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思惑

金村の思惑Ⅱ

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「これは……改めて殯宮からお越しいただきました事を深く感謝申し上げます。」
金村の部屋に案内されると、人払いの上、対面に案内された、が、金村は手白香の姿を見て、現状に思い至ったようだ。
直ぐに本題には入らず、殯宮の事を聞いて来た。
「後先になり申し訳もございませぬが、あちらでのご不自由などは?」
「本当に。昨夜お会いした時に聞きたかったですわ、そのお言葉。とは言え、殯宮というのは、今は亡き大王を偲び、御霊を慰め暮らすところ。不自由は当然の事です。大連にご配慮頂くとすれば、先の大王の御霊がご心配のあまり惑わされぬよう、政から切り離した静かな暮らしをお守り頂くことでしょうか。」
穏やかに、しかしはっきりと、昨夜の話は今の自分には迷惑だと突き放せば、いつも冷静な金村が少し目を見開いた。
「まこと、手白香様は賢きお方で御座いますな。先の大王も聡明さは倭国並び無きお方でしたが……御身体が弱かったことが真に、真に残念でございました。」
最後はしんみりと話し終える。
「本当に、あれだけ気をつけたのに、生来の質はどうしようもありませんでした。まだ二十歳にもなっていなかったのに。」
金村は弟の即位に伴い大連になった。思い入れも一入ひとしおなのだろう。そう思ってつい手白香もしんみりすると。
「しかし、短くはあっても、私などには羨ましくもありました。お好きな方に我が儘を通され、至尊の位に就かれ、最後まで大事にされ、最期は真に嫌なものを見ずに逝かれる。あの方らしいと言えば実にあの方らしい。」
今度は苦笑する。
「あら……」
手白香は驚いた。この、そろそろ三十路を越えようかと言う男の笑った顔を、そう言えば見たことが無かったことに気がついたのだ。
思わずまじまじと見てしまうと、金村は目敏く気付いたらしい。
「ああ、手白香様を前に失礼致しました。」と軽く頭を下げた。
「いいえ、私こそ不躾でした。」
言いつつも、驚きを隠せないでいると、金村はそのまま、ぎこちない笑みを浮かべて手白香を見た。
「先の大王は御生まれから存じ上げておりましたので、お仕えする我が君であると共に、何処か兄のような心持ちでおりました。ですから、あの方の我が儘も、年の離れた弟に甘えられている様な気になって、ついつい聞いてしまっておりました。」
「そうだったのですね。確かに、あの子は甘え上手でしたから。」
「手白香様にはお分かり頂けると思っておりました……だからでしょうか。」
独り言のように言葉を継ぐ。
「私も、自分の我が儘を少し、通してみたくなったのです。」
「?私も、何ですか?」
聞き取れなくて聞き返すと。
ハッとしたように瞬いて、金村は表情を改めた。どうやら昔語りの時間は終わったらしい。
手白香も心の中で気を引き締めた。
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