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思惑
手白香の思惑Ⅲ
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「それは……」
手白香は口ごもった。存念はある。話しながらいろいろな事を考えていた。だが、、、。
逡巡する手白香に、磐井は、では、と言葉を継いだ。
「質問を致します。御心を隠さずお答えくださいますか?」
「……否とは言えないんでしょう?」
拗ねたような手白香の答えに、磐井は微かに微笑んだ。
「ヲホドの妻問いを受けたいですか?」
「嫌。」
「このままだと恐らくヲホドは大王になります。大后の地位が約束されていてもお嫌ですか?」
「嫌よ。」
「では、大伴大連様にはお断りになると?」
「……」
「質問を替えましょう。迷われるのは、自分が断ったら妹様方へ話が行くからですか?」
「……ええ」
「もし他の大王候補が現れたら、例えばヲホドではなくその息子が候補となったら、嫌がらずに妻問いを受けますか?」
「……嫌、だけど……」
「だけど?」
「そうね、ヲホドほど年寄りではなく、未だ妃を迎えていない者であれば……」
「受けると?」
「……」言葉は無く、手白香は黙ってこくりと頷いた。
「見知らぬ者でも?」
「仕方ないでしょう。皇女の義務と言うものがあるわ。」
「年寄りの妻問いを受ければ、相手は早くいなくなるとも考えられます。もし男皇子を授かっていれば、皇女様は大后経験者として、皇子の後見になれる。」
女でも力を持てますよ。磐井がそう言うと、手白香は眉を顰めた。
「力は望んではいないの。ただ、他の夫人と争ったり、夫を憎んだりしたくない。叶うならば、血を繋ぐ皇女ではなく、手白香を求める者と、穏やかに、静かに暮らせれば……」
「どなたか他に妻問いをされてはいませんか?その方に助けていただくことは出来ないのですか?」
「??長年私を求める妻問いを断って来たのは若雀と貴方でしょう?」
首を傾げる手白香に、内心申し訳なさで一杯になりながら、磐井は表情を変えることなく続けた。後、少し。
「では、皇女様が心を寄せる方はいないのですか?その方に助けを求めては?」
「それは……無理よ。」
「無理とは?」
「相手は私の心を知らな……」
お互いを知る期間は長くとも、手白香も磐井も、お互いの先のことについて話をした事は無い。考えるままにぽつぽつと言葉を重ねた手白香は、ハッとすると、口を噤んだ。
「皇女様?」
「もういいでしょう?磐井。一族に男が居ない以上、私に味方はいないのよ。血の薄い大王を豪族が受け入れないと言うならば、何をどう望んでも、所詮私は政の道具とならざるを得ない。私が拒めばまだ稚い妹にその責が移るだけ。私は合議で決まった相手を大王家の一員とするために、妻問いを受けるだけの者なの。」
うっかり想いを口にしそうになった手白香はやや強い口調で話を終えようとした。これ以上は危険だ。思いを口にした途端、矜持を忘れ取りすがってしまうかも知れない。
それは、地方の豪族であり、大和との繋がりが必要なだけの磐井に取って、迷惑以外の何物でもないだろう。
敬意を失い、憐れまれるくらいなら、何も言わず去った方が良い。
そう思い定めた手白香が話を切り上げようとした時。
「では、私が妻問いをしたら、受けて頼っていただけますか?」
磐井が、真っすぐに手白香を見ながら、そう、言った。
手白香は口ごもった。存念はある。話しながらいろいろな事を考えていた。だが、、、。
逡巡する手白香に、磐井は、では、と言葉を継いだ。
「質問を致します。御心を隠さずお答えくださいますか?」
「……否とは言えないんでしょう?」
拗ねたような手白香の答えに、磐井は微かに微笑んだ。
「ヲホドの妻問いを受けたいですか?」
「嫌。」
「このままだと恐らくヲホドは大王になります。大后の地位が約束されていてもお嫌ですか?」
「嫌よ。」
「では、大伴大連様にはお断りになると?」
「……」
「質問を替えましょう。迷われるのは、自分が断ったら妹様方へ話が行くからですか?」
「……ええ」
「もし他の大王候補が現れたら、例えばヲホドではなくその息子が候補となったら、嫌がらずに妻問いを受けますか?」
「……嫌、だけど……」
「だけど?」
「そうね、ヲホドほど年寄りではなく、未だ妃を迎えていない者であれば……」
「受けると?」
「……」言葉は無く、手白香は黙ってこくりと頷いた。
「見知らぬ者でも?」
「仕方ないでしょう。皇女の義務と言うものがあるわ。」
「年寄りの妻問いを受ければ、相手は早くいなくなるとも考えられます。もし男皇子を授かっていれば、皇女様は大后経験者として、皇子の後見になれる。」
女でも力を持てますよ。磐井がそう言うと、手白香は眉を顰めた。
「力は望んではいないの。ただ、他の夫人と争ったり、夫を憎んだりしたくない。叶うならば、血を繋ぐ皇女ではなく、手白香を求める者と、穏やかに、静かに暮らせれば……」
「どなたか他に妻問いをされてはいませんか?その方に助けていただくことは出来ないのですか?」
「??長年私を求める妻問いを断って来たのは若雀と貴方でしょう?」
首を傾げる手白香に、内心申し訳なさで一杯になりながら、磐井は表情を変えることなく続けた。後、少し。
「では、皇女様が心を寄せる方はいないのですか?その方に助けを求めては?」
「それは……無理よ。」
「無理とは?」
「相手は私の心を知らな……」
お互いを知る期間は長くとも、手白香も磐井も、お互いの先のことについて話をした事は無い。考えるままにぽつぽつと言葉を重ねた手白香は、ハッとすると、口を噤んだ。
「皇女様?」
「もういいでしょう?磐井。一族に男が居ない以上、私に味方はいないのよ。血の薄い大王を豪族が受け入れないと言うならば、何をどう望んでも、所詮私は政の道具とならざるを得ない。私が拒めばまだ稚い妹にその責が移るだけ。私は合議で決まった相手を大王家の一員とするために、妻問いを受けるだけの者なの。」
うっかり想いを口にしそうになった手白香はやや強い口調で話を終えようとした。これ以上は危険だ。思いを口にした途端、矜持を忘れ取りすがってしまうかも知れない。
それは、地方の豪族であり、大和との繋がりが必要なだけの磐井に取って、迷惑以外の何物でもないだろう。
敬意を失い、憐れまれるくらいなら、何も言わず去った方が良い。
そう思い定めた手白香が話を切り上げようとした時。
「では、私が妻問いをしたら、受けて頼っていただけますか?」
磐井が、真っすぐに手白香を見ながら、そう、言った。
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