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三章 天使VSサイコパス編

やっぱり勇者一行は理不尽だ!

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 影斬で手を作りクッション代わりに――――――できるなら苦労はしない。
 所詮影斬は攻撃系スキルであり、あの勢いで落ちたら死ぬ。
 まぁ運良く木の枝で勢いが殺されて生き残ったわけだが。

「俺、今死んでた可能性あるんだよな」

 マジで危なかった。
 本当に今回はどうしよもない。
 パラシュート無しスカイダイビングなんて次はごめんだ。

「さて、ここが一体どういうところなのだろうか」

 思い出したが、影斬は勇者恭哉の世界を壊せたが、ジンタンの世界は壊せるのだろうか?
 俺は手を前に翳してみる。
 影斬を発動させてみるが、どうやって空間を壊したんだっけか?

「ダメだな。あのときはたまたまうまくいったんだ。でも――――――」

 最悪フクロウ擬きを殺しても無理矢理この世界からでれる可能性が生まれた。
 なら遠慮は要らないか?
 いや壊せるとは限らない。
 それに脱出が早くなることはたしかだしな。

「ホーッホホホホホ!」

 色んな箇所から声が響いてくるな。
 次には頬が熱くなる。
 手で触ると血が出ていた。
 これは鋼の翼か!?
 俺はすぐにこの場から離脱する。

「夜目が利くんだとしたら、たしかにこの夜の森林はあいつにとって常に有利な状況になれる場所か」

 まさにフィールドのアドバンテージを活かした攻撃。
 影斬で翼が飛んできた方向に、影を飛ばす。
 さすがに単純だったか?

「甘いわねぇ。このフィールドに来て脱出できたモノはメモリ様ただ一人。そしてこのフィールドでわたくしに勝てた人は0よ」

 0ねぇ。
 たしかにここまで有利な状況なんて、早々作れるもんじゃない。
 逆も然り。
 ここまで不利な状況は生まれて初めてだな。

「まぁ知らねぇけどな!俺が第一号になってやるよ。初めてもらってやるよ!」

「あらごめんなさいね。わたしは夫がいるから初めては捧げているのよ」

 要らない情報をどうもありがとう。
 年寄りの貞操なんて、日本の政治家選挙並みにどうでもいい。
 それにしても姿が見えないのがここまで不安になるとは。

「本来なら今ので死んでるんだけどね。誇っていいわよ」

「悪いな。俺はここから脱出するし、お前等も殺す。そして道々と天寿全うしてやるよ。お前等みたいな勇者の屍で、飯を食って生きてやるよ」

 あぁこんなこと言ってる俺はろくな死に方しないだろうな。
 だからどうだって事は無いけどな。
 もう俺は元の普通の生き方なんてできない。
 普通の生き方を装うことはできるけど。
 根本は人殺しを楽しむ思考になっちまった。

「自虐か。今更だな」

「何を言ってるの?」

「なんでもないさ!」

 余計なことは考えない。
 今はこのフクロウを捕らえてここから脱出することだけを考える。

「知ってるかしら?フクロウは他の猛禽類との捕食競争をしたくないための夜行性なのよ。だからフクロウはネズミのように弱いから夜行性なわけじゃないのよ」

 うん。
 今その情報すごくどうでもいい。
 灯りがつけられたら話は変わるんだけどな。

「そうか。別に灯りをつけなくてもいいんだ。俺はこっちにきて最初死にかけた所為で、俺の真骨頂を忘れいてた」

 それは夜はどの範囲でも、影斬ができるってことだ。
 俺は両手を交差させてしゃがみ込み、影の球体を作る。
 そして世界全体に影斬を使用する。
 SPをかなり持って行かれたけど、これでどうだ?

「これに賭けてたのかしら?でも残念♪予測済みよ」

「くっ!」

 破壊の翼というスキルを最大限に活かした回避方法。
 翼自体で防いだ。
 防御にも使えますよってか!
 フクロウ擬きが俺の方へ高速移動してくる。
 まっずい。

「あらぁ避けないでくれるかしら」

 バカ言え!
 あんな力のこもった蹴りを避けないなんて、死ねって言ってるのと同じだぞ。

「フクロウの足の力は強いと聞くけどどうなんだろうな」

「ホーッホホ!もちろん今のを直撃していたら、頭を吹き飛ばしていたわよ」

 だよな。
 今回ばかりはもうどうしよもない。
 どうすればいいんだろうな。
 俺は勇者じゃ無い。
 こういうとき勇者なら、不思議な力でどうにかするんだろうけどな。
 そんなご都合展開、俺にあるはずもない。
 切り札を一つ残しているけどな。

「ここで使うところじゃないだろ」

「なにをかしら?」

「さぁな。影斬、来い」

 俺は影で大きな扇風機を生成。
 さぁこれでどうなるか。
 これが実際に生きている森だとしたらいけるはずだ。

「何をする気かしら?」

「教えてやる義理はないだろう」

「そうね。なにかしようとしているのはたしかだから、さっさと殺しましょう」

 破壊の翼か。
 だけどもうおせぇ!
 扇風機を回転させ始める。
 ――――――チリッ
 よしきた!

「なに!?」

「知ってるか?人間が関与しないで起きる山火事って言うのは、枯れ葉同士が風で擦れ合って発生する熱で起きるらしいぜ」

 そうさ。
 俺は今、山火事を起こした。
 なんで山火事を起こしたかって?
 灯りが欲しかった。
 いくら影斬がどこまで伸びると言っても捕らえられなければ意味は無い。
 そしてあわよくばこいつの目を潰せれば御の字だな。

「ならばその前に貴方を殺しましょう」

「時間稼ぎはされちまったからな。なるべく早く出たいところだ」

 燃え始めたことにより、フクロウ擬きの姿を捕らえる。
 驚いた。
 顔がもの凄く歪んでいる。
 さすがは魔天王序列Ⅰ位だな。
 顔が怖い。
 ラスボス感あるわ。

「アハハハ!さっきまではやっぱり余裕をかましてたんじゃねぇか!なんだかんだ言っても有利だったもんな」

「灯りを手に入れた程度で、調子にのらないことよ!」

 調子に乗ってないさ。
 俺は駆け出す。
 結局生け捕らないと始まらない。
 たかが有利になった程度じゃこいつの二の舞だ。
 こいつの持ってるスキルはもうすべて出し尽くした。
 警戒するは・・・

「どうだっていいことは嘘だって吐いたところで、もう戻れない。隠して仕舞い込んだ」

 そう、魔法だ。
 異世界特有の魔法。
 スキルを使えるような身体にはされたけど、魔法が使えるかどうかはまた別の話。
 宮崎瑠璃みたいのは例外だ。
 この世界の人間は基本的に魔法を使えない。

「なんの冗談か目を擦れ。踊れ踊れ踊れ」

 フクロウ擬きの周りから風が生まれる。
 それだけ?
 いやありえないな。
 これだけ長い詠唱をしたんだ。
 もっと大規模なことが起こっても不思議では無い。

「認めた者にしか見せないのよこの姿。これがわたくしの全力よぉ」

 炎が引火して、熱風が巻き起こった。
 このタイミングで覚醒か?
 やっと活路を見つけた俺に対しての当てつけか?
 っざけんな!

「さぁ始めましょう。序列1位、逆境不知のジンタン。お相手致しましょう」

 現れたのは妙齢の女性。
 色っぽいがどこか、畏れを感じるその姿に一瞬目を奪われる。
 しかしステータスを視た瞬間、俺は恐怖を覚えた。
 それは彼女の強さでは無い。
 いやもちろん彼女の強さもあるが――――――。

――――――――――――
名前 ジンタン 74歳

ジョブ 魔天王序列1位

状態:魔神

レベル 200

HP 468754/468754
SP 15784358/15784358
筋力 5412454124
俊敏 45468744546874
技量 7982579825

スキル
現在使用不可
――――――――――――

 これで、魔王のだ?
 じゃあ魔王は一体どれだけ強いんだ。
 そしてそんな魔王を倒した勇者は?
 想定外だ。
 強いと言っても勇者恭哉くらいだと思って居た。
 いやもしかしたら、奥の手を使ったからかもしれない。

「この化け物フクロウ」

「褒め言葉ね。わたしの世界でもよく言われたわ。この姿になるとね」

 つまり、制約はないと。
 精々あるとしても一日しか使えない程度か?
 どちらにして早く現実に戻らなきゃいけなくもなった。
 もし魔王とあの巨人女がこれより強いとしたら、人手不足だ。
 まぁもっとも、俺がこいつに殺される可能性がかなり高くなってるんだけどな。

「どうして俺はいつも理不尽に見舞われるのかねぇ」

「悪役の務めでしょ」

 うるせぇ。
 あんたも悪役ポジションだろうが!
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