上 下
187 / 241
帝都のひと夏

だっていたたまれなくて

しおりを挟む
「アル、今日は新任騎士この子たちのハレの日だから。多少羽目を外しても目をつぶるのがマナーなんだよ!」
冷気は出しちゃだめだ。おかしいだろう?夏にグラスが凍るなんて!
良く聞こえないけど、母さまがまた父さまに注意している。父さまってほんと、母さまの子供みたい。
なんだか無性におかしくてへらへら笑っていると、父さまが溜め息を吐いた。
「兄上からディーが泣いてると聞いて急いで来てみれば・・・オスカー。」
「は、父上」
「これはどういうことだ?」
「申し訳ありません。私の責任です。」
あれ~?オスカー兄上が父さまの前で頭を下げてる。
「父上、これは・・・」
「フィン、お前はさっきディーを困らせたばかりだ、黙って反省しろ。」
「くっ」
あれれ?フィン兄さまが口答えせず俯いた。
なんだか考えが纏まらなくて、ぼーっとその様子を眺めていると。
父さまがこっちを見た。
一歩踏み出そうとして、そのまま固まっている。
「?」
私が首を傾げると、父さまは後ろにいた母さまに何か囁いた。
留める様に父さまの腕を押さえていた母さまは、一転呆れた顔をすると、すぐに私に近寄り、かがんで顔を寄せてきた。
「うーん、お酒臭い。ディー、なにを飲んだ?」
「これ~。おいひいからくーってのんりゃった。」
隣にいた騎士さまが持ってるグラスを指さすと、母さまはさっと手に取って匂いをかぐ。
「あー、これ。甘いけどきついやつ。女の子引っ掛ける様に準備してたんだな。ほんと、新任騎士君達は昔も今も変わらないな。」
溜め息を吐いた母さまは、私の頬をするん、となでると、困ったように聞いてきた。
「ディー、父さまが、君に近付いても良いか聞いてくれと言っている。」
「?」
「さっき控室で、お茶会の間は近付くな、と言っただろう。もし嫌なら、魔力が触れるのだけ許して欲しいそうだ。」
あれ~?そんなこと言ったっけ?頭がふわふわしてよく分からない。
「らいじょーぶれす。」
こくこく頷くと同時に、私の中にすーっと異質な魔力が入り込んできた。体の中を巡っていくにつれ、熱っぽさやふわふわした気分が落ち着いていく。
そして。
「あれ?私・・・」
魔力が抜けたと思ったら、頭も体もすっきりしていた。ふと周りを見ると、目の前の母さまを始め、騎士さまも家族もみんな、私をじーっと見つめている。
「酒精は抜けたね・・・脈も安定した。どう?気分は?」
母さまが首に指先を当てながら聞いてくる。え?酒精?お酒飲んじゃったの、私?
「大丈夫、です・・・やだ、私・・・」
何しちゃったの私。可愛いって言われて嬉しくて、調子に乗ってるから!変なことしてないと思うけど、、、してないよね?
なんだかいたたまれなくて、私は勢いよく立ち上がってしまった。
「?ディー?」
母さまが驚いたように見上げてきたけれど。
「ちょっと、ええと・・・失礼します!」
みんなの目から逃げたい!
そう思ったら、自然に結界を張っていたみたい。
「あれ?どこ行ったの、ディー!?」
「消えた?」
「父上?ディーをどこへ?」
騒ぐ人たちの声から、私は見えないんだ、と分かって。
取り敢えずほっとしたけど、落ち着くために一人になりたくて。
私は人や物を避けながら、その場から一目散に逃げだしたの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

ヴァルプルギスの夜が明けたら~ひと目惚れの騎士と一夜を共にしたらガチの執着愛がついてきました~

天城
恋愛
まだ未熟な魔女であるシャナは、『ヴァルプルギスの夜』に一人の騎士と関係を持った。未婚で子を成さねばならない魔女は、年に一度のこの祭で気に入った男の子種を貰う。 処女だったシャナは、王都から来た美貌の騎士アズレトに一目惚れし『抱かれるならこの男がいい』と幻惑の術で彼と一夜を共にした。 しかし夜明けと共にさよならしたはずの騎士様になぜか追いかけられています? 魔女って忌み嫌われてて穢れの象徴でしたよね。 なんで追いかけてくるんですか!? ガチ執着愛の美形の圧に耐えきれない、小心者の人見知り魔女の恋愛奮闘記。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

処理中です...