上 下
38 / 147
二章    ――生まれの片一羽――

ノエル1 『二度目の十六歳』

しおりを挟む

「あら、ノエルちゃん。お母さんのお手伝い?」
 馴染みの野菜売りであるシーカー族のおばちゃんに声をかけられる。

「ええ。今日は私たちの誕生日なんで、お母さん張り切っちゃって」
 既に私の両手には大荷物が沢山握られている。晩ご飯の材料だ。
 枯れ草で編んだ帽子が私の長い髪と共に風で揺れる。飛ばないようにするのが大変だ。

 今日の私は白のワンピースにサンダルと、サキュバスにあるまじき格好だ。
 全部お母さんの手作り。なんかお母さんは子供の頃黒い服ばっかり着せられたらしくて、私には白い服ばっかり着せてくる。もうちょっと色のコーディネートを……とも思うけれど私は服を作れないので文句も言えない。
 それによく考えたら一部魔族は裸で歩き回ってる世界なので気にするだけ無駄、という結論に達した。

「あらあら、大変ねぇ、ノエルちゃんいくつになるの?」

「今年で十六歳です」
 二回目だけどね! 元いた世界と合わせると……アラサー……いや、私はまだ十六だ! 誰がなんと言おうと十六歳だ!

「早いわねぇ……もうそんなになるのね。いいわ、まだ持てるでしょ? おばちゃんの奢り!」

「いいんですか!? ありがとうございます!」
 おばちゃんが果物をいくつか見繕って渡してくる。貰える物はありがたく受け取ります。

「ノエルちゃんも綺麗になったし、悪ガキだったフィリーも立派になって。……おばちゃん嬉しいわ」

「あははは……色々とご迷惑おかけしました」
 主にフィリーが。あいつ今でこそ落ち着いたけど、市場の人たちに悪戯をしょっちゅうしてた。その度にお母さんだとか私だとかが謝りに行って大変だった。

「こりゃあ、二人の子供も楽しみねぇ」

「ふぇ!? げふっげふっ」

「だ、大丈夫?」
 おばちゃんがしみじみと変なこと言うので喉に唾を詰まらせたじゃないか。
 あれか、とっとと良い相手見つけろよという老婆心か。

「まだ早いですよー。そんな相手もいないですし」

「なに言ってんの! フィリーが悲しむよ」
 フィリーが悲しむ……? ああ、私に結婚相手ができたらってことね。

「そうかなぁ……『ははっ! せーせーしたぜ!』って言いそう」

「駄目よ、そんなに自分を悪く言っちゃ! ノエルちゃん綺麗なんだから自信持ちなさい」

「え、私?」
 おかしい、さっきからおばちゃんと会話がかみ合ってない……気がする。
 こんなときは、さくっと切り上げよう。
 適当に相槌を打ち、お礼を言っておばちゃんの店を後にする。さあ、後はお母さんと料理開始だ。

      ****

「……ってことがあってさーおばちゃんも気が早いよね」
 ポロロ芋の皮を向きながらお母さんに話しかける。ここ最近はお父さんの現場は人手が足りているとのことで、主に家の中のお手伝いをすることが多い。

「あら、そんなことはないわよ。十六歳になったらもう子供産めるんだから」
 お母さんは私がこの世界に来て、初めて見た時のままの姿。相変わらず大人の色気がむんむんだ。勝てる気がしない!
 魔族は一部の種族以外みんな寿命が長くて、成体になれば何百年も同じ姿のまま生きるらしい。

「ちょっとお母さんまで。やだよ、まだ相手も見つけてないんだ……か、ら?」
 その私の言葉に、息を呑むお母さん。え……なに? なんか怒ってる?

「ノエル、ちょっと座りなさい」

「えーえっと。お鍋、吹き出るよ」

「いいから、こっちに座りなさい」
 怖い。いつかの灰色の猿事件の時よりよっぽど負のオーラが出てる。こんな時は逆らわない方がいい。私はスゴスゴとお母さんの前にある椅子に座る。

「……何か私たちに不満でもあるの?」
 えーと、質問の意図が読めません。

「ないよ。私ここの家族で良かったと思ってるよ」

「じゃあ、どうして? 何かフィリーに酷いことされた?」

「フィリー? え、なんで?」
 酷いことって言われても……昔、鞄にアースウォーム詰められたり、コケトリスけしかけられたりだとか? でも今はめっきりそういう悪戯してこないし。

「お父さんには、黙ってるから。……話して」

「いや、そんな深刻な感じ出されても困るというか思いつかないというか」

「……じゃあ相手がいないって言ったのはどうして?」

「ふぇ? ……? だって、いないのに理由なんて……」

「フィリーじゃ不満?」

「フィリー!?」
 はっ? いや、……は? なにこれ? どういうこと?

「昔こそ色々悪さしてたけど……あんなのお父さんに比べたら可愛いものよ」

「え……いや、フィリー? え、なに言ってるのお母さん」

「不安になるのも分かるけど……オスなんて叱りつければすぐ大人しくなるんだから」

「それはお父さん見てれば分か……じゃなくて! 兄妹だよね。私たち」

「そうよ。どっちも私が苦労して産んだんだから」
 駄目だ。私の理解をぶっ飛んでる。話が進まない。

「あなた、フィリーのことどう思ってるの?」

「どうって……喧嘩もするけど仲の良い兄というか弟というか」

「愛してる?」

「へ!? そ、そ、それは家族愛?」
 なんかお母さんが眉間に手を当てて考え込んでる。
 今の話をまとめると……どうやら私はフィリーと結婚する流れ? いやいやいや!

「……そうだったわね。あなた、昔から本が好きで、普通の魔族より飛び抜けて頭良かったわ」
 まあ、それは二度目の人生ということで、色々事情があるからしょうがない。

「色んな知識を先に植え付けちゃったものだから、魔族の本能、言われなくても分かってる部分が分かってなかったのね」
 それは多分アレかも。私が元々、別世界の住人だから。

「……あの、もしかして魔族って兄妹で結婚するのが当たり前?」

「結婚? 人間のアレ? そんなの魔族しないわよ。交尾をして、つがいになる。そして、未来のつがいを生む。それが私たちよ」

「つがいって……じゃあお母さんとお父さんも?」

「あなたたちと同じように一緒に生まれて……今はずっと一緒に暮らしてる」

「そ、そうなんだ……ははは」
 確かに私は、そういう道徳的な部分というか保険体育で得るような知識が得られなかった。この世界に学校なんてなかったから。
 今のお母さんの発言で大体は言いたいことが分かった。
 別種同士で夫婦になり、子供を作る。子供は必ず二人一組で生まれる。
 私の家庭を見るに生まれてきた子供は必ず男女でそれぞれの親の種を受け継ぐ。魔族という生き物は、遺伝子が交わらないようにできているんだろう。
 その生まれてきた双子は成長した後に夫婦になることが定められていると。

 なにこのダイナミックな許嫁制度。

「もし片方が死んじゃったりしたら……?」
 この際だから気になったことは聞いとこう。自分の親とこういう話をする機会はそんなにない。

「交尾前なら『片一羽《カタワレ》』ね。他の異性の片一羽《カタワレ》と心の中が繋がるわ。どんなに遠くにいても、お互いがどのあたりにいるのかなんとなく分かるようになる」
 素敵、なにその運命の赤い糸システム。それだけで恋愛小説一本書けそう。

「でもね、そんな不吉なこともう言わないで。生まれのツガイが一番幸せになるんだから」

「あー……そうだよね。ごめんなさい」
 ですよね。お母さんにとっては、もしフィリーが死んだらって話になるわけだし。

「もし、……えーもしもだよ。お互いに嫌になったとしたら?」

「交尾前?」

「……です」
 あんまり年頃の娘の前で交尾交尾連発しないで。……年頃の娘? ここにおるわ!

「『人の意識ヒトノイ』ね。人の意識、でヒトノイ。魔族のしがらみを自分から抜け出したわけだから、人間のように自分で相手を探すしかない。でも魔族はツガイが決まってるから……人間と生活する魔族もいるみたい」
 なるほど。許嫁がどうしても嫌なら自由恋愛もできるんだ。

「でも、それで幸せになった魔族なんて見たことない。人間は移り気が多いから……
それに例え魔族同士でも生まれのツガイ以上の存在なんていない」
 少なくともお母さんはそう信じてる。だから、私のことを心配したわけだ。魔族にとって、生まれた時のツガイが夫婦になるのが当たり前だから……あれ? ちょっとまって?

「じゃ、じゃあもしかしてフィリーは分かってる?」
 お母さん……実の娘に向かってそんな可愛そうな子を見る目を向けないで。

「……すぐにフィリーと会って話してきなさい。気が付かなかった私達も悪いけど……ずっとあなたフィリーに失礼なことしてたんだから」

      ****

「はあ……気が重い」
 私はトボトボと、フィリーが働く職場へと向かっていた。できることならこのまま隠れて一週間ほど考え込みたい。フィリーと私のお弁当を持ってるから無理だけど。お母さんが鬼の形相で渡してきた。

 なんだかんだで仲が良い兄妹だ。と思っていたら実は許嫁でしたー。とかどんな冗談ですか。私は全く気が付いてなかったよ。気が付いてなかったんだから失礼なことしていた自覚もない。だから会って何を話せと。そもそもこんな話を聞かされてどんな顔でフィリーと会えばいいのかと。

そして私がフィリーに会いたくない理由はもう一つある。私が十六年間暮らした、もう一つの故郷が頭をよぎっているからだ。
 日本に戻りたいだとか、そんなことは諦めてる。
 そうじゃない。
 私には物心ついた頃から好きだった人がいた。あの日、私がこの異世界に飛ばされた日、こんな私に告白してくれた男の子、幼馴染みの白石悠人だ。

 思い返せば、今のフィリーは悠人と同じような存在なのかもしれない。幼い頃よりずっと一緒にいて、隣にいるのが当たり前の存在。違うのは私自身が兄妹だと思っていたかどうか。

 でもフィリーは悠人じゃない。
 私はこんなんでも、こちらの世界に飛ばされてから悠人のことは忘れたことがない。
 十六年経った今でも悠人の存在を思うと胸が締め付けられる。
 でももう悠人は死んだ。もう会えない。
 あの白い光の中、私は確信した。
 フィリーが悠人の生まれ変わりなら良かったのにと何度も思った。

 失礼な話だ。
 でもそうじゃないことは、こちらの世界でフィリーと十六年間いっしょに暮らしてきた私が一番良く分かってる。

 もしかしたらこの世界のどこかで悠人も生まれ変わっているかもしれない。
 でもそれをどう探す?
 ただの小娘の私が世界中の男の人に聞いて回るなんて不可能だ。
 私が生まれ変わったから、悠人も生まれ変わってるかもしれない、なんてのはただの私の願望だ。そのためにこの新しい人生を犠牲にするなんて、死んだ悠人自信が許さないだろう。

 結局ウダウダ考えてるけども、単純なところ、私はまだ……今はまだ悠人のことが忘れられてない。だからフィリーのことも恋人として想うことができない。そんな結論に至ってしまう。
 でも魔族として生まれ変わったからには、両親のためにも、フィリーと自分のためにも、ツガイの慣習に従って収まるところに収まったほうがいい。
 別にフィリーのことも嫌いなわけじゃない。兄としてみても、弟としてみても好きか嫌いかで言えば好きだ。一生一緒に暮らせと言われれば、案外苦労もなく暮らせそう。
 でも、それでいいんだろうか。恋人としての愛情がなくても……

「ああぁあ! どうしよう! まとまんない!」

「なーに一人ででかい声出してんだ」
 赤が目の前に降り立った。

「ぎゃあああ! でたーーー!!!」
 父親譲りの大きな赤い羽根。余分な脂肪がついていない、かたく締まった身体。
 私のツガイであるグリフォン種のフィリーが、私の大声に驚きの表情を浮かべていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...