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バーベンベルク城にて

表向きの提案と母さまの思惑(前)

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「ルー兄さま、すごいね。予想通り!」
私が手を叩くと、母さまが面白そうに身を乗り出した。
「なんだ、ルーはなんて予想していたんだ。」
ルー兄さまを見ると、なぜかちょっとしかめっ面で黙り込んでいる。だから、私は代わりに教えてあげた。
「兄さまがね、オスカー兄上が大学をご卒業されて帝国騎士団に入るから、そのことでのお話しだろうって言ってたの。」

「そうかそうか。ルーはすごいな、賢いな。」
にこりとする母さま。でも、その笑顔をはねのけるような真剣な声で、ルー兄さまは言ったの。

「狙いは、なんですか?」
うん?狙いって?
首をかしげる私。でも、母さまは違った。笑顔のまま、兄さまの問いに問いで返す。
「ルーはなんて思ったんだい?」
兄さまは一瞬グッと唇を噛みしめると、今度は淡々と話し始めた。
「・・・少数精鋭での軍事演習。主な目的は貴人を保護しながらの各種戦闘行動の確認。」
私は予想外の答えにびっくりしてしまう。だけど。

「続けて。」
母さまはソファに深く身を沈めると、目を閉じて静かに続きを促した。
「日中は表面上の移動を滞りなく行いつつ、通行人に扮しての護衛、不審者の排除。城郭宿泊時には、夜間潜入・突破の可否の確認。街道での夜営時は貴人の保護をしながらの戦闘、奇襲対応。あとは、する方、される方両方の暗殺対処と言ったところかと。」

「そう考えるに至った理由は?」
母さまは目を閉じたままだ。兄さまは淀みなく答える。
「確かに祝い事であれば、家族全員が移動しても怪しまれない。女子どもがいるからと言えば、多少人数が多くても目立たないし、荷物が多くても、黙認されるものです。街道沿いの領主の方々も不審は抱かない。」

「しかしこれは全く必要のない行動とも言えます。」
「父上が転移魔術を使えば我々の移動は一瞬で済む。祝いの品だ、ドレスだと言っても、帝都でいくらでもあつらえられるでしょう。帝都には我々の屋敷もあるわけですし、身一つで行くことになんの問題もない。むしろ、費用、安全性、時間、どれを取っても無駄と言えます。ただ一つ。」
兄上はじっと母さまを見つめた。まだ母さまの眼は開かない。

「近頃演習を控えているバーベンベルク辺境伯軍の精鋭の訓練を自然に行い、かつ、その威容を街道沿いの諸領主や、帝都の下らない方々にちょっとばかり見せつけるという利点を除けば。」

「転移するとは思わないのか?私は軍を動かすとは一言も言ってないが。」
「先ほど、昼間の父上の乱入を話された時、母上はアランとブラントとの打ち合わせ中とおっしゃった。アランだけなら、なるほど転移の可能性が高い。でもブラントと話したのなら、軍を動かすと考えるべきかと。しかも父上は知らされてなかった訳ですし。」
「・・・貴人についての憶測はあるのか?」
「・・・全くのあてずっぽうでよろしければ。」
「言ってごらん?」
「ディーでは。無いとは思いますが、例えば、ディーの婚約者を極秘裏にバーベンベルクに避難させる必要が生じる可能性を考えての対処かと。」
そこで始めて母さまが目を開けた。
「それこそアルの転移魔術が使えると思わないか?」純粋に疑問を感じた声。
「ご冗談を、母上。」
ルー兄さまの口元が急に皮肉気に歪む。父さまが小さく「ウッ」と身を引いた。これが例のコンラート公爵家の表情なのね!話はちんぷんかんぷんだけど、私の名前や婚約者なんてキーワードも出て来たし、ドキドキ続きを聞いていると。

「どんな貴人であれ、ディーに関わる男を、父上は助けたりしないでしょう。だからこその演習と思ったのですが。」
きょとんとする私。でも、母さまは急に笑い出した。
「あはは!ルー。最高だ!確かにアルは家族以外を連れて転移はしないだろう。」
そして、立ち上がると、対面に座っているルー兄さまの腕をグッと掴み無理やり立ち上がらせ、テーブル越しに抱きしめた。
「は、母上、止め・・・」そのままギューギュー抱き締める。
母さまの胸に埋もれて、兄さまは窒息しそうだ。アワアワしている。

「よく考えたね。最後以外はほぼ満点。君、大学卒業後、うちの軍師になる気はない?」
とっても機嫌の良い母さま。その腕をつかんだのは父さまだった。
「取り合えずこの腕をほどきましょうか?エレオノーレ。息子と言えど男が寝衣の貴女に抱き締められるのは許せない。」
ああ、父さまは本当にぶれないのね、、、。
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