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三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ⑩<王子5> 『不意打ち』

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⑯【ロキ】
「『教会』には知らせていない、『夜のノカ』へ繋がる道か。本当に胡散臭い組織だな」
 『灰色の樹幹』が根城にしているアジトから更に深く掘られた穴を通り抜け、俺とシルワは『夜のノカ』に辿り着いていた。
 煌めく街灯が照らす道を教会聖堂目指し歩みを進める。

「『森のノカ』で何かがあったときの逃げ道。……って名目で、私が作ってもらったの」

「名目?」

「いつでも夜の町に行けるってステキじゃない? ここなら、お互い周りを気にせずに大きな声を出せるわよぉ」

「そ、そうか……」

「私しか知らない道よ。……二人だけの秘密ができたわね」

「何人目の“二人だけの秘密”だか」
 大体、灰色の樹幹に作らせたのなら、知っているヤツは他にもいるだろう。オーレンは当然知っているだろうし。
 つれない俺に、不満を持ったのか露骨に頬を膨らませるシルワ。

「……私の事、誤解しているみたいだけど……誰にたいしてもこんなこと言うわけじゃないわよぉ」

「十六歳のガキに言う言葉でもないな」

「あら、私だってまだ二十三歳よ。このくらいの年の差なら珍しくないでしょ」
 二十三歳だと? ……言っちゃ悪いが三十代でもおかしくない言動だぞ。

「……でも、不思議な人ね、あなたは。私がこれだけ誘っても、表情一つ変えない」

「今はそんな気分じゃないだけだ。……そして、俺も同じ言葉を言いたい。王族だと分かっていて、これほど積極的に攻める女は珍しい」

「……私はね、変な力があるの」

「変な力?」
 シルワの唐突なセリフに、つい歩みが止まる。

「そう、変な力よ。……私は、他人の年齢が見えるの。ぱっと見ただけで。何も話さなくても」

「そいつは……」
 それが本当なら、凄いな。二十代に見える三十代なんて沢山居る。逆も然りだ。

「魔法とかじゃないわよぉ。私はれっきとした人間。でも、小さな頃から他人が今、何歳なのかピッタリ当てられる」

「じゃあ……問題だ。俺は今、何歳だ?」
 さっき十六歳と言ったばかりだがな。攻められてばかりも癪だし、意地悪でも――

「三十二歳」

「なっ――!?」

「そ、どう見ても私の目には三十二歳に見えるの。だから、あなたは不思議。すごく、気になってるし……もっとアナタの事を、知りたい」
 シルワの大きな瞳が俺の目を見つめる。

 ……ただの偶然か? コイツ、俺の本当の年齢を当ててきやがった。
 俺の身体は十六歳だが、二度目の十六歳を終えている。実年齢は三十二歳だ。

「……背伸びしたい年頃だからな。ありがたい話だ」

「嘘でしょ。アナタ、人生に失望しているわ。背伸びなんてするわけない」

「……初対面だというのに、随分な言われようだな」

「初対面だから分かる事もあるわ。……初対面だからこそ、愉しめることもね」
 シルワの柔らかな唇が、俺の唇に触れた。目の前に彼女は存在し、近づいてきたことは分かっていた。
 それなのに、俺は避けられなかった。
 それだけ、俺の動きはシルワに止められていた。

「……こんな風にね。……行きましょう」
 シルワは自分の腕を俺の腕に絡めて、歩き出す。
 夜の町を二人の男女が歩みを進める。

 ……俺としたことが、不意を突かれてしまった。
 コイツは、やっぱり、厄介なタイプだな。











































⑰【****】














「……最悪」














⑱【ロキ】
「!!」
 不意に背筋に悪寒が走った。
 振り返るが、夜のノカは静寂を保っている。
 先ほど見た光景と、何一つ変わっていない。
 淡い光の街灯が、歩いてきた道を照らしている。

「……どうしたのぉ?」
 隣に居たシルワが首を傾げる。
 俺の腕からシルワの高い温もりを感じ、ざわついた心が収まっていくのを感じ取る。

「……いいや、大丈夫だ。行こう」
 俺は首を振り、聖堂の方角へと身体を戻す。
 歩みを進める。

「……ちょっと、疲れたかも。丁度良さそうな宿があるわよぉ」

「ふざけるな。先を急ぐぞ」
 シルワの軽口を聞き流し、考える。
 今のは一体なんだったんだ。

 ……この世界に来てから、似た感覚を何度か味わったことがある。
 その中でも、特段、強い感覚だった。
 もし、俺の感じた感覚が、それと同じ物だとするならば……



 俺は今、強烈な、殺気を浴びたことになる。








⑲【ロキ】
「これは……これは、一体、どういうことだ!?」
 『夜のノカ』聖堂地下、転移盤《アスティルミ》の前で、俺は叫び声を上げる。
 想像を遙かに超えた出来事を見つめ、俺はただただ、震える。

 それは隣に立つシルワも同様だった。
 目の前の物体を青ざめた顔色で見上げ、驚愕の表情を浮かべている。

 それは、転移盤《アスティルミ》に飾られるように存在した。
 転移盤《アスティルミ》と同化し、一つのオブジェのように存在した。

「……何故、……一体何故こんなところに……」
 この場に居る誰も答えられない。それが分かっていても、俺は続けざるを得なかった。

「一体何故、こんなところに、死体が・・・吊されているんだ・・・・・・・・!?」

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