上 下
23 / 241
バーベンベルク城にて

融けてしまいそうになりました

しおりを挟む
アハハ!ハハハハッ!
不安、恐怖、憤りの反動で放出した怒りは、私をとっても高揚させた。笑い声が止まらず、地面や空気の揺れもだんだん大きくなる。

ふと、周りを見回すと、騎士たちは空中を舞いながら気絶していた。魔導師たちはほとんど倒れていて、なぜかおじさんが一生懸命箱を取り除こうとしている。あ、一人取れたみたい。おじさん、魔術センスあるのね。

次の人、と立ち上がったおじさんと目が合った。ん?なんでそんな恐ろしいものを見る目なの?助けてあげたのに。
おじさんは、ゴクリと唾を飲み込むと、必死の形相で叫んだ。
「嬢ちゃん!お願いだ、この箱を取ってくれ。聞こえるか?頼む!小さい嬢ちゃんに人殺しはさせたくないんだ!」
「?」私は首をかしげた。おじさんが何か言っている。でも、何を言ってるのかよく分からない。感情が言葉を理解することを拒否してるみたい。何か必死なことは伝わってくるんだけど。

おじさんにも、私には聞こえていないことが分かったようで。くっと唇を噛みしめると、今度は兄上に向かって何か言い始めた。
「オスカー殿!もう、嬢ちゃんを止められるのはあなただけだ。どうか、もう止めろと言ってくれ!」
兄上に何を言ってるの?お願いしてるってことは伝わってくるんだけど。

でも、おじさんの言葉は兄上には届いたみたいで。さっきから身じろぎもせず私を見つめていた兄上は、ハッとすると、床の揺れにも動じず、私に近づきながら手を差し伸べた。
「ディー、もう止めるんだ。君のおかげで私は助かったよ。ありがとう。もう十分だから、みんなを懲らしめるのは止めて、こっちにおいで。」

あ、れ、、、?
ここで、やっと私も少し変だなと思った。兄上が私に何か話してる。手を差し伸べてくれている。でも、、、
「分からない・・・。」
思わずつぶやく。兄上とおじさんがギョッとした。

「兄上はディーに話しかけてるのよね。でも、何を言ってるんだろう・・・。」
「ディーっ!?どうしたんだ!ディー!!」
「嬢ちゃん!オスカー殿の声も聞こえないのか?まずいな、自我が魔力に侵されてきている。オスカー殿!とにかく呼びかけて、出来れば抱きしめてくれ。」
「分かった。だが、ディーはどうなってしまったんだ?」
空中の私を捕まえようと腕を伸ばしながら、兄上がおじさんと話している。なんだか兄上の話もどうでもよくなってきちゃった。
私はフイッと兄上の腕を避ける。なんだか今は捕まりたくない。私に拒否されたことのない兄上は愕然として私を見上げた。
「魔力に自我を乗っ取られかけてるんだ!」
おじさんが魔導師の箱を取り除こうとしながら兄上と話している。
「自我が発達していない状態でこんな量の魔力を受け入れてるんだ。しかも怒りで理性が吹き飛んじまっている。今はまだ自分の感情があるみたいだが、この状況が続くと魔力が嬢ちゃんを飲み込んじまう。そうなったら・・・」
「そうなったらどうなると言うんだ!魔導師!」
「たぶん、嬢ちゃんという存在が崩壊する・・・身体もこころも、この大気に融ける・・・ただの強い魔力に戻るんだ。」
「っ!!なんだって!?」

「何を言い出すんだ、お前は・・・そんなこと、ある訳ないだろう・・・ディー、おいで!兄上にギュッてさせておくれ。ほら、ディーっ!!」
追いかけてくる人がいる。誰だっけ?なんだかうるさいな。
私がそう思った途端、その人の周りに風が障壁を作った。すごい、きちっと考えたり思い浮かべたりしなくても、私の漠然としたイメージ通りに魔力が動く。私と魔力は一体なんだ。、、、?私ってなんだっけ?
「?ディー、私に何をするんだ・・・?」
うろたえてる。ふふ、楽しい。
「嬢ちゃん!オスカー殿も分からなくなるなんて・・・」
おじさんもうるさいな。そう思った時。

「兄上!ご無事ですか!?」
新しくこの空間に入ってきた誰かが何か叫んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

処理中です...