神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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閑話:紅の女王の過去②

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 ここは・・・どこ?薄暗いなー。それにこれは硬いベッド?
 たしかはお父さんとお母さんとハワイに旅行にきてたはず。そこからたしか・・・ダメだ思い出せない。
 辺りを見渡すと他にもちらほらとワタシくらいの子供達が近くに居る。
 もしかして子供の交流場所?あれ?なんか少し頭が痛むな。


「イタタ・・・。おとーさーん。おかーさん。どこー?」


 お父さんとお母さんの返事はない。近くにはいないのかな?
 とりあえず迎えに来てくれるまで寝てよう。
 しばらくするとコツコツと靴の音がしてくる。誰かきたのか。お母さんはヒールを履かないし、お父さんもコツコツと音なる靴は履いてきてないはずだ。
 みれば周りの子も音のする方向をみていた。
 現れたのは小太りして煙草を吸っている男性と、すらっとしたメガネをかけたいかにも秘書みたいな女性だった。


「君たちぃ、ようこそ我が国アメリカへ」


 誰も反応しない。当たり前だ。ハワイはたしかにアメリカだよ。だけどここがアメリカかって言われると実感が湧かないのも事実だし。


「あれー反応がないなぁ、もう一度言うよ?ようこそ我が国アメ・・・」


「おい、おっさん!」


 黒髪の少年が小太りした男に掴みかかる。あれはおそらく日本語だ。家で日本のアニメを視るとたまに聞いた発音だった。あの人は日本人かな?日本語をしゃべれるわけでも聞き取れるわけでもないワタシは、彼が何を言ってるかまではわからない。


「俺はさっきまで日本にいたはずだ。どうしてここに連れてこられた?親父達の元へ帰せ!」


「あー君、彼が何を言ってるかわかるかい?」


「はい。要約すると、ここに居る理由がわからないから返せと言っております」


 どういうこと?ワタシ達はハワイにいて、親に預けられてここに居るんじゃないの?


「あーなるほどね。君、日本語話せたっけ?」


「はい、話せます」


「じゃあこう言って。君たちの親はもうこの世にはいない。だから帰すことはできないんだ」


 え?どういうこと?周りも騒ぎ出した。
 それは今小太りした男の胸ぐらを掴んでいる彼だけに言った言葉じゃないはず。
 女子が日本語で彼に何かを話す。そのまんまの言葉を伝えたのだろう。
 彼は怒り狂って小太りした男に殴りかかった。


――――ボキッ!


 彼の右腕はあらぬ方向に曲がっていた。彼はしばらくして叫び声を上げる。


「急に殴りかかるとは何事かね。うーん君はこの実験中に問題になるかもしれんの。おい、殺せ」


 え、今、殺せって言った?すると女性は懐からナイフのような物を取り出し、彼の首を斬りつける。彼は首から血飛沫をあげて倒れ込んだ。


「キャ、キャー!」


「う、うわぁぁぁぁあ。俺達も殺される。早く逃げなきゃ」


「君たち動いたら殺すから、覚悟のある奴だけ逃げ出せい」


 全員逃げることをやめた。恐怖から何もできなくなったからだ。ワタシも腰が抜けて動けずにいた。


「いいこだな。さて先ほども話したが君たちの親はもうこの世にはいない。君たちのことは彼ら彼女らから任されているんだ」


 そういうと暗かった辺りが明るくなる。周りを見渡すが白い部屋だった。嫌な感じだ。何かの実験室を想起するような部屋だ。


「君たちにはこれから注射を受けてもらうよ。先ほどは殺すと脅してすまなかったね。君たちは不治の病の感染症にかかってるからこれ以上広げたくなかったんだ。それで君たちの親も病気で亡くなった。けれど子供の病気の進行は遅いらしくってね。この注射器の中にある薬品は症状を和らげる薬なんだ」


 小太りした男はなにか説明をしている。しかしワタシの耳には入ってこなかった。
 そしてお父さんとお母さんがもう死んでしまったと思うと涙が溢れてきた。
 もうお母さんの温かい料理は食べれないんだ。もうお父さんのゴツゴツとした手で抱きしめられることはないんだ。そう思うと涙が止まらなくなった。


「これも治療の一環だからね。痛いのは一瞬だけだからね。これから毎日この注射を受けてもらうからね」


 そうして全員注射を受けていく。このときワタシ達は彼らの言葉を疑わなかった。


◇◆◇◆◇


 ここにきてから二ヶ月が経った。二ヶ月も経つと自分の状況にも受け入れて、各々グループができていた。


「すげぇだろ?俺もうここまでできるようになったんだ」


 空中に浮かんでいる彼はそういった。名前はなんだったか覚えてない。ワタシはお父さんとお母さんを失ったショックで、トイレと食事の時間以外はベットに包まっていたからだ。監視員がいるので襲われると言った心配もないのでずっと寝ていた。


「おい、そこの赤髪の女!お前はどんな能力を手に入れたんだ?」


「・・・」


 ワタシは黒髪でお父さんとお母さんにも褒められて自慢だったのだけれど、感染症とかいうのの影響で赤髪になってしまった。そこの少年も感染症の影響で赤髪だ。更にどうやら魔眼以外の目には魔眼が発生するという特殊な感染症らしい。


「なんだよだんまりかよ」


 彼は元は魔眼を持っていなかったのだろう。ワタシは魔眼を持っていたから何の変化も感じられなかった。


「ワタシ元から魔眼持ってるから・・・」


「なんだ。お前魔眼もってたのか。よく目を見てなかったわ。つまんねぇの」


 そういうと少年はワタシに関心を持つのをやめた。ワタシはこんなことじゃダメだと、いつものようにトイレに行こうとする。
 すると監視員が閉め忘れたのか知らないけれどドアが開いていた。この時のワタシは感染症が伝染すると言うことを忘れていたのだろう。ドアの向こう側をみたくなってドアの向こう側に足を踏み込んだ。
 そこは資料室のようなものが広がっていた。ワタシは近くの棚にあった資料を出して覗いて見た。そこには驚く内容が書かれていた。

被験者No.1
 トゥーイ・マシェフ
血液型
 A型
魔眼
 <超念動力サイコキネシス
副作用
 一回使用毎に脳に異常発生。
処分予定日
 2085年 8月30日

 たしかこの名前はさっき空中に浮いていた少年の名前だった。それよりも脳に異常発生?それに処分予定日って何?


「なんなのこれ?」


 するとガタっと音がする。
 誰かが入って来たんだ。急いで隠れないと。
 ワタシは近くにあったロッカーに入り込んで息を殺す。


「あれー鍵を閉め忘れたのか?ん?なんでこれ散らかってるんだ?」


 まずい。さっきの資料をしまうのを忘れていた。


「あー来週処分のあいつの資料か。無意識に出してたんだな」


「おーいなにやってんだ?」


「いや鍵を閉め忘れたと思って観に来たら案の定閉め忘れててな。しかも資料が散らかしっぱなしだったから片付けてたところさ」


 よかった。片したし、勘違いをしたまま帰ってくれればいいのだけれど。


「なるほどなー。それにしてもあいつら能力を手に入れて楽しそうだな」


「ホント馬鹿だよな。あいつら自分の親が殺されたとも知らずによ」


 え?殺された?どういうこと?


「あぁ馬鹿な奴らだよ。親の敵達が目の前に居たのに何の疑いもせずにそんな奴らの言うことを信じるんだもんな」


 もしかして、お父さんとお母さんは殺された?この人達に?
 ワタシはこの人達が許せなくなった。それと同時に人を安易に信用することもできなくなった。


「俺達が開発した薬はA型にしか効かない。しかしこうも副作用が多いとなぁ」


「あのいつも寝ている少女。あれは魔眼を持っていただろう?どうだ?」


「あーあいつにも副作用がみられたよ。一分経たないくらいで二回能力を使用させたらな、なんと身体が若返ってることがわかったんだ」


 薬ってことはあの注射器の中身?もしかして感染症っていうのは嘘?
 それに寝ている少女ってワタシだよね?若返るって副作用なのかな?


「マジか?それは副作用でもなんでもないんじゃないか?」


「いんや使用しすぎて自分の年よりも何歳も若返ってしまうと死んでしまうぽいな。それに赤ん坊にまで若返ったら死と同意だろ?」


 たしかにその通りだ。でもそんな、副作用って。ワタシの身体に一体何をしたの!


「ちげぇねぇな。俺達は全世界の覇王になる男の最高の部下になるんだ。そんな副作用があったら全世界の貴族や首脳陣を刈り尽くせないぜ」


 え、この人達は何を言ってるの?世界の覇王ってどういうこと?
 ワタシは頭がパンクしそうだった。


「あの方、レオナルド=バレンタイン様の目的は世界の覇権を握ること。俺達はその礎になればとあのがきんちょ共に薬を差して実験してるんだ」


「まぁもうガタがきてるやつらは、殺処分だ。女は俺達で壊れるまで遊んでいいそうだぞ」


「マジかよ。うひょー今から楽しみで勃っちまうぜ」


 そういうと男の股間部分が膨らむ。こんなところで盛るな。ワタシ達は処分されるときは彼らの慰み者になって死ぬの?お父さんとお母さんを殺したような相手に?そんなの絶対に嫌!


 ――――ガタ!


 やってしまった。思わず音を立ててしまった。


「誰だ!今の話を聞かれたか」


「くそがっ!お前がドアを開けっぱなしにしてる所為だぞ」


「すまねぇ。とりあえずガキ共の誰かだった場合そいつは殺処分だ。開けるぞ」


 そういってワタシが隠れているロッカーの方へナイフを持って近づく二人。
 ワタシ殺されちゃうんだ。もうどうすることもできない。ワタシは覚悟を決めた。
 ロッカーのドアが開けられた。


「へへへっ。あの魔眼を持ったガキだ。おい喜べ。こいつを姦してたの・・・」


 そういうとその人は倒れこんだ。まぁワタシが彼が持っていたナイフを奪って首を斬り落としたんだけどね。
 そうワタシが決めた覚悟は彼らを殺すこと。殺人が罪だって言うことはわかってる。けれどもそうするしか生き残るすべがないんだ。仕方がないことなんだ。


「このガキっ!クソがぁ!」


 そういうともう一人の男もワタシに襲いかかってくる。ワタシはナイフで刺されたのだろうか?おそらくそうなんだろうね。刺された記憶があるのに、その男を刺しているんだから。
 実はワタシの能力は過去の記憶を変える能力から、過去そのものを変える能力に変わっていた。それに気づいたのは実験をさせられているとき。
 コイントスをさせられて裏が出てたのだけれどそれを見ると表になっていた。その時は失敗して自分にかけてしまったのだと思った。けれど違った。
 今この能力に確信が持てた。咄嗟に動けなくて刺された記憶は残っているのに逆にワタシは刺しているのはそういうことだろう。


「あなた達をワタシは許さない。こんな魔眼を押しつけたのも、おとーさんとおかーさんを殺したことも」


 絶対に許さない。帰ったら軍学校に入ろう。ワタシはあの豚の夢である、世界の覇権を絶対に阻止してやる。復讐して殺すとまでは言わないんだ。まだいいだろう。
 そして近くにある資料を漁る。できるだけこの資料をもってここから脱出しないと。
 漁ってると近くに髪留めを見つける。なんか知らないけど持った。すると光だして近くにあった箱も光り出した。開けてみると一本の針が入っていた。


「なにこれ?」


 念じて起動してみろ。そう言われた気がしたので念じた。すると針は大きくなった。ワタシの腕の長さくらいに。まるで剣だ。おっとそんなことよりもこの資料を持ってく鞄を探さないと。
 そしてワタシは殺した片方の相手から鞄を奪い、大量にあった資料を詰めるだけ詰めて施設を脱出した。
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