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帝都のひと夏
コンラート公爵邸にてⅤ(ルーファス視点)
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憧れの宰相閣下に会うことが出来た。
帝国の宰相となったのが二十歳の時。以来三十年、危なげないかじ取りで帝国の繁栄を支えている方だ。
気軽に伯父と呼んでと話しかけて下さった。
嬉しい。
喜びをかみしめていると、前を歩いていた従兄が振り返った。
「ここが僕の部屋。まあ、大して面白くも無いけど、どうぞ。」
促されて中に入る。
明るくて広々とした部屋には、日差しを避けて壁一面に本棚があり、その他は執務机にソファと実用的だ。
奥の扉の向こうが本当の私室なんだろう。
「今、お茶でも出すから座って?ライムンド君・・・ああ、マクシミリアン殿下なんだっけ。人払いしたから殿下もどうぞ。」
従兄はソファを示すとにこやかに言った。
廊下を歩きながらこそっと告げただけなのに、驚きもせず侍従を遠ざけてくれた。流石だ。
年の離れた従兄、オリヴィエ殿。彼も家庭教師から話は聞いていたけれど、会うのは初めてだ。
非常に優秀な人で、この若さで、宰相の補佐官としての実績も確かなのだとか。
次代の宰相候補として嘱望されていると聞いてるから、会えて素直にうれしい。
しかも。
伯父上に言われる前から思っていた。
少し似ている気がする。
瞳の色こそ水色と蒼色と違うけれど、白金の髪や華やかな顔立ち、、、俺はこの家系なんだと血が告げる。
兄上達とは違うけれど、会ってすぐなのにとても親近感が湧くな。
そう思っていると。
「ふふっ。僕の顔に何かついてる?」
あっという間に茶器を出してお茶を入れながら、オリヴィエ殿が話しかけてきた。
どうやらジッと見つめていたようだ。
無作法に恥ずかしくなってさっと俯くと、隣のマクシミリアン殿下がニヤッと笑って肘で突いてきた。
こいつは侍従の真似事をしなくていいと分かった途端、偉そうな態度を隠しもしなくなり、ソファにどっかり座ってる。
「なんだよ。ルーファスはやけに気真面目で俺に厳しいと思ったら男が好きなのか?」
「止めろ!下品な事を言うな!」
何処へ行っても相変わらずな隣国の王子に腹が立って睨みつける。
「お前、反省しろって言ってるだろ。ほんと、どうなっても知らないからな?」
ちらっと腕輪を見て言うと、、、マクシミリアン殿下より早く、オリヴィエ殿の声がした。
「そうそう、殿下のその腕輪、僕、さっきから気になってたんだよね~。」
言い方は柔らかいのに、腕輪を見る眼差しは鋭い。
「単なる魔力封じの腕輪じゃ無いよね?フィン君や叔父さんの魔力のにおいがプンプンするよ。見たことが無い面白そうな術式もたくさん仕込んである。」
これ、何だか聞いても良い?
その代わり社交界の事は任せてくれていいから。
にこにこ。
邪気など全く感じさせない笑顔でオリヴィエ殿はああ仰るけど。
マクシミリアン殿下の私事に関わるし、どうしよう。
口籠った俺を気にせず、殿下はあっさりとばらしてしまった。
「これ、俺を拘束する腕輪なんですよ。外そうとすると魔力を奪い、ディアナちゃんに近付くと動けなくなり、監視する、だっけ?」
酷いですよね~。肩をすくめる殿下を、オリヴィエ殿はにこにこ見つめた。
「なるほど。殿下の話しを聞きながら見ると、確かにそう読み取れる。その辺はフィン君の技だね。彼、まだ学生なのにすごいな・・・。でも」
首をかしげる。
「ねえ、それ、もっと珍しくって稀少な機能が付いてない?」
ああ、見ただけで分かる人には分かるんだな。さっきのお茶と言い、この人、文官だけど優秀な魔導師でもあるんだな。
年長の従兄の優秀さに驚きと尊敬の念を強くする俺と違い。
ここでマクシミリアン殿下はスッと目を細めた。
「ええ。付いてるらしいですよ、とっておきの機能が。それ、話しても良いですけど。」
オリヴィエ殿を改めて、上から下まで不躾に眺めて。
殿下はニヤリと笑った。
「本当に社交界の事は何でも便宜を図ってくれるんでしょうね?オリヴィエ・ハロルド・ヴァルゲンハイム殿。俺の要求は結構高いですよ?」
ここで王子面してくるのか!?
気色ばんだ俺をゆっくりと手で制し。
「お手柔らかに頼みます。でも、大抵の文官や大臣は知人だから、今回殿下の果たされるべき役割に必要な渡りはつけられると思いますけど?」
穏やかに。
なんでもない事のように。
オリヴィエ殿は請け合った。
流石だ!俺の従兄殿、カッコよすぎる!
爆上がりした評価に、内心喝采を叫んだ俺とは違い、マクシミリアン殿下は不満そうに、違う、と言った。
「そんなの、交渉する必要ないだろう?君達だってユラン王国がロンヌと組むより、オストマルク帝国と組んだ方が良いに決まってるんだから。そんな事は聞いちゃいない。」
?
俺は首をかしげる。他に必要な事なんて、今回あるか?
一方オリヴィエ殿は、穏やかな表情のまま、殿下の先を促した。
「俺の国の社交界でオリヴィエ・ハロルド・ヴァルゲンハイムと言えば、続く言葉は一つだ。帝国の筆頭公爵家の跡取りでも、次期宰相候補でもない・・・帝都社交界の夜の帝王。」
なあ、本命はディアナちゃんだけど、せっかくだから後腐れなく楽しみたい。渡りをつけてくれよな?
マクシミリアン殿下の発言に凍り付いた俺と違い、、、。
「ふーん・・・そんな事ですか?」
何事かと思って損しちゃいました。どうぞどうぞ、いくらでも。
オリヴィエ殿の平然とした顔に。
俺は上りに上がった従兄殿の評価が、ガラガラと崩れ落ちるのを感じた。
帝国の宰相となったのが二十歳の時。以来三十年、危なげないかじ取りで帝国の繁栄を支えている方だ。
気軽に伯父と呼んでと話しかけて下さった。
嬉しい。
喜びをかみしめていると、前を歩いていた従兄が振り返った。
「ここが僕の部屋。まあ、大して面白くも無いけど、どうぞ。」
促されて中に入る。
明るくて広々とした部屋には、日差しを避けて壁一面に本棚があり、その他は執務机にソファと実用的だ。
奥の扉の向こうが本当の私室なんだろう。
「今、お茶でも出すから座って?ライムンド君・・・ああ、マクシミリアン殿下なんだっけ。人払いしたから殿下もどうぞ。」
従兄はソファを示すとにこやかに言った。
廊下を歩きながらこそっと告げただけなのに、驚きもせず侍従を遠ざけてくれた。流石だ。
年の離れた従兄、オリヴィエ殿。彼も家庭教師から話は聞いていたけれど、会うのは初めてだ。
非常に優秀な人で、この若さで、宰相の補佐官としての実績も確かなのだとか。
次代の宰相候補として嘱望されていると聞いてるから、会えて素直にうれしい。
しかも。
伯父上に言われる前から思っていた。
少し似ている気がする。
瞳の色こそ水色と蒼色と違うけれど、白金の髪や華やかな顔立ち、、、俺はこの家系なんだと血が告げる。
兄上達とは違うけれど、会ってすぐなのにとても親近感が湧くな。
そう思っていると。
「ふふっ。僕の顔に何かついてる?」
あっという間に茶器を出してお茶を入れながら、オリヴィエ殿が話しかけてきた。
どうやらジッと見つめていたようだ。
無作法に恥ずかしくなってさっと俯くと、隣のマクシミリアン殿下がニヤッと笑って肘で突いてきた。
こいつは侍従の真似事をしなくていいと分かった途端、偉そうな態度を隠しもしなくなり、ソファにどっかり座ってる。
「なんだよ。ルーファスはやけに気真面目で俺に厳しいと思ったら男が好きなのか?」
「止めろ!下品な事を言うな!」
何処へ行っても相変わらずな隣国の王子に腹が立って睨みつける。
「お前、反省しろって言ってるだろ。ほんと、どうなっても知らないからな?」
ちらっと腕輪を見て言うと、、、マクシミリアン殿下より早く、オリヴィエ殿の声がした。
「そうそう、殿下のその腕輪、僕、さっきから気になってたんだよね~。」
言い方は柔らかいのに、腕輪を見る眼差しは鋭い。
「単なる魔力封じの腕輪じゃ無いよね?フィン君や叔父さんの魔力のにおいがプンプンするよ。見たことが無い面白そうな術式もたくさん仕込んである。」
これ、何だか聞いても良い?
その代わり社交界の事は任せてくれていいから。
にこにこ。
邪気など全く感じさせない笑顔でオリヴィエ殿はああ仰るけど。
マクシミリアン殿下の私事に関わるし、どうしよう。
口籠った俺を気にせず、殿下はあっさりとばらしてしまった。
「これ、俺を拘束する腕輪なんですよ。外そうとすると魔力を奪い、ディアナちゃんに近付くと動けなくなり、監視する、だっけ?」
酷いですよね~。肩をすくめる殿下を、オリヴィエ殿はにこにこ見つめた。
「なるほど。殿下の話しを聞きながら見ると、確かにそう読み取れる。その辺はフィン君の技だね。彼、まだ学生なのにすごいな・・・。でも」
首をかしげる。
「ねえ、それ、もっと珍しくって稀少な機能が付いてない?」
ああ、見ただけで分かる人には分かるんだな。さっきのお茶と言い、この人、文官だけど優秀な魔導師でもあるんだな。
年長の従兄の優秀さに驚きと尊敬の念を強くする俺と違い。
ここでマクシミリアン殿下はスッと目を細めた。
「ええ。付いてるらしいですよ、とっておきの機能が。それ、話しても良いですけど。」
オリヴィエ殿を改めて、上から下まで不躾に眺めて。
殿下はニヤリと笑った。
「本当に社交界の事は何でも便宜を図ってくれるんでしょうね?オリヴィエ・ハロルド・ヴァルゲンハイム殿。俺の要求は結構高いですよ?」
ここで王子面してくるのか!?
気色ばんだ俺をゆっくりと手で制し。
「お手柔らかに頼みます。でも、大抵の文官や大臣は知人だから、今回殿下の果たされるべき役割に必要な渡りはつけられると思いますけど?」
穏やかに。
なんでもない事のように。
オリヴィエ殿は請け合った。
流石だ!俺の従兄殿、カッコよすぎる!
爆上がりした評価に、内心喝采を叫んだ俺とは違い、マクシミリアン殿下は不満そうに、違う、と言った。
「そんなの、交渉する必要ないだろう?君達だってユラン王国がロンヌと組むより、オストマルク帝国と組んだ方が良いに決まってるんだから。そんな事は聞いちゃいない。」
?
俺は首をかしげる。他に必要な事なんて、今回あるか?
一方オリヴィエ殿は、穏やかな表情のまま、殿下の先を促した。
「俺の国の社交界でオリヴィエ・ハロルド・ヴァルゲンハイムと言えば、続く言葉は一つだ。帝国の筆頭公爵家の跡取りでも、次期宰相候補でもない・・・帝都社交界の夜の帝王。」
なあ、本命はディアナちゃんだけど、せっかくだから後腐れなく楽しみたい。渡りをつけてくれよな?
マクシミリアン殿下の発言に凍り付いた俺と違い、、、。
「ふーん・・・そんな事ですか?」
何事かと思って損しちゃいました。どうぞどうぞ、いくらでも。
オリヴィエ殿の平然とした顔に。
俺は上りに上がった従兄殿の評価が、ガラガラと崩れ落ちるのを感じた。
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