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帝都のひと夏

男子部屋にてⅡ(ルー視点)

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事の発覚は一昨日の夜更けの事。

宿場町は幾らでもあるのに、付き合いのある領主館以外は頑なに野営をしたがる母上の方針で、みんな疲労が蓄積している。
過酷な一日を終え見張り以外が眠りについた深更、、、不意に隣の母上の天幕がざわついた。ハッと飛び起きるのと、見張りの兵士が呼びかけてくるのが同時だった。
「どうした?」帯剣しながら低く問いかけると、
「大きな鳥が閣下の天幕に入って・・・それはよくあることなのですが、今回はすぐに中がざわつきまして。ただ、今はこの通り静かに・・・あ、中で明かりがつきました。人が出て来ます。」
「分かった。すぐ行く。」
大きな鳥と聞いた時点で父上しかありえない。俺は溜め息を付いて天幕を出た、が、、、。
「兄様!?」
何と、俺の天幕に近付いてきたのは帝都の大学寮に居るはずのフィン兄様だった。
「シッ」
兄様は口元に指先を当てながら隣まで来ると、俺に耳打ちした。
「疲れてるところ悪いな。親父がブチ切れてしまったのでやむを得ず母上のところに連れてきた。」
「は?」
「は?だよな~。分かるよ、ルー君。あれだけ約束したのにやっぱり来たのか、とか、あと三日待てないのか、とか、保護者付きで来るか、とか思ってるだろ。僕も、自分は何でこの場に居るのかと思ってる。けど・・・まあ、あの親父としてはよく耐えたと思ってくれ。」
ポンポン。
父上に辛い兄様に肩を叩かれれば頷くしかない。
「分かりました。急な来客あり、異常なし、と主な天幕には伝達します。それでみんな察するでしょう。」
「悪いな、任せた。」
母上の天幕に戻る兄様を見送り、見張りの兵士を振り返る。
「と、言うわけだ。お前、伝令頼めるか?」
聞けば、委細承知、とばかりに頷く。 バーベンベルクうちの連中は父上の所業に慣れていて、こういうところは有難い。
「ディアナの天幕だけは俺が行くから、後は頼んだ。」
「承知しました。」
「俺もすぐ帰るが、居なくても予定通り交代して寝ろよ。明日もいつも通りきついからな。」
言い置いて歩き出す。ディアナ、に化けているのはマクシミリアン殿下だから、俺が行くしかないだろう。
一言伝えてさっさと寝よう。
そう思って天幕に近付いたのに、、、。


ディアナの天幕は母上のもう一つ奥にある。女の子の天幕だからと言う理由で幅をとって二重に幕を張り、明かりも物音も漏れないよう気を遣っている。
多分殿下も良くお休みだろう。見張りは気づいてるだろうが。
そう思って入り口に向かうと。
見張りはなぜか、外ではなく、中ばかり気にしていた。
「どうした?」
近づいてそっと声を掛けると、ビクッとする。
こいつ、外への警戒が全くなってないな!
警護対象がマクシミリアン殿下だから良いが、本物のディアナだったらこの時点で失格だぞ。
ムッとしながら小言を言おうとした時。
「・・・ッ」
微かな声が中から聞こえた気がして、思わず耳を澄ませた。
「?」
もう聞こえない。空耳か?
思わず見張りを見ると、こいつは、、、驚いてない?
「今、何か聞こえなかったか?」
尋ねると、ハッと姿勢を正してから、
「自分も先ほどから気にしていました!」
と、小声で答えてきた。その上で、
「実は、最近毎日お声が聞こえるような気がいたしまして・・・」と言う。
「??」
よくよく聞いてみると。
どうやら毎晩寝静まった頃に微かに声が漏れるのだと言う。
長い時間では無いし、小さい女の子だから、夜一人で寂しくて泣いてるのかと思って、初めて気づいた日の翌日、声をかけてみたのだそうだ。
すると、ディアナはちょっと慌ててから、泣いてるなんて恥ずかしいから、誰にも言わないでね、と頼み込んできたらしい。
「それで俺や閣下にも報告が無いのか。」
冷たく言うと、夜目にも顔を青ざめさせる。
今頃不味いと気付いたって遅いんだ。
あのマクシミリアン殿下が泣く玉か。もしかすると、俺たちに隠れて何処かと連絡を取ってるのかも知れない。
俺は一言「どけ」と言うと、そっと外側の天幕の入り口から忍び込んだ。
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