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皇宮での邂逅

伯父さまはダンディでお茶目な紳士でした。

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「さあ、急いで行こうか。」
身分証をポケットに入れると、オリヴィエ兄さまに促された。
「あの人は待たされるのに慣れてないからね。」
ほんとは転移したいくらいだけど、君に触れることは出来ないし、色々案内しろって言われてるし。
「?」
「いやいや、こっちの話し。さあ、行こうか。邪魔したね!あ、それとテレーゼ、この子は同好会で使っちゃダメだからね!」
「オリヴィエ様に言われたら仕方ありません。ライムンド君、頑張ってね。」
テレーゼさんに手を振られて、部屋を出た。


オリヴィエ兄さまの後ろを歩きながら、魔導師団の大まかなつくりを教えてもらう。
詳しいと自分でいうだけあって、ほんとにどの部屋のことを聞いても知ってる。
でも、私はそんなに一度に覚えられないよ。そう思っていると。
「ふふ、目が虚ろになってきたね、一度には無理かな、ディーちゃん」
からかうように笑われてしまった。
あら、愛称使われちゃった。
ちょっと上目遣いに睨むと、「仕草は女の子だね。可愛いな。」と目を細められる。
頭に手が伸びてきて、あ、撫でられる、と肩を竦めたら。
小鳥がチッと言って飛び上がり、その手を突いた。
「あ、ダメ。」
止めたけど間に合わない。
「ごめんなさい。」
謝ると小鳥からなんと父さまの声がした。
「魔術で弾かれるよりいいだろう、オリヴィエ。」
「父さま」「叔父さん」二人で思わず顔を見合わせる。
父さま、この小鳥とも同期してるんだ、、、。
「本当に心狭いなぁ。」
オリヴィエ兄さまは感心したように呟いた。

結局。取り敢えず。
色々な建物があるけれど、一番大きな建物の一番上に団長執務室があるから、迷ったら外に出て確認すればいいと言われた。
うん、そう言う説明が欲しかったのよ。
「了解でーす。」
ビシッと敬礼すると、お互いにニコッと笑い合う。
うん、だんだんこの人も掴めてきた気がするわ。


「近道するよ。」
下まで降り切ると人通りの多い方へ向かわず、建物の端から外へ出る。
明るい日差しの中には、いつ手入れをしたのか、小さな花が自然に咲き乱れる裏庭?があった。道とも言えない小道が向こうの建物に続いている。
「あそこが僕の普段居るところ、政務宮だよ。この道が魔導師団には一番近いから覚えておいて。」
まあ、裏道だけどね。笑いながら付け加え、歩き始める。
「因みに、建物の反対側にも、道があって、そっちは騎士団に続いてるよ。」
そっちも僕は御用達でね。君もよかったら使ってみて。
軽く言いながら長い足でさっさと歩くから、付いていくのが大変。
「そして、やっぱり、政務宮も、一番上が君の伯父さんの居る場所だからね。迷ったら上に上がるんだよ。」


政務宮も大きく、人通りも多かったけど、オリヴィエ兄さまはほんとに急いでいるのか、黙ってツカツカ歩いていく。私も黙って早足でついていったので、直ぐに一番上の大きな扉の前に着いた。

「さあ、覚悟はいいね。」扉の前に立つ騎士に軽く頷いたオリヴィエ兄さまは、突然振り返って屈むと囁いてきた。

「?」
覚悟も何も、言われるまま付いてきただけなんだけど。
取り敢えず頷いた。
「よし、行こうか。・・・オリヴィエ、戻りました。」
ノックの後一声掛け、そのまま待つ。
あら、珍しい、待つんだ?そう思っていると。
扉の向こうで物音と早足で近づく足音がして。
「よく来たねっ!!」
バーンッという勢いで扉が開き。
端正な姿のステキな男の人が、私を見るなり、いきなり抱きしめてきた。

うん、確かに覚悟しておいてよかったかも。



その方は、私をギュウギュウ抱きしめながらオリヴィエ兄さまを軽く睨む。
「何処に寄り道していたんだ!全然帰ってこないから、午前の執務が終わってしまったではないか。」
補佐官は早々に追い出してしまったし、ヒマでヒマで、お前の仕事の粗探しをしてしまったよ。と少し意地悪く笑う。
振り返ると、扉を閉めていたオリヴィエ兄さまの笑顔が引きつってた。ここは私が助けるべき?
「コンラート公爵閣下?」多分そうだよね?
「私、ほんとうにさっき来たばかりで。オリヴィエ兄さまは私の手続きを父さまの代わりにして下さいました。」
お待たせして申し訳ありませんと続けると。
その方は、ハッと目を見開き、「オリヴィエ兄さまだと!?」
と叫んだ。

注目するのそこなの?


「父上。ディーちゃんがビックリしてますよ。まずは自己紹介しないと。」
言いながらオリヴィエ兄さまが部屋の中央にあるソファに促してくれる。
「ディーちゃん!お前、やっぱり先に仲良くなりおって・・・いや、挨拶は大事だな。そうだ、アルフの時もそうだった・・・さあ、こっちへおいでディアナ嬢。」

一転。完璧なエスコートで私をソファへ導いてから、その方は自己紹介してくれた。
やっぱりコンラート公爵で、私の伯父さまだった。なんと宰相さまでもあるらしい。

確かに、綺麗な白金の髪はルー兄さまと一緒だし、黄金の瞳は父さまや私と一緒だ。
さっき、端正な顔立ちに皮肉げに唇を歪めたところなんか、顔立ちは違うのにルー兄さまとそっくり。
今年五十歳と伺ったけど、立ち姿も美しくて、とてもそんな風に見えない。
感想を正直に伝えると、とっても優しく目を細められた。
「そうかそうか、デイーちゃんは・・・もちろんこう呼んで構わないだろう?・・・優しいいい子だな。」
「早く君の本当の姿を見たいよ。私は娘が欲しくてね。アルフに娘が出来たと聞いた時から、早く会わせろと言ってきたんだ。せっつきすぎて警戒されて、今まで殆ど会わせてもらえなかったんだけどね。」アハハと明るく笑う。
笑い皺が目尻に出来て、一層優しげだ。と、思っていると。
「ところで、ディーちゃんは私を伯父さまと呼んでくれるのかな?」
と言い出した。
「もちろんです。伯父さま。お会いできてとてもうれしいです。」ニコッとしてからそう答えると。
「なんなら、お父さまでもいいんだよ。このままうちに連れて帰ってうちの子にしちゃおうか?」
困ってしまうような冗談を言われてしまう。
笑って誤魔化そうとすると、すかさずオリヴィエ兄さまのつっこみが入った。
「ダメですよ、父上。何言ってるんですか。見てください、もうこの子には使い魔が付いてるんですから。さっきも叔父上はその鳥を通して声を掛けて来たんです。」

「さすがアルフだな。」伯父さまは泰然と言葉を受け止め、なお微笑んだ。
「では、うちの子に貰うのはやめにするけど。これから皇宮滞在中は毎日お昼を一緒にどうだい?」

「それはひどすぎる!せめて三日に一度にして下さい!」
小鳥の嘴から、なんとも切羽詰まった父さまの声が聞こえて。私たちは三人で思わず顔を見合わせて笑ってしまったの。

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