神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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70.アダムとエイダム

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 アイスランド、地下。薄暗い空間に蝋燭が2本ある。


「ヘパよ!いるのよね?出てきなさい!」


「これはこれは。イヴ様でしたか」


 髭をへそあたりまで伸ばした老人はヘパイストス。
 オリュンポス十二神の一柱で、鍛冶の神をやっている。
 またブレードの制作者でもあり、先日帝都にいきなり発生したエネルギー源について、問いただしにきたのだ。


「ご託はいいわ。あなた、ブレードを一体何のために作ったのかしら?」


「これまた単刀直入に聞きますね。強いて言うならば、ファースト様の復活・・・でしょうか?」


 今にも殴りかかりそうになるが、踏みとどまる。
 創造神ファースト。アダムやイヴを生み出した神だ。
 そんな命がけで倒した邪神クズを復活させようと言うのだ。
 イヴじゃなくても怒りたくなる。


「ふざけていっているのかしら?ふざけてないんでしょうね。貴方の狂信者っぷりは異常ですもの」


 ヘパイストスは自分が崇める神、ファーストを倒したイヴですら、ファーストが生み出した者達として友好的に接している。
 他のオリュンポス十二神のほとんどが、イヴや叛逆の七神達を恨んでいると言うのにだ。


「ふぉっふぉっふぉ。ファースト様が蘇った暁には、戦争は無くなりますよ。なにせ封印を施して下さるでしょうから」


「ふざけないで!今すぐその研究を中止し・・・なにこれ?」


 研究を中止しなさい。
 そう言おうとしたイヴだったが、突如上からの高エネルギー反応に言葉を呑み込む。


「ふぉー。今日は早いですな。ふぉっふぉっふぉ。儂はお暇させていただきましょう。夫婦水入らずで楽しんでくだされ」


「一体どういうこと!?」


 もうそこにはヘパイストスはいなかった。
 そして天井が破れる。


「嘘・・・貴方・・・アダム?」


 イヴがみたのは白銀の青年。懐かしい思い人。
 愛しの相手アダムだった。


「よかった。アダム暴走は解けたのね」


「はぁ。またヘパイストスはエヴァの複製体を作ったのか」


 エヴァ?聞き覚えのない名前を口にするアダムに困惑する。


「エヴァ?一体何を言ってるの?わたしはイヴよ?」


「イヴ?複製体じゃないのか?我の名前はエイダムだ」


 絶句するイヴ。
 アダムじゃなかった。
 見た目はそっくりなのに他人のそら似だと。


「ごめんなさいね。人違いだったわ」


「我も済まない。連日ここに住む神、ヘパイストスが我の思い人エヴァの複製体を作っていて処分していたのだ。そのエヴァに君がそっくりだったものでね」


 イヴに似ている思い人。
 何から何まで似ている。


「そう。ヘパを知ってるって事は貴方神族かしら?彼は人とは関わろうとしないし」


 目の前の青年は神族だと半ば確信していた。
 ただ自分より強いエネルギーだったので質問しただけだったが、信じられない言葉を聞く。


「そうだ。我は昔ヘパイストスに拾われた。かつては敵だったのだけれどな。あいつには感謝している」


 敵だったと、そう言ったのだ。
 だとしたら暴走の影響で記憶が混濁してるのではないか?
 そう思ったイヴは自分自身のことを言ってみる。


「奇遇ね。私も彼とは敵だったの。叛逆の七神と呼ばれたイヴよ。地獄の管理者、閻魔をやっているわ」


 アダムの眉がピクリと動く。


「今なんと言った?」


 これはアダムの可能性が出てきた。
 きっと記憶喪失なんだ。そう思うイヴ。


「地獄の管理者えん・・・」


 いきなりアダムはイヴを蹴り飛ばし、地上に持って行く。
 イヴは驚きの余り、地上に倒れ込むまで自分の状況を把握できていなかった。


「ヘパイストス。これは質が悪い。今回の複製体は我の気に障ることを言うように作ったな」


「ゴホッゴホッ。エイダム、一体いきなりなにをするのかしら?」


「貴様が、大嘘を口にするからだ。地獄の管理者閻魔は、エヴァのことだ。エヴァは死んだ。創造神と一緒に相討ちとなったんだ。我の思い人を愚弄したこと、例え複製体で記憶を植え付けられたとはいえ、許さんぞ」


 決まりだった。彼はアダム。
 そしてエヴァはイヴだ。
 記憶が混濁しているからどうにかして本物だと伝えなければ。


「あなたは記憶が混濁しているのよ。思い出してアダム。わたしよ、イヴよ」


「記憶が混濁しているのは貴様だ。生まれた不幸だ。せめてひと思いに殺してやるから安心しろ。磨崖なりにも顔はエヴァそのものだ」


 イヴの話を聞こうとしないエイダム。
 内心ヘパイストスに舌打ちしながら、交戦状態に入る。
 イヴは初手から全力で”鳴神”を使用した。
 イヴは昔アダムに何度も鳴神を喰らわせていた。
 それはアダムが鳴神を喰らっても死なないからだ。
 普通の人間が直撃すれば、鳴神はただじゃ済まない。


「エヴァと同じ技を使う。いくら同じ顔でもイライラするぞ」


「わたしは貴方の思い人よ!ねぇ思い出してよアダム!」


 鳴神を全力で打ち込むイヴ。
 右手を鳴神に向けるエイダムだが、回避以外は和澄のように避雷針にならなければ意味が無い。
 しかしエイダムは無傷だった。
 しびれることもなく、周りに焦げあとすら残さなかった。 

「くっ!どういうことかしら?貴方はいつも鳴神を喰らってしびれさせていたはずなんだけど。いくら何でも無傷ってどういうことかしら!」


「これは”拒絶リ・ジェクション”。全属性を持つ者だけが使用できる。エヴァのおかげで我は手に入れたのだ。我に触れれると思うな」


 そしてエイダムは手を上に掲げる。


「来い!レーヴァテイン!」


 エイダムがそう叫ぶと黒と赤の大剣がエイダムの手に収まる。
 そして何かを発したあと、白い竜巻が発生する。
 そして白い竜巻が止んだあと、白いロングコートを着たアダムが現れた。


「嘘・・・なにこれ・・・この前よりも強大な・・・」


 イヴは無意識に身体を震わせていた。
 余りの膨大すぎるエネルギーに久しく忘れていた恐怖を思い出したのだ。


「いくぞ、エヴァの複製体!」


 エイダムは大きく跳躍して近づこうとする。
 イヴは魔眼を<解析アナライズ>に切り替え、剣の能力を解析する。


「くぅっ。痛っ!なにこれ!」


 解析しようとするイヴは、目に痛みを感じてやめる。
 わかったのはこれが帝国の武器のブレードと同じということ。


「さらばだ。エヴァの複製体よ」


「舐めないで!」


 近づいて斬りかかろうとするエイダムに対して、臆すること無く左手を向ける。
 右目を<爆裂エクスプロージョン>左目を<氷 結フリーズン>に変える。


獄炎氷花フレイムブリザード!」


 もちろんイヴもこの攻撃でも傷ひとつ、つかないことはわかっている。
 しかし目的は目くらましである。
 攻撃が通じないんじゃどうしよもない。
 一旦退いて対処法を考えなければいけないと、離脱を試みるためだ。


「今回の複製体は魔眼まで再現しているのか?」


 違う本物よって叫びたいイヴだったが言葉を呑み込む
 イヴを見失っているエイダム。
 この期を逃せば離脱は不可能になる。


「まさかこの程度の目くらましで逃げ切れると思っているのか?」


 後ろから声がし、振り返るイヴ。
 右目の魔眼を<絶対防御アブソリューガード>、左目の魔眼を<絶対根性ウィズスタンド>に変える。


「我の魔眼は<完全パーフェクト未来視フューチャーアイ>。ある程度記憶があるのならわかるであろう?」


 イヴは知っていた。
 アダムの魔眼<完全未来視>はどこまでも先の未来を視ることができる。
 正しいデメリットで視た未来は変更できないというものがあった。
 なのでアダムは頻繁に能力は使用していなかったため、頭から抜け落ちていた。
 そしてそのことが致命的なミスになる。


「エヴァの偽者め!喰らえ」


 エイダムは身体を回転させ、イヴを思い切り蹴り飛ばす。


「お願いよ。話を聞いて。わたしは貴方の思い人なのよ!」


「ほぉ。我の”拒絶”で上乗せした蹴りを受けとめるか・・・だが」


 エイダムは最早イヴの言葉を聞く気は無かった。
 ただ偽物である複製体を処分。それしか頭になかった。
 威力の高い蹴りに、一度は受けとめたイヴだったが、思い切り吹き飛ばされた。


◇◆◇◆◇

 <絶対防御>で身体の丈夫さを上げて、<絶対根性>で痛いみに耐えて神属性で治療しきったイヴ。
 しかし状況は致命的だった。

「イヴさん!?」


「何故イヴ殿が!?」

 
 イヴは驚いていた。
 何故アイスランドであるここに、和澄やルナトがいるのか。
 すぐに冷静になり事態を把握する。


「嘘!?和澄達がいるってことは・・・ここ帝国!?一体アイスランドからどれだけ距離があると思って・・・」


 イヴは思わず口にするが、それどころではなかった。
 エイダムが高速でこの帝国に向かっていたからだ。


「和澄、逃げなさい。なるべく遠くへ。ヨシュアと祐樹だったかしら?二人がいるならちょうどいいわ。私の家でしばらく引きこもってなさい」


「いや、俺達も・・・」


「馬鹿!思い上がりもいいとこよ!あれは私でも勝てるかわからないわ」


 勝てるかどうかわからないといった。
 しかしイヴには確信があった。
 彼には勝てないと。


「来たわよ。ボケッとしてないでさっさと逃げなさい!」


 エイダムが着陸する。


「ねぇ!話を聞いて!お願いよ・・・・アダムゥ!!」


「我はエイダムと言っているだろう?まぁいい。この国に迷惑をかけるわけにはいかない。さっさと終わらせてもらう」


 そしてエイダムはイヴの首を切り落とすべく、レーヴァテインで斬りかかった。
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