上 下
65 / 241
皇宮での邂逅

腹黒宰相にはMI(ミッションインポッシブル)は無い、、、?

しおりを挟む
宰相閣下、、、もとい伯父さまの騒ぎっぷりを見て、私はオリヴィエ兄さまを睨む。

「なんて言ったんです、オリヴィエ兄さま。」
「いや、何にも。ディーちゃんが怪我しちゃったけど、治癒魔法使うの叔父さんにバレたくないって相談された、とだけ。」

えー、ほんと?
疑わしい、、、。なおも見つめていると、私をソファに寝かしつけた伯父さまが、仁王立ちし、腕組みの上、ふんっと鼻息も荒く言い出した。
「ディーちゃん、私が何年皇宮魔窟で宰相やってると思ってるんだい。一昨日のディーちゃんの友人発言には驚いたけど、その後は情報収集済みさ。」

実は、訓練場の四人、つまり、
皇太子フェリクス殿下。
ロイス侯爵嫡男ジキスムント。
伯父さまのすぐ下の弟、カレンブルク侯爵エリオットさまの双子、カーティスとヘイリー(あ、つまり私の従兄弟!)

彼らは、皇太子殿下と同じ年のご学友らしい。
陛下の依頼により、宰相閣下自ら選んで引き合わせてるから、その後も侍従や当直騎士から情報収集していて、力関係や性格は分かってるんだって。

「大方、小さい頃から我儘で勝ち気で、やりたい放題だった殿下が、真面目で堅物で、あの中で一番信頼を寄せていたジキスムントを取られると思って、やらかしたんだろう?」

本人が直接手を下したか、子分扱いの双子にやらせたか、若しくは不審者からの護衛を口実にジキスムントにやらせたか、、、。
「そこまでは読めなかったけどね。」
と、最後はちょっと悔しそうに仰るが。

うーん。
これは、出会いそのものが仕組まれてるな。そうとしか思えない。
そう言えば、やたらと探検を勧められたし、一昨日も色々聞かれたし、他にも、、、。
でも。
今は。
痛いし、何より父さま魔王降臨を防ぐために共闘しなくちゃ。
問い詰めて、なんで会わせようとしたかを聞くのはその後よ!



「よいですかの?」
そこへ。
穏やかながら断固とした声がした。

「まずは、この子の怪我をなんとかせねば。痛いのを我慢しとるのが、分かりませんかの?」
ラーナさんが伯父さまに話しかける。

「!そうだった。済まない、ラーナ。」
「謝罪はこの子にせねば。のう?」
私を穏やかに見遣るラーナさん。
伯父さまがバツの悪そうな顔するなんて、ラーナさんて、ただの公爵家付き魔導師じゃなさそうね。


咳払いを一つ。
それで伯父さまは場の雰囲気をさっと変えた。
「要はだな、アルフの怒りを逸らせばいいんだろう。」
直ぐに要点を詰めてくる。
流石は宰相さまだわ。
「どうすればいいかは分かってるんだ。後は、我々の腕と協力次第だな。」

え、なんだか自信満々なんだけど。

私の視線は疑わしげだったのだろう。
伯父さまが片眉を吊り上げた。

「ディーちゃん、エレオノーレ殿はアルフの扱いが上手いだろう?」

それは、もちろん。私は、今回も最後は母さまに泣きつくしかないと思っている。

「あの子に、対アルフ戦術を教えた・・・と言うか、やらせたのは、私なんだよ。」
えっへん。
咳払いでも聞こえてきそうな勢いで、大変偉そうに仰いますが、、、ほんとなの?

「ほんとほんと。大丈夫。ラーナの治癒、、、まあここは心配してないんだけど。あと、ディーちゃんの演技がきちんと出来ればね。」

「アルフが切れるのは、怒る時では無く、傷つく時なんだ。あの子を人に留めている存在から否定されたと感じる時、あの子が愛してやまない存在を傷付けられ、守れない無力感に苛まれる時。」
「だから、今回はディーちゃんが、傷付いてないってことをちゃんと示せば良いんだよ!」
簡単簡単。伯父さまはいい黒い笑顔でウインクした。

か、軽い、、、。そう言えば、初めてお会いした時もお茶目さんだと思ったんだ、、、。確かにこの人は、オリヴィエ兄さまの父上なんだわ。



宰相閣下演出による魔王降臨阻止作戦はこんな感じ。

先ず、ラーナさんが私に治癒魔法を掛け、一瞬で治す。
「一瞬、ここ大事ね。まあ、ラーナは経験あるから大丈夫だな?」

「御意。」
ラーナさんの穏やかな短い答えには、安心感がある。

次に、父さまが治癒魔法に気付いて転移で来た瞬間、私が父さまに抱きつく。出来れば嬉しそうに声を掛けて。
「ここが、エレオノーレ殿は本当に苦手でね。一瞬のためらいが結果を分ける。ここで失敗して、何度アルフが切れて、後始末が大変だった事か。」
伯父さまは噛みしめるように言った。
「いいかい!?会えて嬉しい!何の疾しいこともないの、という感じで抱きつく!ここ、本当に大事だからね。帝都を崩壊から救えるかどうかはこの台詞に掛かってるから。」
「は、ハイッ。」
私は思わず姿勢を正す。
伯父さまは、満足そうに頷くと続けた。

「そうすると、アルフは大体一瞬戸惑う。そこで、私が、何気なくどうしたんだ?と問いかけよう。」

「おそらくアルフは戸惑ったまま、でも、ディーが怪我をした筈だ、と説明してくるはずだ。
そこで、ふたたびディーちゃん!」
伯父さまの目がキラッと光った。

アルフの心配が吹き飛ぶような一言を言うんだ。

え、そこ、いきなりアドリブ?

「さあ、言ってみて!アルフを心配や無力感から解き放ち、有頂天にさせる一言!」

因みに、ここもエレオノーレ殿は下手くそだったから、取り敢えず、愛してる、と言うように指導していたよ。

得意げな伯父さまに、さあさあ、と詰め寄られ。

私は、ええと、と口を開いた。
「ちょっと怪我しただけなんだけど、父さまを心配させたくなくて。えと、父さまが大事で、好きだから、優しい父さまが、私のために怒ったことで、後から傷つくのは見たくないの・・・」
これは、ほんとのこと。

「・・・素晴らしい!」
伯父さまは目を見開いて拍手をした。
「よし、この調子なら、この作戦も、成功間違いない!」

なあ、オリヴィエ、お前もそう思うだろう?
伯父さまが振り返ると。

「お、お、」
顔面蒼白でガタガタ震える兄さまが居た。
ラーナさんは、、、?目をつぶってる?

「?」
そう言えば、なんだかちょっと変な感じ。やけに静かで、え、ちょっと、寒い、、、?
私と伯父さまが目を見合わせた時。



「楽しそうですね。ディー、兄上・・・なんの作戦か、お聞きしても?」

いつの間に居たのか。
風はそよとも吹いていないのに、父さま魔王がいたの。

その瞳は、、、黄金と紫が混じり合っていて。


イヤな汗が背中を伝う、、、。帝都、崩壊しちゃう?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

処理中です...