111 / 241
皇宮での邂逅
虚空に向かって話し掛ける前に、
しおりを挟む
ジキスムントの席は少し離れているので、にこやかに笑みを振りまき、時に挨拶を受けながらゆっくり歩く。合間にマルティンと最後の情報交換だ。
「後は・・・あの悪夢は、魔導師団長でいいんだな?」
「それが団長殿から殿下への罰であり、元を辿れば宰相様辺りの愛の鞭かと。」
「毎度えげつなく心を抉ってくるあれが愛?冗談はやめてくれ。」
「恐らく殿下だけでなく・・・」
「ジキスムントもなんだろう?後で話す。」
ここでまた常連の貴族子女の挨拶を受け、ことさら機嫌よく応える。
俺の緊張は気付かれてはいないようだ。
ふと見ると、俺を囲む令嬢越しに白金の頭が通り過ぎるのが見えた。
ヘイリー?どこ行くんだ?
あいつは大抵の場合、広いスペースにさっさと陣取って、取り巻きの令嬢達の真ん中で機嫌よくチヤホヤされてるんだけどな。
見ていると真っ直ぐジキスムントに向かっていく。
今や令嬢で人だかりになっているのを上手く入ってジキスムントに辿り着き、少しのやり取りの後、あっという間に、ほとんどの令嬢を引き連れて行ってしまった。
ジキスムントの周りがスッキリしている。
ヘイリー、あいつ、凄いな。なんて早技だ。付いて行く令嬢も令嬢だが、、、。
恐らく、名門侯爵家の跡取りで、滅多に社交の場に姿を見せないジキスムントに群がってはみたものの、会話が上手く続かないのに飽きてきたところだったんだろう。
ヘイリーは令嬢の喜ぶツボを心得てるからな。
それにしても、、、。
「まずいな」
「?何か仰いまして?殿下。」
思わず心の声が溢れたらしい。
ここぞとばかりにあざとく小首を傾げる目の前の令嬢。
俺は何気ない風を装って話を逸らすと、今度は少し急いでジキスムントに近付いた。
あの侍従見習いの感じなら、ヘイリーに付いて行くよりジキスムントの近くに留まると思うが、、、手っ取り早くドレスや装飾品の流行が見られる令嬢の集団に、興味が無いわけではないだろう。
何にせよ早く行くに越したことはない。
それにしても。
令嬢ってのは、つくづく見る目が無いものだ。
俺なら上手いこと言ってチヤホヤされたいだけのヘイリーより、ジキスムントと親しくなるよう努力する方が良いと思うけどな。
、、、侍従見習いがディアナ嬢だとして、もしジキスムントの近くではなくヘイリーの方にいたら、俺は結構がっかりするかも知れない。
そうなりたくないから、俺はこっちに侍従見習いと魔導師団長がいる事を切に願う、、、別に何回も虚空に話しかけたくないからじゃないぞ。
目の前にジキスムントの背中が見える。
知人らしい令嬢と、誰かについて話し合っている、と言うより、、、言い合いをしている?
何だなんだ、随分仲の良い御令嬢がいるんじゃないか、聞いてないぞ、ジキスムント。
これなら、ディアナ嬢をお前に取られる心配はしなくて良さそうだ。
少しホッとしつつ、話しかけようとした時。
「あ、殿下、最後に一つ。」
マルティンが後ろから呼びかけて来た。
「?」
もう打ち合わせは終わったと思っていたけど。
「数が減ったものの中に、チョコレートトルテと、プラリーヌが有りました。」
「?」
だから?あれは美味いからな、当然だろ。
「この季節ですから。他の御令嬢はあまり召し上がってはいらっしゃらないようですよ。」
殿下とデザートの好みが似ていらっしゃるのでは?
誰とは言いませんが、って、魔導師団長と甘味の嗜好が似ていてもゾッとするだけだ。
ふーん。侍従見習いもチョコレート好きか。
俺はその一言を噛み締めると、最後の一歩を踏み出して。
「お茶会で大きい声なんて無粋だよ。ジキスムント。」
魔導師団長と侍従見習い、どうかここにいてくれよ、と心の底から願いつつ、ジキスムントと相手の令嬢に声を掛けた。
「後は・・・あの悪夢は、魔導師団長でいいんだな?」
「それが団長殿から殿下への罰であり、元を辿れば宰相様辺りの愛の鞭かと。」
「毎度えげつなく心を抉ってくるあれが愛?冗談はやめてくれ。」
「恐らく殿下だけでなく・・・」
「ジキスムントもなんだろう?後で話す。」
ここでまた常連の貴族子女の挨拶を受け、ことさら機嫌よく応える。
俺の緊張は気付かれてはいないようだ。
ふと見ると、俺を囲む令嬢越しに白金の頭が通り過ぎるのが見えた。
ヘイリー?どこ行くんだ?
あいつは大抵の場合、広いスペースにさっさと陣取って、取り巻きの令嬢達の真ん中で機嫌よくチヤホヤされてるんだけどな。
見ていると真っ直ぐジキスムントに向かっていく。
今や令嬢で人だかりになっているのを上手く入ってジキスムントに辿り着き、少しのやり取りの後、あっという間に、ほとんどの令嬢を引き連れて行ってしまった。
ジキスムントの周りがスッキリしている。
ヘイリー、あいつ、凄いな。なんて早技だ。付いて行く令嬢も令嬢だが、、、。
恐らく、名門侯爵家の跡取りで、滅多に社交の場に姿を見せないジキスムントに群がってはみたものの、会話が上手く続かないのに飽きてきたところだったんだろう。
ヘイリーは令嬢の喜ぶツボを心得てるからな。
それにしても、、、。
「まずいな」
「?何か仰いまして?殿下。」
思わず心の声が溢れたらしい。
ここぞとばかりにあざとく小首を傾げる目の前の令嬢。
俺は何気ない風を装って話を逸らすと、今度は少し急いでジキスムントに近付いた。
あの侍従見習いの感じなら、ヘイリーに付いて行くよりジキスムントの近くに留まると思うが、、、手っ取り早くドレスや装飾品の流行が見られる令嬢の集団に、興味が無いわけではないだろう。
何にせよ早く行くに越したことはない。
それにしても。
令嬢ってのは、つくづく見る目が無いものだ。
俺なら上手いこと言ってチヤホヤされたいだけのヘイリーより、ジキスムントと親しくなるよう努力する方が良いと思うけどな。
、、、侍従見習いがディアナ嬢だとして、もしジキスムントの近くではなくヘイリーの方にいたら、俺は結構がっかりするかも知れない。
そうなりたくないから、俺はこっちに侍従見習いと魔導師団長がいる事を切に願う、、、別に何回も虚空に話しかけたくないからじゃないぞ。
目の前にジキスムントの背中が見える。
知人らしい令嬢と、誰かについて話し合っている、と言うより、、、言い合いをしている?
何だなんだ、随分仲の良い御令嬢がいるんじゃないか、聞いてないぞ、ジキスムント。
これなら、ディアナ嬢をお前に取られる心配はしなくて良さそうだ。
少しホッとしつつ、話しかけようとした時。
「あ、殿下、最後に一つ。」
マルティンが後ろから呼びかけて来た。
「?」
もう打ち合わせは終わったと思っていたけど。
「数が減ったものの中に、チョコレートトルテと、プラリーヌが有りました。」
「?」
だから?あれは美味いからな、当然だろ。
「この季節ですから。他の御令嬢はあまり召し上がってはいらっしゃらないようですよ。」
殿下とデザートの好みが似ていらっしゃるのでは?
誰とは言いませんが、って、魔導師団長と甘味の嗜好が似ていてもゾッとするだけだ。
ふーん。侍従見習いもチョコレート好きか。
俺はその一言を噛み締めると、最後の一歩を踏み出して。
「お茶会で大きい声なんて無粋だよ。ジキスムント。」
魔導師団長と侍従見習い、どうかここにいてくれよ、と心の底から願いつつ、ジキスムントと相手の令嬢に声を掛けた。
0
お気に入りに追加
2,162
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる