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皇宮での邂逅

エピソードⅣ オリヴィエ兄さまは葛藤中 Ⅹ(中)

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「義兄上、先ほどは有難うございました。オリヴィエ君にも世話になってしまったね。」
固まった叔父に気づかないのか、エレオノーレ様は腕に眠った赤ん坊を抱いたまま叔父の隣に腰掛けると、対面の父と僕に微笑みかけた。

「実はあの時、アルに、シンシアがもし話しかけてきたら一旦離れるから、その時は義兄上に合流するまではオリヴィエ君を頼れと言われてね。義兄上は、まあ、申し訳ないけどいつもお世話になっているから驚かなかったけど、オリヴィエ君の名前が出たのには、びっくりしてしまったよ。」

え?
叔父はそんな事を言ってたのか?
僕が驚いていると、父も「へえ、アルフがねえ・・・」と呟いた。

エレオノーレ様はそんな僕たちの反応をどう捉えたのか、にこにこと続ける。
「アルはとっても人見知りなんだけど、オリヴィエ君のことは昔からすごく気に入ってるんだ。ほら、何年か前、一時期オリヴィエ君がアルに弟子入りしてくれたことがあったろう?あの頃なんか、よく君の話をしてね。目の付け所が良いとか、魔術のセンスがあるとか。うちのオスカーやフィンより一緒にいる時間は長かったし、甥っ子とは言え、正直ちょっと焼いてしまったくらいだ。」
でも、会って分かった。アルの言う通りとっても素敵な子だね。な、アル、、、?

言いかけて、初めて隣の叔父の様子がおかしいのに気づいたらしい。
「あれ、固まってる。アル?どうしたんだ?」
叔父の顔を覗き込み、まじまじ見つめるエレオノーレ様。

「エレオノーレ、それ以上は、やめて下さい・・・」
叔父は両手で顔を覆って俯いてしまった。
どうやら最愛の奥さんの発言にもダメージを受けてるようだけど。

「・・・僕が、お気に入り?」
いやいや、僕も衝撃を受けている。
現役騎士団長、流石だ。一瞬で二人の男を機能不全にしてしまうなんて。


それにしても。
今まで父の依頼で仕方なく師をしていたと思っていたのに、実は気に入られてたんだ、、、。
僕がじわじわとくる思いをかみしめている間に。

いち早く通常運転に戻っていた父が、エレオノーレ様に今までの話をざっと説明していた。
敏腕宰相、交渉力半端ないな。
感心して見ていると、エレオノーレ様が笑みを消して一つ頷いた。

「婚約者候補・・・確かにこの子の相手は国益を理解するもので無ければいけませんね。宰相閣下のご懸念は理解できます。」
ああ、今のエレオノーレ様は、国政に関わる辺境伯なんだ。
美人でスタイル抜群で気さくで家族を大事にして有能で、、、本当、なんで叔父なんかと一緒になったんだろう。顔か?やっぱり顔なのか?
そんな事をぼんやり考えていると、不図、エレオノーレ様と目が合った。
女性と目が合った時の習性でにっこり微笑むと、エレオノーレ様は目を丸くしてから、フッと笑顔になって言った。
「でも、オリヴィエ君が婚約者候補っていうのは、私も反対ですね。多分アルと同じ理由で。」

「エレオノーレ!」
固まってた叔父が小さく叫んだけど。
エレオノーレ様はフフッと笑ってから言葉を続けた。

「だめ。アル、きちんと言わないとオリヴィエ君を拒否したことになるだろう?違うんだよ、オリヴィエ君。君からはとてもバランスの取れた健全な精神を感じる。この世界が好きで、肯定して楽しく生きている、違う?」
やわらかい眼差しで見つめられる。
「・・・ええ。」
僕はためらいなくうなずく。
そうだ。僕はこの世界が楽しくて仕方ない。今後、家を継ぎ、役職を継ぎ、綺麗ごとでは済まない世界に身を置いたとしても、それは変わらないだろう。

「いいね、素敵なことだと思うよ。」
エレオノーレ様はうんうん、と頷き、、、そこで一転、まじめな表情になった。
「でもそう言う人間は、いざこの世界の生活を捨てる、となったら躊躇うだろう?たとえその決断が、自分と世界を秤にかけるほど、自分を必要としてくれる存在のためでも。」
まあ、普通の大多数の人間はそういうものなんだけど。
苦笑するエレオノーレ様の話を聞きつつ、僕も考える。

そりゃあ、そうだ。
いくら相思相愛でも、自分の世界を捨てるとなると、、、僕には責任を持つものも未練も多すぎる。

でもね。
エレオノーレ様は淡々と続ける。いつの間にか、赤ん坊は片腕で抱き、空けた手で、隣で身じろぎもしない叔父の手を撫でていた。
「この子が、あ、ディアナって言うんだけどね、もしこの子がアルの家系通りの性質を受け継いだら・・・この子は自分を世界に繫ぎとめる『最愛』に、そういう重い選択をせまる可能性があるんだよ。」

「家系の性質?」
叔父はコンラート公爵家の出。つまり僕の一族なんだけど。
僕の疑問を感じたらしい父が、肩を叩いてきた。

「そうか、君にはまだ知らせてなかったね。アルフの出自はちょっと複雑で。この子の魔力は、彼の母親からのものなんだ。それで、詳細は省くが、彼は僅かな身体的特徴を除いて、コンラートの血はほとんど入ってないんだ。ああ、もちろん彼は正式な嫡出子だよ。むしろ、この子の母親は、君の祖父が唯一愛した女性と言っていい。」

何だか良く分からないけれど。
僕は情報をまとめる。
叔父の魔力は叔父の母方の血脈で。あの赤ん坊もそれを受け継いでいて。性質もそのまま受け継いでる場合、伴侶に「自分か世界か」、と言い出す可能性があり、世界が秤にかけられている以上、その選択肢は実質一択と言う事か。

何という過激な、、、眩暈がするよ。
思わず頭を抱えた僕を見て、エレオノーレ様はほら見ろ、と笑った。
「状況を理解して、理性で受け止めることは、普通の人間には無理だ。特に、君のようにこの世界が好きな子にはね。ちなみに。私は家族を連れて良ければこの世界の地位も名誉もすべて捨てて良いと思ってる。」
「え?」
「当たり前だろう。アルの頼みなんだから。もちろん、ちょっとしたことで騒がれても断るがね・・・本当に必要な時は、うん、約束通り君を選ぶよ、アル。」
「エレオ、ノーレ、、、」
途中から見つめあっていた叔父夫妻。エレオノーレ様はためらいなく叔父の額に口づけた。

ああ、そう言えばさっき父が言っていたな。そう言う夫婦なんだって。

妙に納得した僕たちの方を向いたエレオノーレ様は、少し赤い顔をして、、、断言した。
「この心境に、君が至るのは難しいと思う。婚約者候補はお断りだ。せっかく地位も名誉も財産も能力も素敵な容姿もあるんだ。義兄上の後継として宰相となりこの世を楽しんで、ついでに帝国の繁栄に力を注いだらいい。」

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