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バーベンベルク城にて

兄さま達は頑張って考えてくれたのです

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あそこに降りたい。バルコニーを見て降りる自分をイメージすると、すーっと飛んで、ふわんと着地出来た。
嬉しくて、二人の兄に向け、習いたてのカーテシーをする。

「おやおや。こんな時にうちのお姫様は。」
オスカー兄上はにっこり笑ってくれた。
「いつから居たんだい。ディー。」
でも、フィン兄さまは許してくれなさそう。私は素直に答える。
「いつからっていうのは分からないけど、突然目が覚めたの。なんだかすっごく自由で元気いっぱいになって。窓を開けたら綺麗なお月様が見えたから、お空を飛びたいなって思ったら、飛べちゃった。私も父さまやフィン兄さまみたいな魔術師ってことだよね!えへへ。」
へらへら笑うと、二人の兄は顔を見合わせた。

「これは・・・フィン、どう思う?」
「封印が解けてます。たぶん、結界と一緒に。あのくそおやじ、自分の掛けた魔法や組み込んだ術式を、全部きれーに消しやがった。ディーへの魔力封印も、僕の時のように装身具を付ければ済むのに、ディーにキスする口実が欲しくて接触型の封印魔法にしていたのに、あっさり忘れやがって。ディーに何かあったらどうする!いい加減にしろよ・・・」
パチパチ音がして、キラキラしたものがフィン兄さまの周りを飛ぶ。
「フィン、落ち着くんだ。火花が出てるぞ。全くお前はディーのことになると・・・父上にそっくりなお前が我が家で一番父上に辛口なのが不思議でならないよ。」
オスカー兄上が笑うと、フンっとそっぽを向くフィン兄さま。意外とお口が悪いのね。
「ま、ともかく。」
オスカー兄上が腕組みをした。
「ここは悪いが君に頼むしかない、フィン。私は魔術はからっきしだからね。その他一切のことは私が請け負うから、君は母上と使い魔への魔術の維持、わが領域バーベンベルクの可能な限りの結界構築、そしてディーの魔力封印を頼めるかい?」
「やるしかないでしょう。母上と使い魔は、父上が保護しさえすれば問題ありません。長くて一日半と言ったところかと。結界は、まあ、父上くそおやじがやる気になるまでの時間稼ぎですから、ムニン記憶に手伝わせて、二日か三日・・・。起動装置はあるので、何とか。」
「そうか、悪いな。」
「いいえ・・・兄上こそ、父上くそおやじのせいでうちバーベンベルクに謀反の嫌疑がかかるなんて、はた迷惑な・・・無理はしないでください。」
「任せろ。そこは次期辺境伯として何とかするさ。」
「ただ・・・問題はディーです。思ってたより許容量が大きい。今は軽く魔力酔いを起こしている程度ですが・・・。」
「まずいのか?」
「ええ。言わば初めてお酒を飲んだら、いくらでも飲めてしまっているのが今のディーです。飲めるからと言って酔わないわけでは無い。酒に飲まれる危険も高いでしょう。魔力も同じです。身体がまだ小さいし、自制も効かない。一方で魔力の許容量は僕よりも多い。このまま魔力を取り込み続けると、万が一感情が昂った時、、簡単に溜め込んだ魔力を感情のままに解放してしまうでしょう。」
「・・・どれくらいの規模か、予測できるか?」
「その時溜めている量と、感情の振り幅で違ってくるのでなんとも・・・少なくとも、城に何らかの被害が起きるくらいは。」
「おい、それ・・・まずいだろ。」
「分かってます。母上たちと結界を何とかしたら、きちんと手を打ちます。とりあえずは三日もたせないと。」
グッと手を握り締めるとフワッと内側から光が漏れる。広げると小さな腕輪があった。
「僕が使っていたもので、魔力を取り込まないよう術式が組み込んであります。ディーと僕は兄妹なので魔力の質も似ている。少し手直しもしましたし、当座はこれで凌ぎましょう。」

二人の兄にちょいちょいと手招きされてにこにこ近づく。
「ディー、小さな魔術師さん。魔力の発現おめでとう。」
オスカー兄上が少しかがむと私の手を取って、正式な貴婦人への礼をして、指先に口づけた。
「兄上・・・」
ちょっと照れてしまう。視線をうろうろさせるとフィン兄さまと目が合った。ちょっと怖い顔してオスカー兄上を見てる。
でも、私の視線に気づくとにっこり笑って抱きしめてくれた。
「これで君もと同じ魔術師の卵だね。」
兄さまと一緒。嬉しいな。
「でも、魔力を使うのはしばらくお預けだよ。父さまも母さまもいない今、僕も君の訓練に付き合ってあげられない。魔力は、使い方を間違えると危ないんだ。父さまと母さまが戻って落ち着いたら、が少しづつ教えてあげるから、それまで待ってね。」
そんな・・・。
「お空を飛ぶのもダメ?」
「うん。その代わり、教えてあげられるようになったら、僕の秘密の場所に連れて行ってあげる。」
「・・・分かった。」
いい子だね、約束だよ。そう言うと、フィン兄さまは手のひらに乗せた綺麗な腕輪をはめてくれた。私の手首には少し緩かったそれは、つけるとぼうっと光り、すっと縮んでぴったりの大きさになった。
あら、何だか変な感じ。さっきから身体に流れ込んでいた気持ちのいい何か、、、きっとこれが魔力ね、が、入ってっこなくなっちゃった?ううん、少しずつは流れ込んできてるけど。

「ディー、とてもよく似合ってるよ。これはからのプレゼント。兄さまもディーくらいの時に付けていたんだ。これで魔力を抑えておこうね。」
、、、うん、約束、したもんね。
「はい、兄さま。兄さまと一緒、うれしい。お空を飛ぶのも我慢するから。その代わり、なるべく早く飛ぶ練習してね。」
にこっとすると、フィン兄さまはグフッと変な声を出してむせた。
オスカー兄上に背中をさすってもらってる。
「ディーの笑顔が可愛すぎて辛い・・・」
「お前なあ・・・実の妹だぞ。3歳の。私は父上よりお前が心配だよ。」

オスカー兄上が心配するなんて、フィン兄さま、大丈夫かな?私が見上げていると、ちょっと咳払いしたフィン兄さまが、今度は真面目な顔をした。
「そう言えば、ディー。こんな夜中にベッドを抜け出して、アンナは知ってるの?」

ふえーん、忘れてたよう!アンナ怖い!
涙目になった私に、フィン兄さまは目元を和らげた。
「僕も、オスカー兄上も、可愛い君が叱られるのを見たいわけじゃない。気づかれる前に早くベッドに入って休みなさい。僕が連れて行ってあげるから。腕輪の事も僕たちがアンナに上手く話してあげる。だから・・・魔力のことはまだ3人の秘密だよ。ルーにも内緒にね。」
私がこくりとうなずくと、フィン兄さまは、私を抱き上げて額にチュッと口づけてくれた。途端にふわ~っと眠くなる。
「オスカー兄上、フィン兄さま、約束します。ディーは内緒にしま、す・・・。」すぅーっと意識が遠のいていく。
「眠りの魔法か?」
「ええ。お休み、ディー。」
最後に聞こえてきたのは、兄上達のそんなやさしい声だった。
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