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皇宮での邂逅

皇太子宮の執務室にて

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午後の講義を終えて、夕方執務室に戻る。
机の上に重ねられた仕事の量にうんざりしてソファに寝転がっていると、ノックの音がした。
「殿下、遅くなりました。」
一礼するジキスムントは普段着姿だった講義のあと着替えたようだ。相変わらず生真面目な奴だ。
俺は部屋に控えていた侍従に軽食とお茶の支度をさせると、そのまま人払いをした。

「腹減らないか?食べながら話そう。」
そう言いながら、俺はもうサンドウィッチをつまんでいる。最近成長期なのか、お茶の時間にある程度腹に入れないと、晩餐まで保たない。
「・・・では失礼します。」
ソファの反対側に座ったジキスムントも食べ始める。暫くは二人で黙々と食べ続けた。
皿に乗ってるものがあらかた消えると、少しぬるくなった紅茶を一気に飲み干す。
「・・・ふう。人心地ついた。腹が減ってると頭が回らないからな。」
満足して呟くと、向かいのジキスムントが頷いた。
「ほんとですね。今日は特によく眠れたので、体調が良い分食欲が戻って・・・。」

そうなのだ。
昨夜はあれほど毎晩見ていた悪夢を二人とも見なかった。
これだけでも、魔導師団長とサシで対面した甲斐があったというものだ。死にそうだったけどな。
「ライにも言われましたが・・・心の迷いを消せば、本当に見なくなるものなんですね。昨日殿下と話す機会を頂けて迷いが晴れた心地でした。本当にありがとうございます。」
ジキスムントはしみじみとした口調で礼を言ってくるが、、、いや、それ、地味に俺の心を抉ったし、そもそも魔導師団長が介入するのを止めただけだから。
俺は溜め息を隠し、「ああ、これからも何かあれば相談しろよ。」と頷いた。


昨日、噴水の庭でライが消えた瞬間、まずい、と思う間もなく、俺はいつもの悪夢の世界に居た。
いや、いつものどころじゃないな、毎夜の悪夢がすべて一度に襲い掛かってくる、まさに絶体絶命の世界だ。
裏切られ、逃げても追いかけられ、立ち向かおうにも力量の差がありすぎて切り刻まれて、世界が暗転し、、、また別の修羅場が始まる。
ただ、いつもとは自分の気持ちが違う。魔導師団長の介入だと分かれば、漠然とした不安や恐怖は無くなる。
俺は逃げ、走り、戦い、何度も殺されかけながら、必死で何処かに居るであろう魔導師団長に向かって叫んだ。
「やっぱり毎夜の悪夢は貴方のせいだったのか!魔導師団長殿!」
答えはなくとも、この状況、それ以外ありえない。
「令嬢への態度は謝罪する!これからは弱い自分、他人のせいにする自分は受け入れない!出来る努力は何でもする!・・・だから、こんな夢はっ無意味だ!!」
今の夢は戦場で、一人、敵に取り囲まれ、一斉に矢が飛んでくる状況。いつもなら思わず目をつぶって恐怖に絶叫するところだが、、、俺は目を開いたまま足を踏ん張って、手に持った剣を一閃した。
「他人に介入された夢だと分かって、やられるか!!」
叫んだ瞬間。
パッと情景が変わり、俺は元の噴水の庭に居た。
目の前にはいつもの無表情の魔導師団長。
「やっぱり・・・魔導師団長、殿・・・」
恐る恐る声をかけると。
「・・・夢は今日で終わりだ。」
冷たい声がした。
「私のことは言わずに、あの赤毛にも言っておけ。ライに言われたことをきちんとすれば、もう夢は見ないとな。」
「赤毛?やっぱりジキスムントも見ているのか!」
「条件を満たしたから終えてやるが、お前たちが気に入らない事は変わらない・・・特にお前。名前を呼ばせるなんて、いい気になるな。」
黄金の瞳が、冷たく俺を見据えていた。
「条件?それに名前って、でも・・・」
さっきのことか?戸惑う俺に。
「煩い。分かったな。あ、エルのやつ、また・・・話は終わりだ。皇太子。」
「あ、待ってくれ、魔導師団長殿!」
一方的に話を終わらせられそうになり、俺は慌てて叫んだ。
「夢の件、終わるんだな?感謝する!ジキスムントにも伝える!それで!ライに!朝、夜明けの時間にここで剣を見て欲しいとっ・・・んぐっ」
一瞬、自分の周りの空気が消えたかのように感じ、俺は喉を押さえる。

気づくと俺は地面に倒れていて、老執事のマルティンに抱き起されていたんだ。
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