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帝都のひと夏
自意識過剰だったようです
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色鮮やかな人々の中でフィン兄さまの黒い魔導師のローブは目立つのか、目の前の人込みがサッとかき分けられていく。
ここに参列が許されているのは今日新たに任命された騎士の家族と一部の貴族、それに騎士団幹部だけだから、魔導師のローブは確かに異色だよね。
難なく広間を抜け出た私たちは、それなりに人の多い回廊でも呼び止められることなく、目指した庭園にたどり着いた。
灌木を使って見通し良く作られた庭園は派手なものは無いけれど風通しが良くて明るい。
本来なら行政府とも皇宮とも離れた式典会場の途中にある庭園なんてほとんど人も来ないだろうけれど、流石に今日はそこかしこに人がいて、花を愛でたり会話を楽しんだりしていた。
「思ったより人が多いな・・・せっかくディーと二人きりになれると思ったのに。」
頭の上で呟きが聞こえたと思ったらチッと舌打ちがしたように聞こえ、私は周囲を見回すのを止めて顔を上げた。
「フィン兄さま、こういうお庭はお嫌い?」
「そんなことないよ!明るくて気持ちいいね!」
一瞬眉間にしわが見えた気がするけど気のせいかな?
にっこり笑顔のフィン兄さまは、さっとローブを開いて私を出してから、でもね、と続けた。
「日差しを遮るものが少ないから、長居するとディーが疲れてしまわないか兄さまは心配だな。」
「そんなわけないじゃない。私、バーベンベルクでは午前中は大概騎士団の訓練場にいるのよ?」
ふふっと笑って言うと、兄さまはクーッと変な声を上げた。
「うちの妹可愛い!でも騎士団・・・思っても無かった強敵が・・・でもディーは僕と魔導師に・・・」
ブツブツつぶやいて、拳を握ってる。あー、、、自分の考えに入り込み始めちゃった。
うん、たまに兄さまこういう感じになるよね、、、仕方ないなあ、時間もあんまりないし。
「ね、奥の方行ってみよう?迷子になると困るから、手、繋いでも良い?」
私は兄さまの拳を無理やり開くと手を繋ぎ、さっさと奥に向かって歩き出した。
おかしい。
私は歩調を緩めて周りをゆっくりと見回す。
うん。
それなりに人はいる。式典の性格柄家族連れが多いし、任命された騎士の中には地方の郷士や市民階級の人もいるから、そんなに社交をしている雰囲気では無いけれど。
でも、格好から明らかに貴族って人たちも結構いるし、若いご令嬢だっているのに。
そして、ここには。
こんなに綺麗な兄さまがいるというのに。
こんなに頑張って着飾った私だっているのに!
何で・・・
「気付かれないんだろう?」
「え?何か言った?ディー」
声が漏れたらしい。フィン兄さまがひょいッと私の顔を覗き込んだ。
うう、今日はもっと注目されたり、声を掛けられたりすると思ってたわ。自意識過剰なのかな。
でも、、、。
「兄さま、気付いてる?さっきから私たち、誰の目にも止まってないのよ?」
思い切って小声で打ち明けると、フィン兄さまは、ああ、とこともなげに答えた。
「そういう魔術展開してるから。存在は認識するけど、人目を引いたり興味を持ったりはしないっていうね。」
「ええ?」
「だって、茶会でどうせもみくちゃにされるのに、今から不躾にじろじろ見られたり、話しかけられるの嫌じゃない?ちなみに僕は出かけるとき大体かけてるよ?」
「そうなんだ、、、」
聞いてびっくり。魔術ってそんな使い方も出来るのね。
「それじゃあ、兄さまも私も、その辺の木みたいなものかしら?」
「掛けられたことないから、分からないなあ。あ、ディーにもやり方を教えようか?」
「いいの?ありがとう!」
「簡単だよ。イメージとしては・・・」
フィン兄さまは魔術の学生だけあって、教え方がとても上手。大きな声を上げると周りの人に認識されてしまうと言うので、私たちは身を寄せてこそこそ話した。
「兄さまに教えてもらうと、魔術式もとても分かりやすいわ。騎士団のみんなと体を動かすのも楽しいけど、魔術の話も楽しいね。」
兄さまが戻ってきたら、魔術を教えてもらうの楽しみ!
そう言うと、兄さまは灰色の瞳をきらきらさせてつないだ手にグッと力を入れた。
「やった!やっぱりディーは魔導師になるよね?僕と一生バーベンベルクで仲良く暮らそうね?」
父さまそっくりの綺麗なお顔に満面の笑みを湛えて言われても、、、。
「えー?」
「えー?って・・・嫌なの、ディー!?」
「うーん、ちょっと・・・たくさん考えてもいい?」
「そんな!」
お城に来る芸人のような掛け合いをしながら歩いていたら。
いつの間にか奥まで歩いてきたみたい。
流石にこの辺りまでくると人気が無くなった。そろそろ戻った方が良いかもしれないけど、歩き疲れたし、兄さまは急に元気がなくなるし。
木立の向こうに屋根が見えるから、小さな東屋がありそう。ちょっと休憩しようかな?
「兄さま。あそこで少し休憩を・・・」
「しっ。」
見上げた私の口に、そっと指をあて。
兄さまが視線を向けた木立の先には。
数人の人影があった。
ここに参列が許されているのは今日新たに任命された騎士の家族と一部の貴族、それに騎士団幹部だけだから、魔導師のローブは確かに異色だよね。
難なく広間を抜け出た私たちは、それなりに人の多い回廊でも呼び止められることなく、目指した庭園にたどり着いた。
灌木を使って見通し良く作られた庭園は派手なものは無いけれど風通しが良くて明るい。
本来なら行政府とも皇宮とも離れた式典会場の途中にある庭園なんてほとんど人も来ないだろうけれど、流石に今日はそこかしこに人がいて、花を愛でたり会話を楽しんだりしていた。
「思ったより人が多いな・・・せっかくディーと二人きりになれると思ったのに。」
頭の上で呟きが聞こえたと思ったらチッと舌打ちがしたように聞こえ、私は周囲を見回すのを止めて顔を上げた。
「フィン兄さま、こういうお庭はお嫌い?」
「そんなことないよ!明るくて気持ちいいね!」
一瞬眉間にしわが見えた気がするけど気のせいかな?
にっこり笑顔のフィン兄さまは、さっとローブを開いて私を出してから、でもね、と続けた。
「日差しを遮るものが少ないから、長居するとディーが疲れてしまわないか兄さまは心配だな。」
「そんなわけないじゃない。私、バーベンベルクでは午前中は大概騎士団の訓練場にいるのよ?」
ふふっと笑って言うと、兄さまはクーッと変な声を上げた。
「うちの妹可愛い!でも騎士団・・・思っても無かった強敵が・・・でもディーは僕と魔導師に・・・」
ブツブツつぶやいて、拳を握ってる。あー、、、自分の考えに入り込み始めちゃった。
うん、たまに兄さまこういう感じになるよね、、、仕方ないなあ、時間もあんまりないし。
「ね、奥の方行ってみよう?迷子になると困るから、手、繋いでも良い?」
私は兄さまの拳を無理やり開くと手を繋ぎ、さっさと奥に向かって歩き出した。
おかしい。
私は歩調を緩めて周りをゆっくりと見回す。
うん。
それなりに人はいる。式典の性格柄家族連れが多いし、任命された騎士の中には地方の郷士や市民階級の人もいるから、そんなに社交をしている雰囲気では無いけれど。
でも、格好から明らかに貴族って人たちも結構いるし、若いご令嬢だっているのに。
そして、ここには。
こんなに綺麗な兄さまがいるというのに。
こんなに頑張って着飾った私だっているのに!
何で・・・
「気付かれないんだろう?」
「え?何か言った?ディー」
声が漏れたらしい。フィン兄さまがひょいッと私の顔を覗き込んだ。
うう、今日はもっと注目されたり、声を掛けられたりすると思ってたわ。自意識過剰なのかな。
でも、、、。
「兄さま、気付いてる?さっきから私たち、誰の目にも止まってないのよ?」
思い切って小声で打ち明けると、フィン兄さまは、ああ、とこともなげに答えた。
「そういう魔術展開してるから。存在は認識するけど、人目を引いたり興味を持ったりはしないっていうね。」
「ええ?」
「だって、茶会でどうせもみくちゃにされるのに、今から不躾にじろじろ見られたり、話しかけられるの嫌じゃない?ちなみに僕は出かけるとき大体かけてるよ?」
「そうなんだ、、、」
聞いてびっくり。魔術ってそんな使い方も出来るのね。
「それじゃあ、兄さまも私も、その辺の木みたいなものかしら?」
「掛けられたことないから、分からないなあ。あ、ディーにもやり方を教えようか?」
「いいの?ありがとう!」
「簡単だよ。イメージとしては・・・」
フィン兄さまは魔術の学生だけあって、教え方がとても上手。大きな声を上げると周りの人に認識されてしまうと言うので、私たちは身を寄せてこそこそ話した。
「兄さまに教えてもらうと、魔術式もとても分かりやすいわ。騎士団のみんなと体を動かすのも楽しいけど、魔術の話も楽しいね。」
兄さまが戻ってきたら、魔術を教えてもらうの楽しみ!
そう言うと、兄さまは灰色の瞳をきらきらさせてつないだ手にグッと力を入れた。
「やった!やっぱりディーは魔導師になるよね?僕と一生バーベンベルクで仲良く暮らそうね?」
父さまそっくりの綺麗なお顔に満面の笑みを湛えて言われても、、、。
「えー?」
「えー?って・・・嫌なの、ディー!?」
「うーん、ちょっと・・・たくさん考えてもいい?」
「そんな!」
お城に来る芸人のような掛け合いをしながら歩いていたら。
いつの間にか奥まで歩いてきたみたい。
流石にこの辺りまでくると人気が無くなった。そろそろ戻った方が良いかもしれないけど、歩き疲れたし、兄さまは急に元気がなくなるし。
木立の向こうに屋根が見えるから、小さな東屋がありそう。ちょっと休憩しようかな?
「兄さま。あそこで少し休憩を・・・」
「しっ。」
見上げた私の口に、そっと指をあて。
兄さまが視線を向けた木立の先には。
数人の人影があった。
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