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皇宮での邂逅

虚空に向かって話し掛ける前に、

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ジキスムントの席は少し離れているので、にこやかに笑みを振りまき、時に挨拶を受けながらゆっくり歩く。合間にマルティンと最後の情報交換だ。
「後は・・・あの悪夢は、魔導師団長でいいんだな?」
「それが団長殿から殿下への罰であり、元を辿れば宰相様辺りの愛の鞭かと。」
「毎度えげつなく心を抉ってくるあれが愛?冗談はやめてくれ。」
「恐らく殿下だけでなく・・・」
ジキスムントあいつもなんだろう?後で話す。」
ここでまた常連の貴族子女の挨拶を受け、ことさら機嫌よく応える。
俺の緊張は気付かれてはいないようだ。

ふと見ると、俺を囲む令嬢越しに白金の頭が通り過ぎるのが見えた。

ヘイリー?どこ行くんだ?
あいつは大抵の場合、広いスペースにさっさと陣取って、取り巻きの令嬢達の真ん中で機嫌よくチヤホヤされてるんだけどな。

見ていると真っ直ぐジキスムントに向かっていく。
今や令嬢で人だかりになっているのを上手く入ってジキスムントに辿り着き、少しのやり取りの後、あっという間に、ほとんどの令嬢を引き連れて行ってしまった。
ジキスムントの周りがスッキリしている。

ヘイリー、あいつ、凄いな。なんて早技だ。付いて行く令嬢も令嬢だが、、、。
恐らく、名門侯爵家の跡取りで、滅多に社交の場に姿を見せないジキスムントに群がってはみたものの、会話が上手く続かないのに飽きてきたところだったんだろう。
ヘイリーは令嬢の喜ぶツボを心得てるからな。
それにしても、、、。
「まずいな」
「?何か仰いまして?殿下。」
思わず心の声が溢れたらしい。
ここぞとばかりにあざとく小首を傾げる目の前の令嬢。
俺は何気ない風を装って話を逸らすと、今度は少し急いでジキスムントに近付いた。
あの侍従見習いの感じなら、ヘイリーに付いて行くよりジキスムントの近くに留まると思うが、、、手っ取り早くドレスや装飾品の流行が見られる令嬢の集団に、興味が無いわけではないだろう。
何にせよ早く行くに越したことはない。

それにしても。
令嬢ってのは、つくづく見る目が無いものだ。
俺なら上手いこと言ってチヤホヤされたいだけのヘイリーより、ジキスムントと親しくなるよう努力する方が良いと思うけどな。
、、、侍従見習いがディアナ嬢だとして、もしジキスムントの近くではなくヘイリーの方にいたら、俺は結構がっかりするかも知れない。
そうなりたくないから、俺はこっちに侍従見習いディアナ嬢と魔導師団長がいる事を切に願う、、、別に何回も虚空に話しかけたくないからじゃないぞ。

目の前にジキスムントの背中が見える。
知人らしい令嬢と、誰かについて話し合っている、と言うより、、、言い合いをしている?
何だなんだ、随分仲の良い御令嬢がいるんじゃないか、聞いてないぞ、ジキスムント。
これなら、ディアナ嬢をお前に取られる心配はしなくて良さそうだ。

少しホッとしつつ、話しかけようとした時。
「あ、殿下、最後に一つ。」
マルティンが後ろから呼びかけて来た。
「?」
もう打ち合わせは終わったと思っていたけど。
「数が減ったものの中に、チョコレートトルテと、プラリーヌが有りました。」
「?」
だから?あれは美味いからな、当然だろ。
「この季節ですから。他の御令嬢はあまり召し上がってはいらっしゃらないようですよ。」
殿下とデザートの好みが似ていらっしゃるのでは?
誰とは言いませんが、って、魔導師団長と甘味の嗜好が似ていてもゾッとするだけだ。

ふーん。侍従見習いディアナ嬢チョコレート好きか。

俺はその一言を噛み締めると、最後の一歩を踏み出して。

「お茶会で大きい声なんて無粋だよ。ジキスムント。」

魔導師団長と侍従見習いディアナ嬢、どうかここにいてくれよ、と心の底から願いつつ、ジキスムントと相手の令嬢に声を掛けた。
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