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バーベンベルク城にて

帝国魔導師団長は流石だったけれど(オスカー視点)

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「ディー・・・もうダメだ!」
いつも強気のフィンが膝から頽れて、床に手を付く。ディーの周りがだんだんキラキラし始めた。
私はもう、それをただ見つめることしかできない。なんて無力な兄なんだ、、、。

「こんなに自我が希薄になって、こんなに魔力と混ざってしまったら、僕には分けることなんて出来ない!ディー、どうしてここまで・・・どうしたらいいんだ!!・・・誰か、何とかしてくれ!!・・・父上あのくそおやじはいつまでタラタラ遊んでやがるんだ!!」
フィンが泣きわめいた時。

「誰がくそおやじだ。」
突然、フィンの肩でムニンが言った。
「「えっ?」」
私とフィンの声がかぶる。まさか、この声は、、、。顔を見合わせた時、再びムニンが口を開いた。
「今そっちへ行く。」
その言葉と同時に。
スッと冷たい風が吹き。次の瞬間、私とフィンの前に、父上と母上が姿を現した。

「これは・・・!?」
周りの状況に、流石に戸惑う母上を離すと、父上は目を逸らし気味に私たちにつぶやく。
「だいぶ世話を掛けたようだ、、、すまない。後は任せろ。」

そのまま、ディーの方を向く。ディーの身体は全身が眩しいほどにキラキラ光って、輪郭がぼやけ始めていた。
こんな状況で、ディーは戻って来れるんだろうか?フィンと二人、黙って見つめる事しか出来ない。

だが、父上は淡々とディーに向かって手を伸ばし、拡散し始めた光を囲うように大きい魔術空間を出現させた。その中で徐々に光が収縮していく。収縮した光はディーの中に入っていったようだ。ディーの周りのキラキラが消えていくにつれ、ディーの輪郭がはっきりとしてくる。
それと同時にディーの表情が変化した。ぼんやりとした無表情から、苦悶の表情へと変わる。
「っく!」

「「「ディーっ」」」
今度はフィンだけでなく母上とも声がかぶった。母上は状況をどこまで把握しているのか分からないが、ディーが最重要だと判断したようだ。
父上だけが、変わらぬ表情のまま魔術空間を消し、腰を折り曲げて苦しがりながら落ちてきたディーの腰のあたりを掴んで!・・・ああ掴めるんだ・・・良かった!そのまま両腕で胸に抱き込んだ。

そのまま、呼吸を三回するくらい待つ。フィンが、「ここで魔力を抜き取るんだ。」と小さく悔しそうに言うのが聞こえた。
父上は腕を緩めると、ディーを少し掲げるように持ち上げ様子を確認している、、、最後に額にキスをした。
「もう大丈夫。眠った・・・。」
そのままディーを母上に渡す。母上はにっこり笑うとディーを受け取り、父上の頬に軽く口づけた。

「ふう・・・」
私は今回こそ安堵の吐息をついた。
ああ、無事に終わったんだ、、、。この夫婦ここも完全に仲直りしたらしい。これで私も少しはゆっくり休める、、、。そう、思ったのに。

「ずるいぞ、くそおやじ!良いところばっかりとりやがって!」
殺気だったフィンの声。母上に駆け寄ったフィンはディーを覗き込むと、
「ああ、ディーの中に溜まっていた魔力、僕も欲しかったのに、全部あいつが・・・!」
呻いたうめ。フィン、、、私の心配をこれ以上増やさないで欲しい。

「団長!なんですか、あの魔術は!融合し、拡散しかけた二つの物体を無理やり分けるんではなく、一段階前に戻した上で、分離させるなんて!無機質の物体ではないのに、有機物でこんなことが出来るんだ・・・科学部の連中に伝えなければ・・・!」
エルンストと言ったか、父上の副官殿の興奮した声もする。

「お前!ディーを有機物なんて言い方するな!大体お前が俺を眠らせなければこんなことになる前に、がディーを救えたんだ!」ああ、フィンの方向違いの怒りがさく裂している。

この二人もこの騒動の犠牲者だ。疲れてハイになってるに違いない。ここは騒動の原因の父上に、ひと働きしてもらおうか。
そう思って振り返ると。

「そう言えば、なんでエルがここに居るんだ?他にもなんだかたくさん倒れてるぞ。」父上は心底不思議そうに言って周りを見回した。それから、何か気づいたらしく、やや慌てた風に母上を抱き寄せた。

「お前、とうとうバーベンベルクここにまで仕事を持ってきたのか?こっちは完全なプライベート空間だぞ。それとも、エレオノーレに言いつけに来たのか?残念だが、彼女はお前の言う事より、私を信じてくれる。ねえ、エレオノーレ、そうでしょう?」
母上の頬を両手で包み、口づけんばかりに顔を近づける。
「あ、ああ、モチロンダトモ。」
母上の眼が一瞬にして死んだ魚のようになった。科白も棒読みしてる。母上はこういうの苦手なのに、なんで父上は分からないんだろう。
と言うより父上。貴方は普段魔導師団職場でどういう過ごし方をしているんですか?


、、、頭痛がしてきた。今すぐ休みたい。私は二日ほぼ完徹なんだ。フィンはさっき寝てるけど、私は今日も寝る暇がなかった。父上と母上はどう見ても元気いっぱいなんだから、後始末くらいは自主的にして欲しい、、、。

頼みの綱の母上へ視線を向けると。
なぜか、立ち直って父上の腕を逃れ、フィンが開けっぱなしたままの扉の向こうを見ていた。父上はあの副官と言い合いをしていて気づいてない。あの二人、意外といいコンビなのかも。よし、今がチャンスだ!

「ははう・・・」私が今後の方針について話しかけようとした時。

母上はおもむろにディーを抱いていない手を向けて、
「ルー、そこにいるんだろう?怖かった?こっちへおいで。」と言った。

思いがけない名前にみんなが扉の向こうを注視する。
「・・・うっく。」
確かにそこには、ショックを受け、しゃくりあげる小さい弟の姿があった。いつから居たんだ、あの子は、、、。
「ルー・・・大丈夫だ。泣くんじゃない。」
母上はサッとルーの下に行き、空いてる方の手で抱き上げる。完全に母親モードだ。


、、、ダメだ。みんなやりたいようにやってるだけで、この後処理と今後の方策まで頭が回ってない。
がっくりくる。この調子だと、私はもうひと働きしないといけないようだ。


ため息をついても、いいだろうか?
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