上 下
110 / 241
皇宮での邂逅

最も会いたいゲストは影も形も見当たらない

しおりを挟む
ここからは94話目、『再度、挑戦です』辺りからのフェリクス殿下視点になります。



和やかに、賑やかに、皇太子宮の茶会は始まった。
まずは軽食を取りながら今日同席のゲストと会話を交わす。
左隣の席は伯爵令嬢。右は侯爵子息か。
お互い顔見知りなので、ここは適当に気を抜く。
彼女達は、色味の違いはあれど、金髪に青い目と言う典型的なオストマルク貴族の色彩を持つ、宮廷貴族だ。
俺に好意を持ってくれていて、分かりやすく、惜しみなく表してくれるから、こちらも対処がしやすい。
食事とお茶が済み、どの席もゆったりとした雰囲気になって来た。
これからしばらくは、それぞれが自由な時間を過ごす。
もう少ししたら、俺も移動して、今日の出席者と一通り挨拶をしないと。
さり気なく会場である皇太子宮の庭を見渡した。
だが、どんなに目を凝らしても、今日一番の予期せぬ主役は、影も形も見当たらない。
天下の魔導師団長に結界張られたら、俺に分かるわけもないが、、、。

おいおい、、、俺は、これから何処へ行けばいいんだ?

「なぁ、本当に居るんだろうな?」
隣のご令嬢が俺の反対側の侯爵家の子息と話し始めたの確認してから、それでも念のため振り返らないまま、小声でそっとマルティンに声を掛ける。
大体、俺の代になってから、バーベンベルクの一族は一度もこの茶会に来たことが無いんだぞ?
たかが食器が二組消えたくらいで、魔導師団長と侍従見習い、、、いや、ディアナ嬢が紛れ込んでいると思うのは都合の良い妄想ではないのか?

先ほどまで俺の後ろに控えながら侍従とやり取りを重ねていた老執事は、すっと屈むと俺の耳元で答えた。
「実を言うと、先程は、もしや、という程度でしたが・・・」
「!」
なんだって?!
俺が思わず振り返りそうになるのを押さえるかのように言葉が続く。
「今は確信しております。の場所に二人分の食器が戻ってきたと、今し方連絡がありましたし、食事も、我々が用意した量より、わずかに足りなくなっておりましたので。」
「信じていいんだな?」
「皇太子宮で五十年執事をしております私の、経験に基づく「』でございます。」
「勘・・・」
怪しい、、、。
俺、この老執事に騙されてないよな?
でも、自信たっぷり、どこか楽しげでさえある声を聞いて、俺は腹を括った。
頼ると、決めたんだからな、うん。
「外れたら、罰として一生俺の執事だからな?」
前を向いたまま言う。見えなくても、マルティンの纏う空気が柔らかくなったのが分かった。
「外れませんが・・・外れても楽しゅうございますな。」



取り敢えず、この何処かには確実に魔導師団長と執事見習いディアナ嬢は居るとして、、、。
俺は再びさりげなく会場を見渡した。
あちこちで席を立って移動する姿が見え始めた。
俺も早く移動しなければ。
にこやかに同席の会話を見守るふりをしながら、頭をフル回転させる。
「食事は済ませたんだろ・・・」
確かに俺の茶会の食事とデザートは評判が良いが、まさかそれが目的では有るまい。何か他に有るはずだ。
帝都が初めての令嬢、、、何が気になるんだ?
俺は令嬢との会話例文のポイントを思い出す。
挨拶代わりに褒める、これは関係ないか。
でも、注意点として、流行りの髪型やドレスの場合、そこを重点的に褒めるってのがあったな。つまり、彼女達にとって大事な事なんだろう。
ただ、この場合、あちこちに散らばっている令嬢達を眺めるだけで、大体の流行は分かるだろう。あいつ、賢そうだったしな。
あとは、何だろう?あいつが興味を持ちそうな事、、、。
考えながらぼんやり動かしていた視界に、此処では珍しい赤が目に入った。
ジキスムントだ。何だか令嬢達に囲まれていて、ちょっと目を引く状況だ。
「そう言えばあいつ、珍しく今日は来ていたな。」
入場の時はマルティンとの話が忙しくて殆ど話せなかったけど。
ん?
待てよ。
ディアナ嬢はジキスムントとは知り合いだ。少なくともこの会場で一番親しいと言えるだろう。
そのジキスムントが令嬢に囲まれてたら、取り敢えず興味を持つんじゃないか?
「・・・マルティン、行き先が見つかった。」
低く呟くと、
「ロイス侯爵令息の所ですね。大変よろしいかと。」
俺の視線の先を見ていたのか、マルティンもすぐに返してくる。

、、、いよいよか。

これからいつもの様に貴族子女と自然に会話を交わしつつ、此処ぞという時は虚空に向かって話し掛けないといけない。
場合によっては、突然姿を現した魔導師団長と執事見習いディアナ嬢に、貴族子女こいつ等が見てる前で頭を下げる事になるかも知れない。

、、、下手すると殿下ご乱心の噂が飛ぶ事になる、、、。

ため息を堪えてる俺を知らぬ気にマルティンの穏やかな声がした。
「さあ、殿下、そろそろ他の皆さまにご挨拶を。」

お前、、、楽しんでるだろ。
にこやかに席を立ちつつ、密かに深呼吸をする。
俺は皇太子だ。これくらいの事が出来ずに国が動かせるか。
俺は半分やけくそな気持ちで、いつもながらに盛況な茶会のテーブルを抜けて、ジキスムントのところへ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

孤独なメイドは、夜ごと元国王陛下に愛される 〜治験と言う名の淫らなヒメゴト〜

当麻月菜
恋愛
「さっそくだけれど、ここに座ってスカートをめくりあげて」 「はい!?」 諸般の事情で寄る辺の無い身の上になったファルナは、街で見かけた求人広告を頼りに面接を受け、とある医師のメイドになった。 ただこの医者──グリジットは、顔は良いけれど夜のお薬を開発するいかがわしい医者だった。しかも元国王陛下だった。 ファルナに与えられたお仕事は、昼はメイド(でもお仕事はほとんどナシ)で夜は治験(こっちがメイン)。 治験と言う名の大義名分の下、淫らなアレコレをしちゃう元国王陛下とメイドの、すれ違ったり、じれじれしたりする一線を越えるか超えないか微妙な夜のおはなし。 ※ 2021/04/08 タイトル変更しました。 ※ ただただ私(作者)がえっちい話を書きたかっただけなので、設定はふわっふわです。お許しください。 ※ R18シーンには☆があります。ご注意ください。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

処理中です...