス」
やっと気がついたか鈍いヤツめ。
『僕の夢魔法を使うつもりか!』
「それなら勝てる!」
『自信満々に言うな!!』
そう、よく考えたら私には『夢魔法』なんてステキな力があったんだった。
それを使えば流石にあの強い王子様だって、うっかり負けてしまうことだってあるかもしれない。
『夢魔法を私物化すんなぁ! だいたい、ナルヴィを倒しに行くって約束はどうなったのさ!』
「行くよ! でも、ナルヴィを倒したらメフィス魔界に帰ってしまうんでしょ!? だったら先に済ませようよ」
『君の優先順位はどうなってるの!?』
世界を滅ぼすナルヴィは当然倒さなきゃいけない。それは私の義務だと思っている。
けれど、ナルヴィとの戦いはどうなるのか分からない。相手は眷属だし、私、うっかり負けちゃうかもしれない。そしたら、そしたら――
「世界が滅んだら、約束どころじゃなくなるじゃない!」
『それを防ぐ戦いでしょ!?』
当然防ぐけどそうじゃないんだ。
私が言いたいのはそうじゃないんだ。
最後の戦いの前に済ませられることを済ませておきたい。
ただ、それだけのこと!
『だいたい、約束って言っても何を約束するのさ?』
「『好きだからずっと一緒にいてください』。そう約束する!」
『……はぁ~、ホント人の意識って面倒くさいね。好きなんだったら約束せずとも一緒にいるものでしょ』
人の意識が何か分からないけど、魔族はそうでも人間はそうじゃないんだ。
「向こうはそう思ってないよ! だから約束するの!」
『約束したところで、向こうが好きじゃなければ一緒にいても意味がないでしょ。両方好きだから一緒にいたいと思うし、一緒にいられることが嬉しいんだ。そんな約束意味がないよ』
「ええぃ! うるさい! だって放っといたらいなくなっちゃうんだよ。今は一緒にいられる時間を増やすのが一番良いでしょ。一緒にいられるなら、もしかしたら私のこと好きになるかもしれないじゃない!」
『ああもう、分かったよ。……君がそうしたいなら僕の夢魔法を使ってもいい。けど、ナルヴィを倒しに行くのが先。王子様はその後だ』
「私の未来と世界、どっちが大切だと思ってるの!?」
『世界に決まってるでしょ!?』
くそう、やっぱり先にナルヴィを倒しに行かなきゃいけないのね。
だったら……とっとと悪の魔族を倒して、王子様も倒す。
私のやるべきことはそれだ!
「行きましょう! メフィス。ナルヴィを倒して、私の……げほん、みんなの未来をこの手で掴むのよ!」
『やる気になったのは嬉しいけど、なんか素直に喜べないなぁ……』
ぶつくさ言ってるメフィスを無視し、宝玉《オーブ》を首に提げ、着替えを済ませて準備を整える。
丈が短めのズボンに袖が広めの上着を合わせる。
動きやすい格好になったし、剣も持った。メフィスも自分の肩掛けバックに入れた。
これでばっちりだ。
メフィスが言うには、ナルヴィは『森のノカ』の聖堂にいるらしい。
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